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64話 逃亡の日々

 朝飯を食べ終わってからも俺達はお互いの事を話し続けた。


 研究所が閉鎖になった時のこと。


 その後の放浪の毎日のこと。


「半年ごとに住む場所を変えてね…… 船や飛行機は使わずに、それこそ日本全国移り住んだかな 」


 その後、彼女達はほとぼりが冷めた頃に山梨の徳間研究所跡に戻ってきたらしい。 灯台もと暗しとはよく言ったものだ。 だが電気や水道は使う訳にはいかず、研究所と言っても機器の稼働は出来ず寝るだけの母屋。 食料は近隣の街にテレポートして調達していたのだそうだ。


 俺とは違って本当に隠れ住む生活。 廃棄対象だった俺の方が幸せな生活を送れていたことに胸が痛くなる。


「お父さんが亡くなる一ヶ月くらい前にね、買い物に行った淳兄さんが帰って来なかったの。 探しに行っても見つからなくて…… 前から具合は良くなかったから多分…… ね 」


 遺体を見たわけじゃないからもしかしたらどこかで…… という願いは彼女にはない。 俺達の寿命や体の変化は、自身がよくわかっているのだ。


「もう一人の…… 」


「渚姉さんはお父さんを弔ってくるって言ったきり帰って来なかった。 ずっと研究所で待ってたんだけど、最後の言葉が『お前は飛島さんの所に行きなさい』って…… だから…… 」


 大粒の涙がテーブルに落ちた。 心中…… なんだよなきっと。 俺が想像出来ないくらいツラい経験をしているんだ……


「俺がいるから 」


 無意識にそう口にしていた。 こんな言葉じゃ薄っぺらいのはわかっているが、それしか頭にはなかった。 彼女の側に寄って、俯いて涙を溢す彼女の頭を引き寄せる。


「うわあぁ…… 」


 俺を抱き寄せて、子供のように大声で泣く姉を抱きしめる。 腹に響く彼女の声が切ない…… この人を一人にしないと決めた。




 泣き疲れてソファで眠った彼女にタオルケットをかけ、涙と鼻水でグシャグシャになった服を着替える。


  ピンポーン


 せっかく彼女が寝たのに! と、イラッとしながらインターホンに出ると、美紀と絵里の姿が画面に映し出された。


「は!? えっ! 」


 掛け時計を見るとまだ昼前。


 ー は!? じゃないよ春君! ドア開けてよ! ー


 こいつら…… サボりやがったな?


「おサボりになった方々は、今すぐ学校へお戻り下さ…… 」


 ー バカ言ってるんじゃないわよ! 授業なんて受けてる場合じゃないわよ! ー


 絵里、教育委員会が聞いたら怒られるぞ。 玄関ドアを叩き始めた絵里に慌ててドアを開けると、二人は俺を押し退けて家の中に入ってきた。


「やっと寝たんだ! 静かにしろって! 」


 二人は揃って両手で口を塞ぎ、揃って中里さんを覗き見る。


「…… 似てるねぇ 」


「春翔にお姉さんがいるってホントだったんだ…… 」


 そういや絵里には話してなかったっけ。


「でも急展開だね。 この前話してたばかりなのに 」


「ショッピングモールの事故をニュースで見て、もしかしたらと思ったんだとよ。 まあ話せば長くなるんだけど…… 」


「いいよ! お弁当も持ってきたし、絵里ちゃんもいいよね? あれ? 絵里ちゃん? 」


 絵里はじっと中里さんの顔を見つめていた。


「…… どうしたんだよ? 」


「なんでアンタの周りは、こうも美人ばかりなのよ 」


 え…… そこ?


「ちょっとやつれてるけど、元気になったらメッチャ美人だよ! 近江会長といい本條恵といいこの人といい…… この浮気者ぉ! 」


 絵里は俺の胸ぐらを掴んで締め上げてくる。 苦し……


「いや! 誰ともつきあってないし! 」


「うーん…… 」


 ほら見ろ! 中里さん起きちゃったじゃないか! ゆっくりと目を開けて起き上がった彼女に美紀が張り付いた。


「初めまして! 佐々木美紀と言います! お弁当食べます? 」


「ん? きゃー! 可愛いー! 」


「んぶ!? 」


 覚醒した中里さんは弁当箱ごと美紀をギュッと胸に抱く。 そいつ一応男ですよ?


「は…… 初めまして。 高坂絵里です 」


 警戒しながら挨拶する絵里に、中里さんはテレポートで目の前に跳ぶ。


「ふあっ!? 」


「中里美織です。 いつも弟がお世話になっております 」


 丁寧にお辞儀をしているが、問題はそこじゃない!


「やめてくれ中里さん。 チカラは見せ物じゃない 」


「ごめんなさい、つい…… 」


 これは先が思いやられる…… 中里さんにはしっかり自重してもらうよう言っておかねば。

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