65話 身なりを整えて
パチン シャクシャク
美紀の弁当を食べながら俺達と大方の話をした中里さんは今、絵里に髪を切ってもらっている。 徳間教授が亡くなった頃はショートだったという髪は背中の中心よりも伸び、これでも何度か自分でバッサリと切ったというから驚きだ。
「思い切りやっちゃって! 」
中里さんはお任せでバッサリと切ってほしいと頼み、絵里は要望通りに躊躇することなく切っていく。
「どうかな? 」
全体をミディアムボブでまとめ、襟足をシャギーで軽さを出したゆるふわが中里さんによく似合う。
「上手いな。 美容師になれるんじゃね? 」
「なかなかのもんでしょ? 」
絵里にこんな特技があるとは思わなかったな。 中里さんも姿見を見て右を向いたり左を向いたりして微笑み、満足している様子。
「こんなにまともに切ってもらったのは2年振りだなぁ…… ありがとう絵里ちゃん! 」
「いえいえ! また伸びたら言って下さい。 いつでも切りに来ますから 」
「2年振りって、美容室には行かなかったんですか? 」
「うん。 お父さんの貯金も残り少なかったし、キミをいつ見つけられるかもわからなかったからね。 わたし髪伸びるの早いし、美容室は高いから 」
彼女は一カ月で2センチ以上伸びると言う。 それはやはりクローンだからなのだろう。
「ハル君はそういうのない? 」
「言われてみれば、爪はよく伸びますね。 耳アカとかもごっそり取れますし 」
俺も例外ではないらしい。 ん? なんか中里さんと絵里の目がキランとしたのは気のせいか?
「それじゃ、次は買い物に行こうか! 」
美紀は二着しかない中里さんの服を買いに行こうと張り切っている。 お前、学校サボったのを忘れてないか?
「でもお金…… あまり残ってないよ 」
「じゃああたしのお古じゃダメかな? お姉さんの身長、あたしとあまり変わらないし 」
「お前、そんなに服持ってるのか? 」
「それがさぁ、最近入らなくなっちゃったのが多く…… って言わせるなバカ! 」
なんも言ってねぇよ。
「いやお前、最近スタイル…… 」
「聞きたくなーい! アンタのそのデリカシーないの嫌い! 」
絵里は中里さんの手を引いてリビングを出て行く。
「ちょっ! 」
「お風呂! 切りっぱなしじゃ髪の毛残ってるでしょ! 」
『スタイル良くなったな』と言おうと思っただけなのに。 女心ってわからねぇ……
「春君には褒め言葉を期待してないって事じゃないの? 」
美紀は俺達の様子がツボに入ったらしく、まだケラケラと笑っていた。
二人の風呂上がりを待って、今日は買い物をやめて絵里の自宅にお邪魔することにした。 美紀はそのまま家に帰り、俺は階段上の部屋の外で待機だ。
「春翔、いいよ入って 」
心なしか絵里の元気がない。 なんだ?
「似合う? 」
中里さんはオフショルダーのトップスにジーンズスカートを合わせ、くるりと一回転してみせる。 見違えた…… 男物のフードパーカーとジーンズ姿から大変身だ。
「ええ…… とても 」
「聞いてよ春翔! ブラウスもティーシャツもあたしのじゃ小さくて着れないんだよ! 」
「それって…… 」
「言うなバカー! あたしはまだ発展途上だ! 」
お前が聞けって言ったんじゃねぇか……
「ありがとう絵里ちゃん。 ホントに貰っちゃっていいの? 」
「あ…… はい! お腹とお尻がキツくて、もう履けないんで。 トップスもサイズ合わなくて少ないですけど 」
「ううん、大事にするね 」
絵里から貰ったのはジーンズ2本とスカート、ティーシャツは胸がキツいらしく、トレーナーとカーディガンの2枚だった。 今日は今着てる服で帰るという。
「お姉さん! 明日は下着を買いに行きましょう! 」
朝からショッピングモールへ繰り出す約束をして絵里の家を後にする。
「優しい子だね、絵里ちゃんって 」
「困ってる人をほっとけない奴なんですよ、昔から 」
中里さんは紙袋に入れて貰った服を嬉しそうに胸に抱き、俺の顔を覗き見る。
「それに、ハル君のことが大好きみたい 」
女同士ってやっぱりわかるもんなんだな。
「でもダメ。 ハル君はあげないんだから! 」
「えっ!? ちょっと中里さん! 」
「違う! 美織って言ったでしょ? 言うこと聞いてくれないとこの場で跳んじゃうよ? 」
くうぅ! そういう手でくるのかよ!
「…… 美織さん 」
「さんはいりませんー! はい、もう一度! 」
「美織! これでいいですか? 」
「敬語使ったからダメ。 はい、もう一度! 」
絶対楽しんでる!
「美織! いい加減にしてくれ! 」
「はい、よく出来ました! ふふっ! 」
今度は腕にべったりくっついてくる。 もう好きにしてくれ。
端から見たら仲のいい姉弟に見えるのだろうか。 俺達は肩を並べて、家までの道をゆっくりと歩いたのだった。




