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61話 中里美織

 そろそろ寝ようかと思った頃に、ゆかり先輩から電話がかかってきた。 日付が変わろうというのに何の用事だろうと出てみると、行方の分からなかった俺の姉が自宅にいると言う。


 ー 会うかどうかは春翔君の意見を聞いてからと思っていました。 突然の事でビックリしていると思いますが、どうしますか? ー


 どうしますかと言われても、断る権利は俺にあるんだろうか? 聞けば中里美織と名乗ったクローンは身なりはボロボロ、一緒にいた徳間教授は亡くなったらしいし。 最後の言葉に親父を訪ねなさいとあったから、彼女は全国を回ってここに辿り着いたのだ。


「会います。 中里さんもそれを願って来たんでしょうから 」


 ー はい。 あなたならそう言ってくれると思って、実はもう春翔君の自宅近くまで来ているんです ー


 確認いらないじゃないか。 スマホを耳に当てたまま窓の外を覗くと、1台のタクシーが家の前に停まっていたのだった。




 二人を家に上げてソファを勧め、地下に降りていた親父を呼ぶ。 階段に躓きながら慌ただしく上がってきた親父は、中里さんを見るなり今まで見たことがないくらい目を丸くしていた。


「美織くん! おお…… 」


「おじさん! 」


 親父が両手をいっぱいに広げると、彼女は泣きながら胸に飛び込んでいく。 年の差の恋愛ドラマさながらに抱き合い、お互いを本当に心配していたんだなと知る。


「随分成長してしまったな。 体も辛かろう? 」


「大丈夫! 逆に能力の制御がよく出来るようになったの。 お父さんは『すまない』って言ってたけど 」


 お父さんというのは徳間教授の事だろう。 彼女が一言喋る度に親父は相づちをうち、教授が亡くなった事を聞くと『そうか』と彼女の頭を撫でる。


(あつし)(なぎさ)は? 」


 彼女は俯いて首を横に振る。 話の流れ的に二人のクローンなんだろうけど、そうか…… どういう最期だったのかとは聞けなかった。


「ハル、お前の薬を分けてやれ。 美織くんに合わせて調合するのは少し時間がかかる 」


「あ、ああ…… 」


 自室に戻って言われた通り成長遅延薬を一粒彼女に手渡すと、彼女は何も疑いもせず服用する。


「ありがとう。 春翔君…… 春に翔ぶ…… か…… フフッ 」


「えっ? 」


「あっ、ゴメンね。 純一おじさんらしくない素敵な名前だなと思ってね。 あっ! 馬鹿にしてる訳じゃないんだよ! 」


 まあそれはどうでもいいんだが。 元々そういう性格なのか、今は無理をしているのか、彼女は俺に対して笑顔を絶やさない。


「春翔君、どうしました? 」


「いや、なんでもないですよ 」


 俺にはその笑顔がとても不自然に見えて、何を隠しているんじゃないかと疑いたくなる。 そう思っていると、ゆかり先輩が俺の手を優しく握ってきた。


「すぐに彼女を受け入れるのは無理だと思います。 でも少しですが彼女とお話して、あなたになら彼女の傷を癒やすことが出来ると判断しました。 春翔君…… どうか…… 」

 

「突然だったのでちょっとビックリしてるだけです。 姉弟…… なんですからすぐに慣れますよ、きっと 」


 そうは言ってみたが、俺はゆかり先輩にも笑顔を向ける事は出来なかった。


「あ…… れ…… 」


 中里さんがフラフラとソファに座り、大きなあくびをしてウトウトし始める。


「大丈夫だ美織くん、私の作った成長遅延薬の副作用で眠気が出ただけだ。 ゆっくり休みなさい 」


「はい…… おじさ…… ん…… 」


 吸い込まれるように眠った彼女を親父は少し悲しげな表情で見つめていた。


「ハル、この子が徳間研究所で生まれた『4番目』だ 」


 その言い方に疑問を持つ。 親父は今まで俺を5番目と言ったことはなかったし、なんだか中里さんを物扱いしているように聞こえる。


「大事な事を話さねばならないが…… ゆかり君、君はどうするかね? 」


 普段の親父じゃない。 親父は今、研究者の飛島純一に戻っているんだ。


「聞かせていただきます。 私も彼女から聞いたお話をお二人に伝えなければならないと思っていましたので 」


 時刻は既に12時を回っている。 明日も学校があるが、それでもゆかり先輩は大丈夫なんだろうか?


「うん? 大丈夫ですよ。 学校も大事ですが、こちらのお話の方が何倍も大事です 」


 俺の表情と時計を見た仕草だけで読んでしまうゆかり先輩も、テレパスを持ったクローンじゃないだろうか。


「先ずはハル、美織君を寝かせてこい。 薬の影響でしばらくは眠るだろう 」


「わかった 」


 背中と膝裏に腕を入れて『よいしょ』と抱き上げる。


「軽っ!? 」


 見た感じ160センチぐらいはありそうな中里さんに覚悟していたが、絵里よりも全然軽い。 それよりもあばら骨が浮き出ているのと、手足の細さが気になった。


 ゆかり先輩に手伝ってもらいながら、彼女をベッドに寝かせる。


「春翔君、はい! 」


 部屋を出ようとすると、なぜかゆかり先輩はドアの前に立って両手を広げている。 えっ?


「あの…… 抱っこしろと? 」


「はい! 中里さんが羨ましくなってしまいました 」


 頬を染めて微笑む彼女…… あれ? 頬を擦りむいてないか? 


「先輩、どうしたんですかこの傷 」


「えっ? ああ…… 大したことじゃないので気にしないで下さい 」


 大したことだろ。 少し血が滲んだ痕があるし、こんなのゆかりファンが見たら暴動起こすぞ!


「薬と絆創膏持ってきます 」


「大袈裟ですよ! 放っておけば治ります 」


 くそ…… 仕方ない!


「薬塗らないと抱っこしませんよ 」


「はぅ!? 春翔君のイジワル…… 」


 おっふ! 破壊力抜群の拗ね顔。 先輩の意外な一面を見られて少し心が和んだかもしれない。


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