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53話 怒りに任せて

 家には戻らず俺はいつもの公園のベンチに座り、スマホを握りしめてゆかり先輩の連絡を待つ。 今日スマホの修理が終わると話していたから、彼女の事だから必ず連絡が来るはずだ。 その時に本條恵の居場所を聞く。


「どうしたのさ春君! メッチャ怖い顔になってるよ? 」


 俺の様子を察したのか、一度は別れた美紀も公園に戻ってきた。 色々と心配してくれるが、今はそれがとてもウザい。


「帰れよ美紀。 何も心配ないから 」


「ウソだね。 絶対何かをしようとしてる 」


 こういう時の美紀は絶対引き下がらない。 ウザい…… ゆかり先輩からなかなか連絡が来ない事もあって、ついそう思ってしまう。


 ピコン ピコン


 来た! すぐに応答して挨拶もそこそこに、本條恵のいそうな場所を聞いた。


 ー どうしたんですか? まだ回収作戦の準備は出来ていません。 随分と苛立っているようですけど、何か…… ー


「いいから教えて下さい! 」


 俺を探るような言葉につい怒鳴ってしまった。


 ー ダメです。 予測は出来ますが、今のあなたには教えられません ー


 なっ!?


「なんで! すぐにでもアイツを止めないと取り返しがつかなくなるんだ! 早く…… 」


 ー 落ち着きなさい! 何があったんですか? 今のあなたは冷静に物事を判断出来ていません ー


「冷静ですよ! だから本條に直接会って『見間違いだった』と言わせるんだ! じゃないと…… おぶっ!? 」


 美紀に頬を押さえられてスマホを奪われてしまった。 ハンズフリーモードに切り替えたようで、スマホから何度も俺を呼ぶゆかり先輩の声が小さく聞こえる。


「返せよ 」


「いやだね。 今の春君には返さない。 どうしてもって言うなら力ずくで取り返してみなよ 」


 この野郎…… 手の届く距離にテレポートしてスマホを取り返そうとしたが、あっさりとかわされて右頬にカウンターを食らった。


「痛っ! 返せって言ってるんだよ! 」


「こんな所でチカラを使う時点で正気じゃないね。 ほらおいで! 目を覚まさせてあげるよ 」


 今度は美紀の背後に跳ぶ。 殴り飛ばす勢いで腕を伸ばしたその時、美紀の姿がフッと消えた。 その後はよく覚えていない…… 首の後ろに強い衝撃を受け、気が付けば俺はベンチに寝かされていたのだった。


「あっ、気が付いた? 」


 夕焼けの空をバックに美紀が笑顔で覗き込んでいる。 どうやら俺は一撃でこいつにノックアウトされたらしい。


「美紀…… 俺…… 」


「大丈夫だよ。 誰にも見られてないし、会長もこっち向かってるって言うから 」


「そっか…… 」


 情けない。 事態を収拾しないとと焦るあまり、俺が取り返しのつかない事をするところだった。 手荒だが、止めてくれたこいつに感謝だな。


「いてーよ 」


 膝枕する美紀に、微笑んで文句を言ってみる。 細身で引き締まった太ももは寝心地良くない。


「うん、元に戻ったね。 へへへ、最小限で相手を無力化する! 僕もなかなかのもんでしょ? 」


「ああ、見えなかった。 お前もテレポート使えるのかと思ったよ 」


「仲間仲間! えへへ…… 」


 道場練習は俺だけのものではなかったらしい。 テレポートにも反応出来る反射神経って凄いな。


「春君、もう少し僕らを信じてもいいんじゃない? 『俺のせいだー!』なんて思ってないよね? 」


 ペチペチとおでこを叩きながら説教してくる。


「信用してない訳じゃない。 でもよ…… 」


「はぁー…… 一人で頑張らなくてもいいんだよ! 春君は聞き飽きてると思うけどちゃんと聞いてね 」


 一呼吸おいて美紀は真剣な顔つきになる。


「僕らは春君のチカラじゃなくて、春君の気持ち(・・・)に救われたんだよ? 僕も、絵里ちゃんも、近江会長も。 言ってしまえば本條恵も。 他にチカラを持つ人がいたって、春君じゃなきゃ僕らは力を貸さない。 本音は…… やっぱりチカラって怖いんだよね 」


「だから本條恵に一刻も早く口止めしてって思ったんだ。 さんきゅな、助かった 」


 美紀は満面の笑み。 こうやって見ると、ホントに女子じゃないかというくらいの可愛さだな。


「春翔君! 」


 公園前にタクシーが停まり、ゆかり先輩が飛び出してきた。


「すいません先輩、俺…… 」


「いいんです! ですから早まらないで下さい 」


 ゆかり先輩は美紀がハンズフリーにしたおかげで、俺達の会話をほぼ聞いていたという。 駆けつけてくれたのは嬉しいが、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「タメ口まできいちゃって 」


「いいえ、あなたの必死さが伝わりました。 むしろ私としてはその方が親しみが持てて嬉しいんですけど 」


 いやそれは無理っす。 歯止めが効かなくなりそうだ。


「ここだったんですね、あなたとミキちゃんが出会った公園 」


 彼女は寂れた公園を見回して感慨深く目を細める。


「これ、お渡ししておきますね 」


 公園を見回した後、彼女が手渡してきたのは耳に収まるぐらいの小さなイヤホンだった。


「出来るだけ目立たないタイプを選びました。 スマホのブルートゥースで接続して使って下さい 」


 ありがたい。 が、彼女はこれで帰るという。


「すいません、来てくれたのにこれだけなんて 」


「あなたの落ち着いた顔が見れただけで…… あっ、今度デートに誘ってくれたらチャラにしますよ 」


「えっ? ちょっ!? 」


 反論する間もなく彼女は去ってしまった。 ホントにグイグイくるな……


「僕は絵里ちゃんを応援するけどね 」


「おふっ!? 」


 みぞおちに肘を入れられ、この日は大人しく家に戻ることにしたのだった。  

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