52話 回収作戦
翌日の昼休み、俺は本條先輩の説得にゆかり先輩の助力を願おうと彼女の元を訪ねたかったんだが。
「邪魔だな…… 」
「うん、邪魔だね…… 」
生徒会室の前には蘇我が後ろ手で仁王立ち。 警戒を見せるのはいいが、目立ちすぎのうえゆかり先輩の息が詰まってしまう。
「おい蘇我! 」
やり過ぎだと注意しようとすると、逆にギロッと睨まれた。
「近江先輩は執務中である。 アポは取っているのか? 」
「あ…… アポ!? 」
ボディガードになりきってやがる…… 完全に人選を間違えた。
「蘇我、機密事項って言っただろ? これじゃ敵にバレバレじゃないか 」
「うくっ! 」
「登下校だけでいいって言われただろ? それともお前、彼女の側にいられるからってつきまとってるじゃないよな? 」
「ぎくぅっ!! 」
わかりやすい奴。 悪い奴ではないんだが……
「蘇我くん。 女子はね、一人の時間も欲しいんだよね。 分かってくれる? 」
「ミキちゃん…… 」
蘇我は泣きそうな顔になって生徒会室の前からトボトボと消えていった。 が、廊下の角に居座り、こちらをチラチラっと窺っている。 あくまで警戒は続けるようだ。
「美紀、女心分かるんだな 」
「言葉のあやだよ! 僕は男の子! 」
ちょっとだけ美紀をいじって生徒会室のドアをノックしようとすると、それより先にドアが開いた。
「春翔君! 助けて下さい! 」
ゆかり先輩は既に涙目だ。 やっぱり……
「もう大丈夫です。 アイツには『やり過ぎるな』と言っておきましたから 」
「よかった…… お願いした以上断ることも出来ず、一日中監視されてるようで怖かったんです 」
ですよね。 聞けば、帰りもマンション前までついてくるし、朝も明け方から既にマンションの前で待っているらしい。
「キツく言っておきますよ 」
生徒会室の中に案内されて、俺はようやく本題を切り出す。
「先輩、折り入って頼みがあるんですが 」
「はい。 了解しました! 」
まだ何も言ってないよ…… 美紀はツボに入ったらしくケラケラ笑っている。
「それ、もしかして蘇我の真似ですか? 」
「あなたの頼みを断る理由はあります? 『死ね』と言われれば『共に生きたい』と答えますが 」
ストレートだなぁ…… 参りました。
「本條先輩の事なんですが…… 」
俺は親父が懸念している二階堂隆志のメモの事を彼女に伝えた。 いつもは即答で返ってくる彼女も、顎に手を当てて模索している。
「ひょっとしたら、春翔君が交渉した方が可能性があるかもしれません 」
「えっ! 俺がですか? 」
言葉の上手な彼女の方がいいと思っていたが。
「あなたが徳間研究所の生き残りと知り、接触してきた様子を聞くと、私より警戒心が薄いように思うんです。 どうでしょうか? 」
説得力が凄い。 だがメモを渡せと言って、本條先輩が応じるとは思えない。
「自分の体を犠牲にするほどの人を説得できる自信はありませんけど…… 」
「スパイ大作戦でもやってみたら? 」
唐突に美紀が割り込んできた。 なんだそれ? ゆかり先輩は『なるほど』と頷いているが。
「インカムですよ春翔君! リアルタイムで会話のサポートをします! 」
なるほど、本條先輩との会話に常時ゆかり先輩がついててくれるなら心強い。
「わかりました。 やってみましょう! 」
「はい! では結構は明日以降、それまで彼女の動きをトレースしておきます 」
二階堂メモ回収作戦とでもいうのだろうか。 俺達は向かい合って手を重ね、『おー!』と気合を入れるのだった。
「うん? 」
校門を出たところで、美紀が何かに気付いて声をあげる。
「どうした? 」
「いや、なんでもない 」
その場はなんでもないといった美紀だったが、少し歩いた所で再度後ろを振り返る。
「…… スーツのおじさんなんて珍しいなと思ってさ。 僕達をなんとなく見てたような気がしたんだよね 」
俺も振り返ると、二人組のスーツ姿の男が校門を見ていた。
「業者じゃないのか? 」
「業者さんなら迷わず職員室に行くでしょ 」
確かに。 もう一度振り返って確認すると、どうやら生徒の動きを観察しているようだった。 ふと昨日のひったくり事件が頭の中に思い浮かぶ。
「まさか俺を探してるとか? ほら昨日の 」
「警察? だって犯人は捕まったじゃん 」
「警察とは限らないんじゃないか? 俺のチカラを嗅ぎつけた…… とか 」
途端に美紀の顔が険しくなった。 と思ったら突然笑い始める。
「だとしたら春君の顔見たら放っておかないじゃん! 気のせい気のせい! 」
「うーん 」
「聞いてこようか? 」
「うぇ!? 」
止める間もなく美紀はスーツの男達の元に走っていく。 にこやかに話しかけ、何やら質問を受けている。
あ…… 戻ってきた。
「ショッピングモールで起きた事故の目撃者を探してるんだって。 女子高生が瞬間移動した筈だって 」
「…… マズいじゃん 」
「うん、マズいねぇ 」
俺達は無関係なふりをして足早にその場を離れる。
「どうしよう春君! あの時春君が跳んだの誰かに見られてたんだよ! 」
「落ち着けって! 」
本條恵が通報したんだ…… そうとしか考えられず、怒りと焦りが俺の心を支配していった。




