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51話 仲直り

 家に絵里を連れて来たはいいが、こいつは背中から離れようとしない。 着替えはしたいし風呂に入りたいし、なにより美紀との練習後にチカラを使ってヘトヘトのうえ、こいつを背負って30分歩いてきたからもう限界だ。 美紀は美紀で、『ごゆっくりー』と笑顔で帰ってしまった。


「絵里、いい加減降りろ 」


「いや 」


 はあ…… 諦めてそのままソファに腰を下ろす。 死にそうになって弱気になってるのはわかるけど、もうそろそろいいだろうに。


「離れてくれないと風呂にも入れないんだけど? 」


「…… 一緒に入る 」


 その言葉にドキッとしたのは言わないでおく。


「どうした? もう橋から落ちたりはしないぞ? 」


 それから暫くの沈黙。 次は何を言おうか考えていると、耳元で絵里が囁いてきた。


「…… ごめん…… あたし大好きだから 」


 橋から落ちるのが大好き? いやそうじゃないよな。 こいつは昨日の事をずっと気にしてたんだ。 とりあえず離れてもらわなきゃ困る。


「あのな絵里。 こんな風にくっついてたって何も解決しないんだ。 とりあえず風呂に入って着替えをしたい。 いいな? 」


 やっと離れた彼女は、凄く気まずそうに俯いている。


「吐いたのはテレポート酔いだよ。 お前のせいじゃないから気にするなって 」


「テレポート酔い? そんなの聞いたことない 」


 『そうだろうな』と笑ってやると、絵里も少しだけ笑顔を見せた。


「俺なんかもっと酷かったぞ? 運転手は酔わないとか言うけど、吐くわ熱は出るわ、三日くらい頭痛が続いたっけ 」


「それって高校入学してすぐの時? 一日中ぐったりしてたよね 」


「よく覚えてるな 」


 その頃から俺を見てくれてたんだと思うと、なんだか言葉に詰まる。


「ねえ 」


「ん? 」


「あたしはもう蚊帳の外じゃない? 」


 根本はそこか……


「一緒に跳んだからな。 ったく、どうなっても知らないぞ? 」


 彼女はフフッと本当に嬉しそうに笑う。 テレポート酔いで酷い目に遭ってるのに、何がそんなに嬉しいんだか。


「とりあえずシャワー浴びてくる。 お前は汚れなかったのか? 」


「え…… と、大丈夫みたい。 アンタが守ってくれたから 」


 そりゃなによりで。 ひとつ笑いかけてやって、俺はワイシャツのボタンを外しながら風呂場に向かった。




 風呂から上がると、親父が絵里の相手をしていた。 少ししんみりしているのは、色々と親父から聞いたのだろう。


「お手柄だったなハル 」


「そうでもねぇよ。 バス路線だったから、もしかしたら目撃者がいるかもしれない 」


「ふむ…… 」


 絵里を助けた時はどうでもよかったが、問題はそこだ。 場合によってはこの神橋市から姿を消さなきゃならない。 絵里も状況を把握したのか、俺に不安な表情を向けていた。


「ゴメン、あたしのせいで…… 」


「お前は何も悪くない。 悪いのはあのひったくり犯だ 」


 あのひったくり犯は、美紀によって制圧されてお確保となった。 顔はボコボコ、鼻や口からは血を流して、逆に警察に助けを求めたらしい。 格闘家は一般人には手を出してはいけないはずだが、俺もすっきりしたので問題ない。


「多少警戒はした方がいいが、怯えて学校生活を送るのも面白くないだろう。 変化があれば対処するくらいの気持ちでドーンといけハル 」


 気にするなとか、なるようになるとか、こういう時の親父はなぜか逞しい。


「ときにハル、二階堂君の娘の事だが 」


「二階堂? 」


 首をひねる絵里に『本條先輩の事だ』と教えてやる。


「あの人なんなの? アンタも迫られてまんざらでもない顔してたけど!? 」


「してねぇよ! 俺にとっちゃ迷惑でしかねぇ! 」


 とは言ったものの、内心は複雑なところだ。


「なに考えてるの? 教えてよ 」


 こういう時の絵里の勘の鋭さには参るな……


「あの人も、ある意味被害者なんだよなって考えたらちょっとな 」 


 端的に本條先輩の境遇を説明すると、『ふーん』と絵里は腕を組む。


「でもあの人嫌い。 嫌いというか苦手 」


「まあ俺も苦手だけど。 出来れば関わりたくない 」


 親父がコホンと咳払いをひとつ。


「そう言ってくれるな。 出来れば父親の呪縛から解き放ってやって欲しいと俺は思ってるんだが 」


「…… 回りくどいな。 何をしろって言うんだ? 」


「恐らく彼の遺したメモがある。 現存する多能性幹細胞のデータはそれのみ…… 漏れれば厄介だ 」


 言われてみれば確かにそうだ。 が、親父もなんでまた絵里の前で言うかなぁ……


「絵里、お前は首を突っ込むなよ? 」


「言うと思った。 嫌よ、あたしも手伝う 」


 ほらきた。 出来るだけ関わらせたくない俺の気持ちも分かって欲しい。 


「あのな 」


「嫌 」


「おい! 」


「いやー! 」


 それから一時間、時間も遅いから帰れと言うことも含めて、絵里との押し問答に悩まされたのだった

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