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47話 大喧嘩

「春翔、アンタが隠してたのってその話なの? 」


 しまった…… 横に視線を移すと、そこには絵里が呆然と立っていた。 本條先輩に気を取られて、絵里が戻ってきていたのに全然気付かなかった。 本條先輩は絵里には全く目もくれず、再び俺に迫ってくる。


「やっとパパの仇が取れるのよ! あなたはやっと見つけた希望なの! 私がどんなことをしても手に入れられなかった能力をあなたは持ってるの。 あなたじゃなければ…… はっ!? 」


  絵里を巻き込むな。 


 それが今の俺の全てだった。 息を呑む先輩の表情に、俺は眉間が痛くなるほど先輩を睨みつけていたことに気付く。


「話は終わりです。 この手を離して下さい 」


 そう言い切って、力を緩めない彼女の手を強引に振りほどく。


「絵里…… 」


 どう説明すればいいものか分からず、とりあえず絵里に向き直る。


「ん! 」


 無言で『鞄を持て』と押し付けられ、絵里は俺の手を引いてその場を離れる。


「絵里、俺…… 」


「今は聞きたくない。 いいから帰る 」


 無表情の彼女の言葉が胸に刺さる。 怒りもせず文句もなく、無表情の時ほどこいつは怒っているのだ。 どこから聞いていたのか…… だがこの態度はもうある程度理解しているのかもしれない。


 肩口からチラッと本條先輩を見ると、呆然と俺達を見送っていた。 ゆかり先輩、俺は彼女に歩み寄る事は出来なさそうです……




 帰りのタクシーの中も俺は絵里に声をかけることが出来ず、絵里もまた無言で外を眺めていた。 一言も話さずタクシーを降り、高坂宅の玄関前でやっと目を合わせてくれた。 こいつに嘘は通じない…… 全てを話す覚悟を決める。 


「絵里、あのさ…… 」


「家、入りなよ。 話すこと山ほどあるから 」


 俺の返事を待たずに彼女は鍵を開けてさっさと入っていってしまった。 タイミングを逃して決心が鈍るが、それは許してはくれないだろう。


「あたしの部屋、あそこだから 」


 絵里が指差したのは階段を上がった左側の部屋。 付き合いは長いが、考えてみれば部屋に入るのは初めてだ。


「コーラ? 麦茶? あんたはコーラか 」


「あ…… うん 」


 飲み物くらいは用意してくれるらしい。 『先に行ってて』と、言われるがままに階段を上がる。


「お邪魔します…… 」


 黄色が好きな絵里らしく、部屋は黄色を基調とした家具やカーテン。 綺麗に整頓されているその中で一際目を引いたのは、ベッドの枕元に置かれた特大のクマのぬいぐるみだった。


「これって……  」


 そのクマの首輪には、先日プレゼントしたイルカのキーホルダーが下がっていた。


「あんたとの思い出の品々。 触らないでよね 」


 コーラの入ったコップを受け取って、とりあえず一口。


「座って 」


 彼女はベッドの縁に座り、バンバンと隣を叩く。 大人しく従って隣に座ると、突然ピトッと体を寄せてきた。


「…… どうしたんだよ?」


「全部話すまで帰さないから 」


 ボソッと呟いて腕を絡めてくる絵里は借りてきた猫のように大人しくなり、少し緊張しているようだった。


「……  もし俺が人間じゃないって言ったら信じるか? 」


「信じるもなにも、そんな子供の冗談みたいな話を信じると思う? 」


「…… だよな。 だけどな、俺はとある研究所で開発されたクローンなんだよ 」


「嘘 」


「嘘じゃない。 お前にずっと隠してた事だ 」


 絵里はジト目で俺をずっと見ていたが、冗談ではないと感じたのか無言で俯いてしまった。


「それがどうして会えなくなることと関係するの? 」


 多能性幹細胞の発見、クローンの開発、徳間教授の失踪と研究所閉鎖。 俺が持つテレポートというチカラ。 順を追って説明し、俺の正体がバレれば国家に追われると付け足す。


「それだけじゃない。 さっき話した通り、悪用されればお前にも危険が及ぶんだ。 だから…… 」


「バレないから平気 」


 俯いたまま絵里はサラッと流す。


「そういう連中はどこで見ているかわからないんだぞ? 」


「だからあたしの前からいなくなるの? バッカじゃないのアンタ! 」


 バ…… 


「お前が心配なんだよ! バカってなんだよ! 」


 突然怒鳴られて俺も怒鳴り返してしまった。


「そいつらがアンタを無理矢理利用しようとするなら、あたしはとっくにターゲットよ! どれだけ一緒にいると思ってるの? そんな心配するならそのチカラってやつであたしを守ってよ! 」


「チカラは万能じゃねぇ! 美紀もゆかり先輩も運が良かっただけだ! 」


 スッと絵里から感情が消えた。


「…… やっぱあたし、蚊帳の外じゃん…… 」


「えっ? 違…… 」


「帰れ嘘つき! アンタなんて大っ嫌い! 」


 フルスイングでビンタをもらい、頭にきた俺は何も言わず絵里の家を出た。


 あいつと口喧嘩は数え切れないほどしたが、ここまでの大喧嘩は初めてだ。 このままフェードアウト…… したくはないが、あいつの事を考えればちょうど良かったのかもしれない。


「跳んで見せて、化け物扱いされたらそれこそ立ち直れないし 」


 きっと絵里はそんなことは言わないのはわかってるが、そう言い聞かせて開き直る。


 今までありがとな絵里…… お前には迷惑かけないから。


 夕日に染まる空を見上げ、今後は絵里とは距離を取ることを決めたのだった。

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