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46話 付き添い

 終業のチャイムが鳴り、授業から解放されたクラスメイト達が一斉に帰り支度を始める。 蘇我に至ってはチャイムと同時に立ち上がり、先生を突き飛ばしてまで鼻息を荒くして飛び出していった。


 俺は道場練習の迎えに来た美紀に絵里の病院の付き添いがあると伝える。


「そんな野暮なことはしないよう! 」


 一緒に行くかと聞いたが、そうあっさり断られた。


「じゃあ…… 行くか? 」


「う…… ん 」


 絵里とは仲のいいままでいきたいが、周りからこうもくっつけようとされてはなんだかぎこちなくなってくる。


 病院まではバスで行けなくもないが、絵里は親からタクシー代を貰っていると言ってあらかじめ校門にタクシーを呼んでいたらしい。


「ごめんね、鞄まで持ってもらっちゃって 」


 少しでも歩く負担を減らしてやろうと、俺は絵里の鞄を奪い取っていた。 ついでに下駄箱の外靴も足元に出してやろうとすると、『似合わない』と蹴飛ばされてしまった。


 迎えのタクシーに乗り込み、向かった病院は前橋病院という総合病院だ。 神橋市でも大きな病院で、内科や整形外科など8つの診療科を備えている。


「んじゃ行ってくるから 」


「おう 」


  俺は待合室で絵里を見送った後、時間を潰す為に中庭にある院内遊歩道のベンチに腰を下ろした。 ベンチに背中を預けて空を仰ぎ見る。


 チカラは絵里にもいずれ話さなければならない時が来るだろう。 その後は今のように冗談を言ったり笑い合ったり出来るだろうか。


 いや、みんなの幸せを望むなら俺は…… と、コツコツと石畳を刻む足音が近付いてくる。


「早かったな。 結果はどう…… なん…… 」


 絵里だと思って目線を向けると、そこには無表情で俺を見下ろす本條恵が立っていた。


「奇遇ね、ハルト君 」


 突然過ぎて声を出せなかった。 青白い肌に目の下のくま。 感情のない目が俺を凍り付かせる。

  

「そんなに警戒しないでよ。 別に獲って食おうなんて思ってないから 」


「こ…… こんにちは本條めぐ…… 先輩  」


 精一杯笑顔を作ってみたが、引きつりまくっているのは自分でもわかる。 平常心、平常心!


「別に呼び捨てでも構わないわ 」


 手には少し(しお)れた花束。 お見舞いだろうか? 彼女はおもむろにショルダーバッグからお茶のペットボトルを取り出すと、首を傾げて俺に差し出してきた。


「飲む? あまり冷えてないけど 」


「あ…… りがとうございます 」


 恐る恐るペットボトルを受け取ると、彼女はフワッと微笑んだ。 昨日の狂気じみた雰囲気はもうないが、油断は出来ない。


「自己紹介は不要みたいね。 近江ゆかりでしょう? あの子徹底的に調べ上げるから 」


 キャップを開けて口に運んだお茶の手が止まる。 考えてみれば、この人はどこまでを知っているんだ? 恐らくは全部…… 俺がクローンだと言うことまで知っている。



「昨日はありがとう。 先にお礼を言っておくわ 」


「へっ? 」


 何を言われるかと思ったら『ありがとう』? 


「あなたがあの子を庇っていなかったら、私は今頃殺人罪で逮捕されていたわ。 本当に感謝しているの 」


 彼女は頭を軽く下げ、垂れてきた前髪をスッと流す。 なんだか雰囲気が全然違う…… 落ち着いている彼女は、頬や目元がやつれてはいるがゆかり先輩の言う通りクールビューティーだ。


「え…… と。 どうしてゆかり先輩を殺そうとしたんですか 」


「殺すつもりなんてなかったわ。 たまたまポケットに入ってたカッターで脅そうとしただけ 」


 たまたまポケットにカッターが入ってるかよ! とはツッコまないでおく。 早くどこかに行ってくれ…… 絵里の診察が終わってしまう。


「あなたは徳馬研究所のクローンで間違いないのよね? でないとあの能力の説明がつかないんだけど 」


 やはりその話か。 でないと俺に絡んでくる説明がつかないんだけど。 と彼女の真似をしても状況は変わらない。


「協力して欲しいのよ。 その能力が私には必要なの 」


 俺の存在を知って、自分がチカラを手に入れるより確実だと思ったのだろう。 そう言われても答えは決まっている。


「協力ってなんですか? 世間にバレたらマズいものだと、先輩なら知ってるでしょう? 」


「知っているわ。 知っているからこそ『多能性幹細胞』が開発された…… いいえ、されてしまったと証明するべきでしょう! 」


 ん? なんかニュアンスが違うと感じたのは聞き間違いか? と、突然彼女に両肩を掴まれた。 細い腕なのに結構な力…… 俺に全てを賭けているのかもしれない。


「お願い! 私なんでもするから! 」


「できません 」


 即答しないといけないと思った。


「どうして!? あなただって奴らに捨てられた身でしょう? 全てを明かして、『お前らが元凶だ』って問うべきなのよ! 」


「どんな理由があろうと、このチカラを世間に晒すような事はできません。 仮にそんなことをしたって、先輩がもっと苦しむだけです 」


「苦しむ? もう散々苦しんだわ! 父は私の目の前で首を吊り、母は心が壊れて今もここのベッドから離れられない! これ以上何を苦しむのよ! 」


 もうクールビューティーの姿はない。 すがり付いて懇願する彼女は、俺よりも幼く見えた。


「…… 泣き寝入りしろっていうの? 」


「そんなことは言いません! 他に何か方法が…… 」


「ある訳ないわ! お願いハルト君! もうあなたしかいないの! 」


 痛いくらいに腕を握られたその時だった。

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