36話 本條恵対策会議
そんなことを考えているとあっという間に朝。 いつの間にか寝ていたらしく、カーテンの隙間から漏れた朝日の眩しさで目が覚めた。 時計を見ると6時半……
「やばっ! 」
ゆかり先輩を起こして家に送り届けなければ! と部屋に駆け込んだが、彼女の姿はどこにもない。
「まさか…… 」
恐る恐る風呂場を覗くが、さすがにそれはなかった。 俺のベッドの上には綺麗に畳まれたスウェットと置手紙が一枚。
ー 起こすのが申し訳なくて、声を掛けずに勝手に帰宅することをお許しください。 ソファでは満足に眠れなかったでしょう? ありがとう、私は久々に熟睡出来て感謝しています ー
一枚にびっちり書かれた書き置き。 熟睡とは書かれているが、彼女が眠れたのかは疑問だ。 その下の一行に目が留まった。
ー 人とクローンの間に恋愛は成立しないと思っていませんか? それとも私に魅力が足りないでしょうか? ー
この人ホントにテレパス持ちなんじゃないだろうか。
「魅力がありすぎて困ってるんですよ、先輩 」
思わず書置きに突っ込んでしまった。 『またお昼に』と締め括られた達筆な書き置きをもう一度読み返す。 その中には俺の見解を聞かせて欲しいとあったからだ。
ー 春翔君が徳間研究所の研究員だったとします。 持ち出し不可能なデータを外部に持ち出すとしたら、あなたならどうしますか? ー
彼女は昨日の話の中で、研究データの流出は内部の者の仕業だと睨んでいるらしい。
「研究員だったなら…… か。 そうだな…… 」
毎日見ている研究なら、別に何も見なくても覚えてそうなものだが。
「あっ…… 」
スマホを構えてメール作成画面を開き、思いついたままを書き留める。 俺が考えたのは丸暗記の線だった。
親父も解ってしまえば細胞の生成自体は難しくないと言っていたのだから、それを覚えて自宅で日記やノートにメモる。 その行動自体も研究所の設備がなければ意味がないが、プロジェクト凍結をいち早く嗅ぎつけたのなら研究データを手元に残したい一心でそうするかもしれない。 全精力をつぎ込んだ研究なのだ、消されては堪ったものじゃないだろう。
それを簡潔にまとめてゆかり先輩に送信する。 するとすぐに返信が来て、昼に詳しく聞かせてほしいとのことだった。 場所は生徒会室で、美紀にも伝えて欲しいという。
「あっ、やべっ! 」
時刻はもう7時半を超えている。 また美紀に『遅い!』と怒られてしまう。 急いで準備をして、まだ寝ているだろう親父に『行ってくる』と叫んで家を飛び出した。
昼休みには予定通り、生徒会室で美紀の手作り弁当を突っつきながら本條恵対策の話をするつもりだったのだが。
「んー、相変わらずアンタの手料理は美味しいわ! 」
断りきれずに絵里を連れてきてしまった。 ゆかり先輩はきょとんとしていたが、絵里の足を見てすぐに状況を察してくれたようで、普段通りの生徒会長を演じてくれる。
「春翔君と高坂さんは幼なじみなんですか? 」
「中学校からですけど、まぁ似たようなものです 」
「いや、幼なじみとは違…… 」
「アンタは黙ってて! 」
おぅ…… なんで睨まれなきゃならないんだ?
「近江会長は春翔とどこで知り合ったんですか? お弁当を一緒に食べるほど仲がいいみたいですけど 」
おぅ…… ストレートな対立姿勢。 美紀も卵焼きを喉に詰まらせている。
「屋上でお弁当を食べていたお二人に混ぜていただいたんです。 美味しいですよね、ミキちゃんの手料理は絶品です 」
「それだけじゃなさそうですけど! 」
「おい絵里…… 」
「春翔君は黙っててもらえます? 」
おぅ…… ゆかり先輩に笑顔で外野扱いされてしまった。 笑顔で優しい口調だが、明らかに戦闘モードの先輩が怖い。
「近江会長なら、もっとお似合いの人がいると思いますが 」
「いいえ、春翔君以上の方なんて存在しません。 運命の男性だと思っています 」
さらっと凄い事を言う先輩に、絵里の方が顔を赤くしている。
「春君、なにこれ 」
「いや…… 俺に聞かれても…… 」
これが修羅場というやつなのか!? 俺はどちらとも付き合う気はないんだが……
「春翔! 」
「春翔君! 」
二人に同時にそう呼ばれた俺は、収拾をつける為に二人に向き合う。
「申し訳ありませんが、どちらとも付き合いません! 」
絵里は口をへの字にして膨れ、ゆかり先輩は笑顔でどす黒いオーラを漂わせる。
「いいえ春翔君、必ず振り向かせてみせますから 」
「あたし言ったよね? 諦めないって 」
女子怖ぇ! 美紀に助けを求める視線を向けると、何故かニコニコ顔だ。
「良かったね! 可愛い二人から求愛されるなんて幸せだよ? 」
傍観者かよ! いてもたってもいられず、生徒会室から逃げ出したその時だった。




