35話 生徒会長の過去
二人とも俺の事を考えて対立してしまっている…… 何か言わないと!
「ふむ…… お父様か。 悪くない 」
は? 考えていたのはそこか!?
「ハル、ゆかり君に何かあればお前が守ってやれ。 お前が事故から彼女を救ったのも、きっとそういう縁だったのだろう 」
「えっ? どういう意味…… 」
「ありがとうございますお父様! 」
「もう一度! 」
「はい! お父様! 」
二人はすっかり意気投合してしまった様子。 なんだこれ……
「冗談はさておき、こちらも探りを入れてみよう。 くれぐれも踏み込み過ぎないよう気をつけるんだぞ? ゆかり君 」
「はい。 …… フフっ 」
彼女は思い出したように笑う。
「なんですか? その笑いは 」
「いえ、他人を思いやる気持ちは親譲りなんだなと思いまして 」
裏のない彼女の笑顔に恥ずかしくなる。 同時に、本條恵の登場で平穏だった日常が壊されそうな不安も大きくなる。
「あなたは私が守ります。 そうお約束したじゃありませんか 」
真っ直ぐ見つめる彼女に、俺は何も返す言葉が見つからない。
ぐうぅ……
「はぅ!? 」
唐突にゆかり先輩のお腹が盛大に声を上げた。 気が付けば11時過ぎ…… 薬の話から始まって二時間以上議論していた。 明日も学校はあるし、彼女を家に送り届けなければ。
「恥ずかしい…… ごめんなさい、お昼から何も食べていないもので 」
「何か用意しますよ 」
まずは腹ごしらえと思い、冷蔵庫の中身を確認するが……
女子ってこの時間からの食事はやっぱり気にするのか? 彼女のスタイルの良さは色々と気を付けているような気がして、軽めの物を考える。
「わぁ! これはお父様の手作りですか? 」
用意したのは行き場のなくなった苺で作ったジャムとプレーンクラッカーだ。 相性のいいホットミルクも忘れない。
「美味しい! ダメです…… 太っちゃいそう 」
とは言うが、多めに出したクラッカーにジャムを乗せて、あっという間に完食したのだった。
「足りました? クッキーもありますけど 」
「いえ! これは止まらなくなる『魅惑のジャム』です! 」
作った本人は満足そうな顔。
「それじゃタクシー呼んでおきますね 」
スマホに手をかけると、『あの……』と彼女は悲しそうな顔をする。
「その…… 一晩こちらにいてはダメでしょうか? 朝一で帰りますから!」
「…… へ? 」
予期せずゆかり先輩を一晩泊めることになった俺は、慌てて自分の部屋の片付けに走る。 『ソファで十分です』とゆかり先輩は言ったが、そんなことをさせたら男として恥ずかしい。 シーツを取り換え、パジャマ代わりのスウェットの上下も用意する。
「いきなり泊めて欲しいなんて言ってしまって…… ごめんなさい、常識ありませんでした 」
着替えを済ませた彼女は、俺のベッドに浅く腰かけて苦笑いだった。 ぶかぶかのスウェット姿もまた新鮮で可愛い…… 普段の彼女より幼く見える。 決して他意はない!
「実は、今日は帰りたくなかったんです 」
「えっ…… と 」
どういう意味でしょうと聞く訳にもいかず、そういうことなのかと期待してしまう。 いや、そういう関係になってはダメなんだけど。
「帰って一人になれば、きっと色んな事を考えて眠れなかったと思います。 昔からのクセなんです、ダメですよね 」
「ダメってことはないんじゃないですか? 俺も考えて眠れない事はあります 」
「母が…… 」
フッと彼女の表情が暗くなった。 そういえば彼女が生まれてすぐに他界したって言ってたっけ。
「他界したというのは嘘なんです 」
「えっ? 」
「私が5歳の時に離婚したんです。 父は仕事でほとんど家にはいなく、当時の私はそれが夫婦が仲が悪いからだと勘違いしていました。 母が大好きでしたから、『お父さんなんて要らない』と言ってしまったんです。 もちろん離婚の原因はそれではないんですけれど 」
「よくある話だとは思いますけど…… 」
仕事に追われて夫婦仲が悪くなるのはよく聞くと思う。 彼女はそれが自分が原因だと言いたいんだろうか。
「ある朝には母の姿はもうなく、代わりにテーブルの上には離婚届がありました。 父が出張から帰ってくる3日前…… 冷蔵庫には温めれば食べれる総菜が詰め込まれていました。 今考えれば予兆はあったんです…… 父がいない日に限って母は綺麗にメイクして、私を置いてよく出かけていました 」
母親の浮気。 それだけじゃない、彼女は母親に捨てられてしまったんだ。
「それ以来でしょうか、分からない事をよく調べるようになりました。 分からない事を抱えて一人でいると、とても不安になるんです…… 私は…… 」
「先輩! 」
「はい! 」
これ以上は聞いていられない。 口に出させてはならない。 そう思った。
「俺…… 達がいます! 美紀も親父も、生徒会の皆も! 先輩は一人じゃない! 」
俺の大声にびっくりしていた彼女は、やがてフワッと微笑む。
「俺がいる、とは言ってくれないのですか? 」
言えない。 絵里同様、俺は誰とも付き合えない。
「でもなんとなくそんな気はしていました。 あまり困らせるものではありませんね、嫌われてしまいます 」
微笑んではいるが、とても寂しそうな笑顔。
「先輩…… 」
「 ベッド、ホントにいいんですか? 」
この話はこれで終わり、と彼女は話題を変えてきた。
「俺はソファで寝るのが好きですから 」
「嘘つき。 せっかくですから一緒に寝ましょうか! 」
「無理です! 」
そんなことをしたら理性が吹っ飛ぶ! 速攻断って部屋から退散する。
「おやすみなさい、春翔君 」
「おやすみなさい、ゆかり先輩 」
ドアを閉める直前に挨拶を交わし、ドキドキする胸を押さえながらリビングのソファにダイブした。
「絵里といい先輩といい…… 大胆すぎる…… 」
いや、俺がナヨナヨなのか? 女子はわからねぇ……
本條恵が持っていた薬の事よりも、俺の頭の中は絵里とゆかり先輩の事でいっぱいだった。




