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15話 呼び出し

 眠気を堪えて授業を終え、俺と美紀は再び近江先輩に生徒会室に呼ばれていた。 


「手伝って欲しい事があるんです 」


 その手伝って欲しい事というのは、市立図書館から寄贈してもらえるという本を運びたいというもの。 それなら図書委員とか生徒会の他のメンバーを連れて行けばいいのにと思うのだが、今日も生徒会室には近江先輩一人しかいない。


「…… もしかしていつも一人なんですか? 」


「いえいえ! 今日はちょっと外回りに出てまして 」


 人払いをした…… んだよな、この雰囲気は。


「その…… 春翔君が服用している『訳アリ』なお薬の事が気になってしまいまして。 そのお話もしたいなと 」


 好奇心旺盛というか、彼女は納得できるまで調べる性格らしい。 やはり昨日全てを暴露して正解だったかもしれない。


「あなたの出生に関係することなのですか? 」


「はい、これは…… 」


 タブレットケースに入った錠剤を一つ取り出して彼女に見せ、成長抑制剤だと説明する。 美紀は面白くなさそうな顔をしていたが、それ以上に彼女は眉間にしわを寄せてタブレットを見つめていた。


「そうですか…… 育ち盛りなのに…… 」


「仕方ないですよ。 俺は人間じゃ…… 」


「それは言ってはダメです 」


 ぴしゃりと彼女に怒られてしまった。


「人間社会で生きていくのですから、出生がどうであろうと人間として生きて下さい。 私はあなたに、最後まで人間として生きて欲しいんです 」


 真っ直ぐ見つめる彼女は少し頬が赤い。


「そうだよ春君。 いつも僕が言ってるじゃん 」


 美紀にまで怒られて苦笑いをすると、先輩が柔らかい笑顔で励ましてくれた。 美人だなぁ……


「副作用、無理しないで下さいね。 ツラくなったらいつでも膝をお貸ししますから 」


「えっ!? それってゆかり先輩が膝枕してくれるって事ですか!? 」


 ほんのりと頬を染めてニコリと笑う彼女。 おおおっ! と思う反面、大勢のファン達にタコ殴りにされる自分が目に浮かぶ。


「それは僕の役目ですから! 」


 なぜそこで張り合うのだ友よ……


「「「戻りましたぁ! 」」」


 そんな話をしているうちに、ゾロゾロと生徒会役員の方々が戻ってきた。


「あれ? ミキちゃんだぁ! 」


「ホントだ! ホンモノ! 」


 副会長の前園 (まえぞの) ユリエ先輩と、書記の伊丹 芹香(いたみ せりか)先輩。 どちらも凌州高校で知らない人はいない存在で、近江先輩を含めて『華の生徒会』なんて呼ばれたりしている。


「わわっ!? ちょっ! 」


 二人は俺には目もくれず、美紀を胸に抱いたり頬擦りしたり。


「二人ともミキちゃんのファンなんですよ。 ファンクラブを立ち上げたのも芹香ちゃんなんです 」


「ズルいよゆかり! ミキちゃん来てるならすぐ連絡くれないと! 」


「ゴメンね。 でもいいんですか? お触りは禁止だったのでは? 」


「代表特権! こんなチャンス滅多にないもん! あん! 」


 隙を見て逃げ出した美紀。 すぐに二人は美紀を追いかけて、室内は一気に賑やかになる。


「春翔君 」


 パルクール状態の三人を余所に、ゆかり先輩が俺を給湯室に呼んだ。


「屋上で見た女子生徒の特徴は覚えていますか? 」


「えっ? 」


 何か問題でもあったんだろうか。


「そんな険しい顔をしないで下さい。 私的に気になった程度ですから 」


「はあ…… 」


 確か肩に届かない位の黒髪で、肌は青白く、目は死んだように色がなかったような気がする。 そう説明すると、彼女の表情が少し沈んだように見えた。


「あの…… 」


「少し調べてみるだけなので心配しなくても大丈夫ですよ。 さあ、このティーセットを運んでくれますか? 」


 トレイの上には5人分のティーセット。 お湯もそれなりに多いから結構な重さがある。

ガラスのティーカップに気を付けながら給湯室を出たその時だった。


「うわっ!? 」


「わわっ!? 」


 美紀が俺に突っ込んできたのだ。 身軽な美紀は俺の肩を軸に華麗に宙を舞って避けたが、追いかけていた二人はそうはいかない。


  パシュン


「「きゃあ! 」」


 二人はそのまま給湯室へ頭から突っ込んだ。  やってしまった…… 体ひとつ分、俺は横へ跳んでしまったのだ。


「「…… 」」


 目を見開いて俺と美紀は固まる。


「二人ともいい加減になさい! 」


 背後からゆかり先輩の怒声が飛んできた。


「ゆかり…… 今この人消え…… 」


 信じられないといった目で俺を見る前園先輩。 目の前でテレポートしたのだから言い訳のしようがない。


「目にも止まらぬ速さって言うんです! そんな事より、春翔君にお礼を言うべきでしょう? 熱湯を被らずに済んだんですよ? 」


「へっ? 」


 ゆかり先輩は腰に手を当ててお怒りモードだ。


「ミキちゃんもです! 子供じゃないんですから…… 」


 俺はゆかり先輩に絞られる3人を、お盆を両手に見ていることしか出来なかったのだった。

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