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14話 屋上のひととき

 昼休みになり、蘇我達のアツい目線から逃れて俺は屋上で昼飯を食べることにした。 青空と吹き抜ける風が心地よく、例の薬のせいもあって食べている最中にもウトウトしてしまう。


「ほら春君、野菜も摂らないと栄養偏っちゃうよ 」


 美紀の手作り弁当は相変わらずで、紙の取り皿にコールスローを山盛り乗せて手渡してくる。


「こんなに食えねぇよ 」


「ダメダメ! 食べやすいようにコールスローにしてきたんだから! 」


 ニコニコ顔でおにぎりを頬張る美紀は、体は小さいくせに三人前位をペロリと平らげるのだ。


「それはそうと春君、やっぱりあの人はマズイよ 」


「うぇ? 何が? 」


 美紀は唐揚げを口に放り込みながら、人差し指を立てて眉間にシワを寄せた。


「あの人気ぶりを見たでしょ? あの人には沢山のファンがいて、四六時中パパラッチにも狙われてる。 そんな人の側にいたら、春君だっていつ狙われるかもしれないじゃ…… あたっ!? 」


 探偵みたいなジェスチャーをする美紀のおでこにデコピンを一発。


「お前だって変わらねぇよ。 自分の人気を再確認してみろ 」


 頭を鷲掴みして、強引に屋上出入口に向けさせる。 3人組の美紀のファンだろう、影から覗き見しているのがバレると、そそくさと逃げていってしまった。


「あ…… はは…… 」


 他人づたいの話では、『美紀には迷惑をかけない』というファンクラブの掟があるらしい。 なので取り囲まれる事はないが、影から見ている事は日常茶飯事だ。


「でっ! でも今日みたいなのはちょっとじゃない? 校門まで大名行列だったじゃん! 」


 確かにあれが毎日となると気が滅入る。 ゆかり先輩は毎日の登校があんな大騒ぎなのか? と考えると、なんだか可哀想になってきた。


「そうですね…… 少し自重します 」


「うぉ!? 」


 頭の上からの声に、思わず両手を上げてベンチから滑り落ちる。 見ると後ろからゆかり先輩が俺を困った顔で見下ろしていた。


「か、会長! 」


 美紀もビックリしたところをみると、気配を感じなかったらしい。 恐るべし生徒会長……


「ご迷惑なら一緒に登下校は諦めます…… って、あら! 美味しそうなコールスローですね 」


 ちょうど先輩の目の前には、俺に取り分けたコールスローの皿。 先輩の手には俺と同様、コンビニの袋が握られていた。


「食べます? 食べきれないので遠慮はいりませんよ 」


「春君! それ僕のセリフ! 」


「ミキちゃんの手作りなんですか!? 凄い! 」


 少し自慢気に美紀は弁当箱を先輩に向けて掲げる。 先輩は卵焼きをひとつつまんで、『美味しい!』と満面の笑顔を見せていた。


「会長がコンビニの弁当なんて意外ですね 」


「私、一人暮らしみたいなものでして…… お料理も苦手なものですから 」


 苦笑いする彼女に、美紀は素早く取り皿に一人分を取り分けて差し出す。 美味しいと言われたのが嬉しかったらしい。


「ありがとう。 でも、ご一緒してもいいんですか? 」


「どうせ目立ってるんですからいいんじゃないですか? 春君が気を付ければいいだけの話です 」


 こいつ…… 昼飯でマウント取ろうとしてるんじゃないよな?


「それじゃ失礼して…… 」


 彼女は俺の隣に腰を下ろし、コールスローを口に運んで舌鼓を打つ。


「いつもここで食べてるんですか? 」


「場所は毎日変えています。 よくみなさんがお昼に誘ってくれるんですけど、私はいつもこれですから…… ちょっと恥ずかしくていつも逃げ回ってます  」


 と、コンビニ袋に入った菓子パンを見せてくれた。


「一人暮らしみたいなって言ってましたけど 」


「ええ。 父が証券会社勤務で、海外出張が多いんです 」


 彼女の話に母親の姿はない。 これは聞いてはいけない事だ。


「春君も毎日コンビニですよ。 そうだ会長! 僕の弁当で良ければこれから一緒に食べません? 」


「えっ? でもそれはミキちゃんに負担が…… 」


「二人分も三人分も変わりませんよ。 それに春君、最近全然喜んでくれないし 」


「うぇ! 感謝はしてるんだぞ? 」


「どうだか! やっぱり美味しそうに食べてくれる人の為に作りたいよねー! 」


 まるで旦那に不満を漏らす妻のような言い草に、先輩まで『そうなんですか!』と食いついてきた。 美紀は俺に対し、彼女は父親に対して、早速意気投合した二人はおもしろおかしく愚痴り始めた。


「ふう…… 」


 愚痴を聞きながらお腹いっぱい食べた俺は、いつもの薬をお茶で流し込む。


「お薬…… ですか? どこか具合でも…… 」


「えっと…… ちょっと訳アリで 」


 話せば長くなると思い、そう言ってペットボトルをもう一度煽る。


「うん? 」


 屋上の出入口からこちらを見ている女子生徒と目が合った。 目が合うなり、その人はスカートを翻して去って行ったが、なんだか背筋に寒気が走る。


「どうしたの? ブルっとしちゃって 」


「いや…… 」


 美紀と先輩が俺の目線を追いかけていたが、既にその女子生徒の姿はない。 二人の人気は凄まじい…… この時俺はそう思っていただけだった。

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