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00. プロローグ

魔王率いる魔族との戦争が続く世界。


15年前、魔王に挑んだ勇者は敗れた。


勇者を失った人類は、それでも戦い続けた。

城壁を築き、兵を集め、幾度となく押し寄せる魔王軍を退け続けていた。


だが——。


15年が経った今、戦況は再び大きく動こうとしていた。


最前線に位置する要塞都市——フォルティア。

城壁の外には先日の戦闘の跡がまだ残っている。

街を行き交う兵士。

傷を負った兵士を乗せた荷車。

慌ただしく運ばれる武器や食料。

城壁の上から遠くを見張る兵士。

そんな最前線の街にひとつの伝令が届いた。


「おい、聞いたか?神聖国の神託が届いたらしいぞ」


武器を整備中の兵士が同僚に声をかける。


「神託?」

「あぁ、神聖国から神託が届いてな。王国がどうやら新しい勇者を選ぶらしい」


話を聞いた兵士の目が大きく開かれる。


「新しい勇者?」

「王都に今候補者を集めてるらしくてな、聖剣を抜いた者が新たな勇者になるんだと」

「15年ぶりか…」


そう呟く兵士の指先は震えていた。


「これで、戦争も終わるかもしれないな」

「……そうだといいんだがな」


そう答えた同僚の顔には汗が浮かんでいた。


「なんだよ、その顔は」

「前の勇者様だって、魔王には勝てなかっただろ」

「そうだったな……」


その言葉は冷たい風に乗って城壁の向こうへ消えていった。


 ——そして、一日後。

 人類圏最大の王国アルケイオン王国、王都アルヴェリア

 その中央にある聖剣の祭壇の前に多くの若者が集められていた。



「人、多いな……」


その中の一人、僕——アステルは、辺りを見渡していた。

周囲には、100人を超える同年代の少年少女が集められていた。

正面には巨大で荘厳な祭壇があり、その中央に突き立てられた1本の剣。聖剣だ。この中の1人があの聖剣を抜いて勇者に選ばれるのか……


「絵本で見た通りだ」


顔を輝かせながらそう呟いたのは右隣にいた少年だ。

つい彼のほうを見ると、パチリと目があった。

 

「ねぇねぇ、君も教会の人に声を掛けられてきたの?」

「う、うん。急に教会の人がきたからびっくりしちゃった」


話しかけられたことに驚いたけど、僕が言葉を返すと彼はすごく嬉しそうに笑ってくれた。

 

「だよね!僕も驚いちゃった。僕はノル。君は?」

「僕はアステル。よろしく」

「アステル!いい名前だね、よろしくね」


そう言うとノルは微笑みながら右手を差し出してきた。僕も、その手を握り返す。彼の手はほのかに温かく震えていた。彼は緊張しているのだろう。もしかしたら今日、物語で出てくるような勇者に、自分がなれるのかもしれないから。


「ははは、緊張しちゃって……。だってあの聖剣を抜いて勇者様になったらどうしようって考えたら、夜も寝付けなくて……。アステルは緊張しないの?」

「んー僕はまだ実感がわかないかな。正直、勇者様って物語の中の人って感じがして」

「まあ僕たちの世代は、本物の勇者様って見たことないもんね。僕の父さんは実際にみたことあるんだって!」


僕と話して緊張が解けてきたのかノルは楽しそうにお父さんから聞いた勇者様の話をしてくれた。お父さんか…


「それでね、お父さんはそこで勇者様に助けられて…」

「うん、それで?」

「おい、そこまでにしとけ。もうすぐ順番だぞ、ガキども」


ノルの話にうなずいていると、僕の左隣にいた、身長が高く鋭い目つきの少年がこちらを睨みつけていた。


「ご、ごめん。そうだよね、ありがとう。」

「ちっ、友達を作りに来たのなら帰りやがれ」


少年は苛立ちを隠そうともせず僕たちに告げた。


「そんなつもりじゃ…ただ、緊張してたから誰かと話せないかと……」


そうやってノルが場を和ませようとすると

 

「ふんっ。それがお門違いっていうんだ。お前ら、浮ついた気分で来たかもしれねぇが、俺は本気で聖剣を抜いて勇者になるつもりで来たんだ。お前らみたいな奴らのせいで気を散らされるのはごめんだ。」

「ごめん」

「ぼ、僕もごめん」


そう言い放った彼の表情には、どこか覚悟が滲んでいた。その足はわずかに震えていた。彼の言葉は僕たちだけでなく周りの子たちにも届き空気は引き締まっていた。


この時僕は思った。ああ、彼のような人が聖剣を抜き、勇者として選ばれるのだろうと。


そうしてすぐにノルの番が来た。


「あ、じゃあ行ってくるねアステル」

「うん。がんばって」

「ありがとう」


微笑みながらそう言ってノルは祭壇に向かっていった。


「では、どうぞ」

「はい。」


 ノルが聖剣を両手で握り思いっきり引き抜こうとするがビクともしない。


 数秒ほど引っ張り続けた後、ノルはガッカリした表情を浮かべながら剣から手を離した。


「だめだったか…」

「以上で終わりです。ありがとうございました。」

「……アステル!頑張れよ!」

 

 最後にノルは微笑みながら僕に向けて親指を立てて、教会の人に連れられて奥に消えていった。


「まあそりゃあ無理だろ。あんな野郎に聖剣が抜けてたまるか、もちろんお前にも無理だろうがな」


ノルの失敗を見て少年は僕にそう言ってきた。彼の言葉が胃のあたりにちくちくと軽い不快感を残す。


「次はそこの……アステルさんお願いします。」

「はい。お願いします。」


名前を呼ばれ、軽く会釈をして教会の人の案内に従い、祭壇へ続く階段を上る。

祭壇の上には、突き立てられた聖剣と、儀式を取り仕切る高位の法衣を纏った男性がいた。おそらく司教なのだろう。


「では剣の前にお願いします。エドガル大司教の子とは言え特別扱いはないのでご理解お願いします。」


僕は黙って頷いた。


そもそも父が大司教だからと言って僕自身が特別だと思ったことはない。


まず父と顔を合わせたこと自体がほとんどなかった。

あったとしても母の命日など、ほんの僅かな機会だけだ。まともな親子らしい会話をした記憶もない。

だから、大司教の息子だと言われても、そんな実感はなかった。


今ここにいる僕はただの候補者。


聖剣を抜ければ勇者になり、抜けなければ今まで通りあの人の元で暮らすだけだ。


 そして恐らく後者だろう。今まで自分が英雄になるなど思ってもこなかったし、これからきっとそうだろう。きっと僕みたいな人ではなく、さっき話しかけてきた彼のような理想のある人物が聖剣に選ばれるのだろう。


「では、聖剣に」

「はい。」


 聖剣の前に立つだけで伝わってくる聖なる気配。触れていなくてもただの剣ではないのがわかってしまう。これが聖剣。


ごくりと唾を飲み込む音が、自分の耳にまで響いた。

頬を伝って汗が地面に落ちる。

1度深呼吸をして聖剣を握る。


不思議な感覚がした。触れた瞬間、誰かに抱きしめられたような感覚がした。


全身を包み込むような、温かくて優しい感覚。


なぜだろう。僕は、この感覚を知っているような気がした。


きっとこれも聖剣の力なのだろう。


その不思議な感覚に意識を持っていかれそうになり、僕は我に返った。


そして両手に力を入れ、聖剣を引き抜こうとした。


僕は、木を引っ張るような感覚を想像していた。自分一人では、絶対に抜けないものだと思っていた。


しかし実際はスルスルと抜けていった。まるでそうなるのが決まっていたかのように、重力が存在しないみたいに手に吸い付いて持ち上がった。


「え?」


瞬間。時が止まったかのような感覚になった。


つい、司教の方を向くとこちらを見て微笑み、手を叩きながらこちらに歩いてきた。


「おめでとうございます。貴方が今代の勇者です。」


頭から血の気が引いていった。

決して勇者になりたかったわけじゃない。

今回もただ呼ばれて聖剣を抜いてみろって言われたからしただけだった。勇者になるなんて予想はしてなかった。


「ぼ、僕が勇者?」



初めまして作者の鉄血浪人です。

本作を見つけていただき、そして最後まで読んでくださり本当にありがとうございます。


皆様に楽しんでいただけるようこれから精一杯執筆してまいります。

これからどうぞよろしくお願いします。

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