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第四話 黒百合

「どうしよう……。司令、誰が良いと思いますか?」


 振り返って聞いてくる部下に、フローラの司令の一人である宮森(みやもり)は、「そうだねぇ」と呟いて画面を覗いた。


 画面には、フローラに所属する少年少女たちがずらりと並んでいた。

 宮森も、その多い人数を全員覚えてはいなかった。


「ナビ部は、アマリリスの成瀬。アタック部は、同じくアマリリスの月島、蛇川と、あと数人だな」


「承知しました! あとは、この子とこの子にしようかな……」


 宮森は頷き、書類に目を落とした。


 今回の任務は、急に舞い込んできたものだ。

 本部の者も、焦っているのかもしれない。


 ……ミスがないといいが。


 そんなことを考えながら、宮森はコーヒーを飲むのだった。


 ―――


「今回の任務は、この組織のアジトを潰すこと。頑張りましょう!」


「了解!」


 指名されている生徒は、通知を見て早急に準備を始めた。

 宙に浮くホログラム端末はとても便利で、任務の通知も受け取ることができる。


 ルナたちアタック部は、各々の武器を手に、校舎を出た。

 凛も、ナビをするために部室へ向かった。


 準備は万端だ。


 ―――


「ここがアジトですね」


『ええ。監視カメラを見たところ、確認できるのは五人よ』


「それくらいなら、簡単に鎮圧できますね!」


 ニコニコと言う部員に、ルナは静かに告げた。


「舐めてかかると、こっちがやられるよ」


 その声は、氷のように冷たい。


 アタック部員たちは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


『今なら、入り口付近に誰もいないわ。入って!』


「オッケー!」


 直が入り口をピッキングし、全員がビル内に滑り込む。

 開錠の機械は、ゆうきたちガジェット部お手製のものだ。


 中は薄暗く、少し寒い。

 まるで、お化け屋敷のようだ。


『階段に、男が一人!』


「ふっ!」


 走っている勢いのまま、ライフルで男を殴るルナ。


(強すぎるだろ)


 直は、少し苦笑いした。


 どんどん上へ上がっていく。

 それにつれて、部員の息も上がっていった。


「はぁ、はぁ、三人目……」


『あと二人よ、頑張って!』


 フラフラとしているルナを、直が支える。


 すると。


「何者だっ!」


「うわーっ!」


 上から、太い腕が下される。


 ガタイの良い男だ。


 直がルナを抱えて飛びすさり、なんとか避けることができた。


 のだが。


「なんの騒ぎだ?」


 上から、もう一人の男が来てしまった。


「な、直、これって……」


「大ピンチ、ですね」


「なんで直はそんなに冷静なの〜!」


「冷静じゃないと生きていけないからですよっ!」


「おいおいお嬢ちゃんたち、そんな話してていいのかー?」


 言い合いをする直とルナに、大男が近づいてくる。

 ルナは、直にしがみついた。


「せ、先輩……」


 直は、動きを封じられ、身をよじっている。


 男たちは、少しずつ近づいてくる。


 部員たちは警戒し、武器を構えた。




 そのときだった。




 閃光が、全員の視界を塞ぐ。


 ワイヤーが、大男の体を絡め取る。

 男はバランスを崩し、転んだ。


「ワイヤー……? 一体誰が」


 直が疑問を口にする。

 アマリリスの今回のメンバーには、ワイヤーをこのように扱う者はいないはずだから。


 ルナが、ワイヤーの元を振り返る。


 その先には――。


「国立黒百合学園、常闇朔(とこやみさく)。現場へ到着した」


 そう言った者の制服の胸には、黒百合の校章があしらわれていた。

 光に耐えるためにつけていたのか、実験の保護眼鏡のようなものを外している。

 遮光性だろうか。


 どこかミステリアスな――男子だ。


「どう、して……?」


「上からの命令だ。ここのアジトを潰すようにって」


「どういうこと……?」


『……』


 ルナたちは、戸惑っていた。

 ナビ部の部室にいる、凛さえも。


 これは、異常事態だ。


 本来であれば、アマリリスと黒百合は交わることのない存在。


 フローラに所属している者は、異性と会うことを禁じられているのだから。


 不要な感情を抱かせないため、男子校と女子校に分けられているのだ。


『常闇朔。フローラのデータベースにも、名前があるわ。嘘ではない』


「なんで、同じ任務に……?」


「さあな。上が、間違えたんじゃないか」


 淡々と言う朔は、ワイヤーをするすると巻いていった。


 なぜ、上は間違えたのか。

 そんな疑問が、皆の頭の中に浮かんでいることだろう。


「なんで間違えたんだろうね」


「俺が女子に見えたんじゃないか」


 ルナの問いに、朔の声が。

 打てば響くように返ってくる。

 ルナは、それが少しクセになっているようだった。


 確かに、朔は中性的だ。

 髪は少し伸びているし、顔も凛とした女性のようだ。

 間違えてしまうのも、納得かもしれない。


「凛! 朔と通信を繋げて。指示をお願い!」


『え、ええ。……これで、繋がるはず』


「……繋がった」


「よし! 行くぞぉっ!」


 ルナのその声を合図に、メンバーたちが敵に殴り込む。

 特に、ルナと直と朔は、一撃が重く大男にも効いているようだった。


「ふんっ!」


「キャッ」


 ルナが、大男に吹っ飛ばされる。

 でも、その背中に当たったのは、吹っ飛ばされた衝撃を吸収する、温かい壁。


 朔の、背中だった。


(男の子の背中って、頼もしいな)


 ルナの口角が上がる。


 一瞬、二人の視線が交錯した。


「お前、ちゃんと前見ろよ」


「そっちこそ! っていうか――」


 ルナはライフルを器用に使い、大男に重い一撃をくらわせた。


「私の名前、月島ルナだから!」


 朔はワイヤーを使い、もう一人の男を締め上げた。


 二人とも、もう意識はなさそうだ。


「お疲れ様。朔も、ありがと」


「いや、任務だし」


 この任務が終われば、また会えなくなる。


 少し名残惜しそうに、ルナは拳を差し出した。


 その拳に、朔は無言でコツンと自分のをぶつけた。

 けれど、朔の口角は、少し上がっているようだった。


「あっ、朔、今笑ったでしょ!」


「笑ってない。……じゃあな、ルナ」


「……うん、またね、朔」


 二人は、軽く手を振り合う。


 「また」が来ないことは、どちらも知っていた。


『……なんだったのかしら』


 凛は、思考の底に意識を沈ませる。


(初めて見た、犯人や被害者以外の男子。しかも、私たちと同じ境遇で、大きな戦力だ)


 フローラで、男女が別に育てられる意味とは。


 去っていく朔の背中を眺めながら、アマリリスのメンバーたちは、少し考え込んだのだった。

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