第15話
アルテは突き出された槍を最小限の移動で避け相手の左側面に回り込む。だが、槍の男は避けられた事に気づくと同時に強く踏み込む事で、更にスピードを上げてその場を駆け抜けようとした。それに合わせ、援護に槍を避けた先に魔女の風刃の魔法が来ている。
風の魔法は基本的に不可視なうえに速いので避けることが難しい。だが、アルテはそれすら体捌きだけで回避したおかげで、俺は槍の男に雷の魔法を叩き込むことに成功して落とすことが出来た。
ここに来るまでに何回かキメラと戦った経験が上手く活かせて良かった。
似た様な状況で魔法を放つのが遅れて仕留められなかった時のアルテの説教は厳しかった。
アルテが納得するまで、自分の失敗としっかりと向き合った上に対処の仕方を考えながらずっと探索していた時間はマジで辛かった。
『今のは良かったですよ。次の行動を考えながら動くことはとても大切な事ですからね』
『分かったよ』
魔女の怒鳴り声が聞こえて来た。
「バッカじゃないの!何勝手に突っ走ってあっさり落とされてんのよ!」
「うっせえ!お前の援護射撃も余裕で避けられていたじゃねーか!」
槍の男がこの部屋の隅から怒鳴り返してきているが、今戦闘中だぞ。
「戦闘に集中しろ。近接戦に長けている上に避け辛い雷魔法の使い手だ。この距離でも安心して良い状況じゃないぞ!」
盾の男があっちで盛り上がってる二人を叱りつけ、気を引き締めていやがる。そんな割にしっかりと魔女はアルテに魔法で攻撃をしているし、僧侶は盾の男には守護の魔法、魔女には威力増強の魔法をかけているのは流石だ。
本当にこの二人は縁の下の力持ちだな。
俺は魔力の弾丸の連射を行っているが、盾の男の周りに一定以上近づくと全て弾かれてしまい意味がなかった。
『盾の人の周りには魔力による壁が出来ていますから、彼を攻略しなければ後ろにいる彼女たちには攻撃が届きませんよ』
『あの魔力の感じはバリアだったんだ。凄い魔力の濃さと範囲なんだけど。あれ突破するの無理では?』
『また諦めるのですか?』
『っ、誰が諦めるって言ったよ。全力でやっていいんだろ?なら見とけ』
強がっては見るが、あの盾の男と僧侶の守りはとても堅牢だ。貫通力の高い雷槍も弾かれてしまった。なら下からならどうだと、炎柱を放ったが結果は同じだった。
あそこまでしっかりと守られてると俺の手札だとアレしかないんだけど。
使うか。
『死に絶えろ、凡愚ども。頭を垂れろ、戦士達。高貴な神々が見捨てたこの世界。最早救いなどありはしない。哀れで愚かなお前達に、始まりの冬すら越す事は能わず』
この魔法を使ったら訓練もクソもなく一撃で終わるから使わない様に言われていた魔法だけど、全力で良いって言ったんだから文句言われる筋合い無いよな。
『まあ、それもありですね』
アルテは俺の詠唱を聞きながら、子供を相手にするみたいに言ってきた。
アルテの同意も貰えたし、心置きなく今俺が使える最強の魔法を披露しようか。
過剰に魔力を注いでしまったせいで、若干制御が効かないけど知った事か。
『凍えろ、ウィンドルヴェト』
自分を中心に風刃と氷雪の混じった極寒の暴風が部屋中に広がり、こちらを警戒しながら撃っていた遠距離攻撃を全て吹き飛ばしつつ、冒険者チームを飲み込んだ。
「ちっ、オールガード!」
「天使の抱擁!」
風魔法を消し飛ばしながら迫る吹雪に、盾の男と僧侶が即座にチーム全体に強力な守りを発動し、乗り切ろうとしてるけど意味がない。
既に盾の男に掛けた魔法による守護が破壊され、オールガードと天使の抱擁による連携スキルによる守護も破壊されそうになっている。
さらに僧侶の攻撃魔法も、魔女の風魔法も連携スキルの効果外に出た瞬間に消し飛ばされている。
もし、槍の男が居れば二人の守護が効いている間はアルテに攻撃できたかもしれない。けど視界の悪いこの状況で、更に術者にはこの魔法の効果は無いから簡単に避けて終わりだろう。
全ての魔法とスキルを消し飛ばして冒険者チームの全員が脱落し、部屋の隅に転移したし、魔法を解除するか。
部屋全体が凍り付き、所々水晶の様に氷柱が出来ていた。
だが、槍の男の居た場所だけは壁や床が焼け焦げ、少し離れた場所も所々氷が破壊されている。
『あまり良い内容ではありませんでしたが、とりあえず合格ですね。よく頑張ったね』
『最後はただの力押しだったからなぁ。魔法の制御も失敗したし』
『そうですね。先ずは魔法の制御から始めましょうか。
ふふ、次は貴方一人でここの試験をすることになりますから頑張って下さいね』
『はぁ、楽しそうにしやがって』
まあ、最後は楽しちゃったしな。次は頑張るか。
試験を全て達成しての合格となり、僧侶から合格の金のメダルを受け取り、直ぐにギルドに向かう事になった。
だが、ダンジョン奥の転移陣で別れるまで、槍の男と魔法使いにかなり絡まれたせいで無駄に時間がかかってしまった。
男はアルテと御飯に行こうとし、それをアルテが嫌がり、盾の男が頭を本気で殴り大人しくなるというコントがあった。そしてそれが終わると、今度は魔法使いがなぜ風刃を簡単に察知できたのか等の質問攻めにあってしまった。
アルテは面倒見が良いのか、魔法使いにはそれなりに説明をしていたが、ようやく分かれることが出来たので、ギルドに来たが領主の妻はおらず、別の受付嬢に発行を頼むことになった。
「お疲れ様でした。全ての試練の達成をなされたので、Cランク冒険者として登録致しました。
こちらがCランクのバッジになります。必ず見える場所に取り付けをお願い致します。
無くされた場合、冒険者ギルドの恩恵は全て受けられなくなります。更に再発行をするには50万セル頂く事になるので無くさない様にお気をつけ下さい」
「わかった」
「それでは、これからのご活躍を期待しております」
アルテがローブの胸元にバッジを付けギルドから立ち去る。
『なあ、クエストを受けないのか?』
「受けませんよ。
この後は迷宮の浅い場所で貴方に体の支配権を渡しますので、体と力、戦い方の適合と戦闘の練習をしてください。
その後は宿に戻り魔法の勉強をします」
『えー、少し町中をぶらつかない?
結局昨日は試練の後、宿探して1日が終わったから都市を見れてないんだけど』
「前にも言いましたけど、それは貴方がCランクになった後です。
今の貴方だと体の力に振り回されていますので、技術も駆引きもない力押し以外の達成は出来ませんよ」
『・・・頑張ります』
「頑張って下さい、私も確り教えますから。
後、最後の冒険者達との戦闘はかなり厳しいはずです。
あの時の冒険者達は確かな実力がありましたからね。
槍使いがプライドと油断をしたお陰で簡単に落とせただけですから。先走って一人で来た時、フェイントを混ぜたステップで風の魔法と同時に来られていたら間違いなく、雷槍の魔法は払われていた筈ですよ。
更に言えば、突進の後を確り意識していたのであれば槍を避けられた後、離脱でなく連撃に移る選択が出来ました。
風の魔法の援護を受けての近接戦闘を続けていた場合、貴方は一撃を受けるか大きく離脱する事になっていた筈ですよ」
『あの時はいつも通りの戦い方をさせないために煽った訳じゃなかったんだよな?』
「その様なつもりはありませんでしたよ。少し怒らせてしまうとは思いましたけど、あそこまで考えなしに動くとは流石にないと思っていましたね」
『まあ、そうだよな』
「さて、話を戻しますよ。
この前の特訓では貴方は体の力を制御出来ませんでした。
ですから、貴方の力を今の半分になるように制限を付けて戦ってもらうつもりです。そうして体の力と体の使い方、戦い方をある程度適合させましょう。
この前の特訓の時に分かったと思いますが、半分にしたとしてもかなりの速さと力の強さなので体に振り回されてしまいますよ。
そうなったとしても、1対1で戦えば貴方が勝ててしまう位には彼らと身体能力に差がある事も理解しておいて下さいね。
かなり辛い特訓になりますが貴方なら出来きますよ。ちゃんと貴方を支えますからギリギリまでせめていきましょう」
『…戦闘の特訓でしょ。何でそんな恐い話しになってんの。え、やだ。このままアルテの補佐しながら戦うから特訓止めない?でも無理そうだからお手柔らかにお願いします!』
「ふふ。それじゃあ、始めようか!」
アルテは前みたいにそれはもう楽しそうに怯える俺を無視して迷宮に入って行きやがった。




