第131話 国崩し
誾千代と小松は、千代女の案内で近くの厩から馬をパクって来たらしい。
誾千代の後ろに僕。小松の後ろにラス。
アイリーンは皇帝を抱え、残りは八重とマシューが乗った。
千代女はというと、
「走った方が速いから」
ということで、疾走する僕らに並走してきた。なんでもありか、こいつ……。
とにかくそれで当座の窮地は脱した。
けどすでに兵たちに追われる身だ。しかもどこの門も閉まっている以上、逃げ場はない。
夜明けに土方さんらが門を攻めるという約束はしていたが、その夜明けまであと何時間あるのか。その間に捕まらないという方が難しい。
そうなればもうとれる択は1つ。
このまま当初の予定通り、宮殿を目指す。
だがそのためには上級区画の門を突破しないといけない。
さすがに侵入者だと分かれば、誰も門を開こうとしないだろうから、なんとかして門を開かないといけない。ただ上級区画の門は、外門のようにバルコニー型のテラスはない。そういった警備は不要だからだ。
そうなればもう門自体をどうにかしないといけないわけで、その門は外門よりは小さいものの、押せば開くような代物じゃない。
しかもその前を門番たちがしっかりと固めている。
つまり行き止まり。通行止め。
このまま門を背に戦い続けるか、降伏するしかないのか。
すでに門は目と鼻の先。あと1分もしないうちに袋小路に追い詰められる。そう思っていた時だ。
「イリス、手綱をお願い」
「誾千代?」
「ちょっち、特大の一発、行くからね」
「え、ちょ、何を……」
「あの馬鹿お屋形みたいで気は進まないけど」
と、誾千代は僕に手綱を預けると、その場で鞍の上に膝立ちになった。とんでもないバランス感覚だ。
それ以上に何をしようとするのか。まったくわからないまま、誾千代は右手を頭上に掲げる。
なにが、と思っていると、その右手の先に何か光る球が出現した。それはエレクトリカルな感じでたまにバチッと静電気の10倍もの音が弾けるように光った。
まさか、あれ全部雷?
その圧縮された雷の球を、誾千代は手を前にかざすことで狙いを定め――
「雷切、国崩し砲!!」
発射した。
一直線に跳ぶ雷の球は、僕らの進行方向。その先にある門に向かって高速で飛ぶ。
ちなみに国崩しってのは、立花家の主君である九州に覇を唱えた大友家が持つ大砲の名称で、日本に初めて伝わったポルトガルから伝わったフランキ砲のことだ。
それは敵の国を崩すほどの強力な威力を持つという意味だったわけだけど……。それを雷で再現したってことだろうか。
などと考えているうちにも門は迫る。
このまま誾千代のスキルを信じて突っ込むか。あるいは一度止まるか。それとも左右に別れて絶望的な逃亡劇を続けるか。
判断は一瞬。
「全員、門が開くからそこに突っ込んで!」
そう後続の皆に声をかける。同時、馬を加速させた。
こうなったらもう信じて突っ込むしかない。どれくらいの威力か分からないけど、門を吹き飛ばす文字通り国崩しの威力で会ってほしいと願いながら。
誾千代の放った雷の球。それが城門に触れ――
ズガァァァン!!
弾けた。
門の前に陣取っていた兵たちが、その爆発に吹き飛ばされていく。
一瞬の閃光。
それが明けたあとに出てきたのは、驚くべき光景だった。
門の中央に穴が開いていた。巨大な鉄の塊に、およそ直系3メートルほどの穴だ。その縁は赤くなっていて、どうやら超高温で鉄が溶けているらしい。
ただ間の悪いことに、その穴は
「あ……ごめん、ミスった」
「いや、もう行く!」
「ん!」
誾千代には全てわかったのか。いや、分からないわけがない。だから誾千代は頭を下げて、そのまま馬の首に抱き着くように身を低くした。僕も手綱を握りながら体を縮こませる。
これで後続に伝わってほしいが。
門が迫る。
激突か。それとも……。
南無三!!
「飛べっ!!」
僕の声にこたえたかのように、馬がその足で地面を蹴り、そして飛んだ。いや、呂布みたいに本当に空を飛ぶわけじゃない。跳んだ。跳躍だ。
まるで曲芸のように、門に空いた穴の間をギリギリ潜り抜ける。
チリッと何か頭にきた。
それは熱を持っていて、
「熱っ!!」
どうやら溶けだした縁の部分に髪の毛がかかったらしい。ちょっと焦げたかもしれない。
「ラスたちは!?」
後続が気になって、馬を走らせながらも振り返る。
と、その視界に馬が飛び込んできた。
それも2頭、3頭。そしてそれに続いて赤と白の巫女装束も。
どうやら無事にみんな門を飛び越えてこれたみたいだ。千代女は自前の足でだけど。
そのことにとりあえずホッとする。
けど危機は去ったわけじゃない。むしろ状況としてはより追い込まれた形になる。
上級区画は一般区画より狭い。一般区画の中にあるのだから当然だ。けどその当然が僕らには重くのしかかる。それはつまり逃げられる範囲が狭いということ。
敵の数は増えないものの、ここを越えれば皇帝区画はすぐ。警備も厚ければ、相応の人数が詰めているに違いない。しかも雑兵といった類ではなく、訓練を受けた上級兵士。
さらに厄介なことが、敵兵の口から洩れた。
「ええい、殺せ!」
捕まえろではなく殺せ。
その問答無用さに唇をかみしめる。
これで一気にハードモードに入った。
この状況を突破して、果たして皇帝区画まで行けるのか。
それは神ならぬ僕にはわからなかった。




