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第118話 VS中沢琴

疾風煉獄破山暗黒剣しっぷうれんごくはざんあんこくけん・改!」


絶空暗黒断罪閃光剣ぜっくうあんこくだんざいせんこうけん!」


「舞え、月華乱舞疾風陣げっからんぶしっぷうじん!」


「新・神心真空烈風撃しんしんしんしんくうれっぷうげき!」


 琴さんの薙刀が舞い、次々と斬撃が繰り出される。

 それをひたすらに赤煌しゃっこうで受け続ける。


 袴姿にもかかわらず、これほど機敏に動けるとは思わなかった。

 しかもただの斬撃じゃない。琴さんの攻撃にはスキルである風の力が加わってくるからその都度に吹き飛ばされそうになる。


 おかげでこっちはもうボロボロだ。

 これまでなんとか使いまわしてきた制服だけど、そこかしこが切り刻まれ石で水洗いしたかのように崩れてしまっている。上はそれでもまだマシだ。下はスカートも同様だけど、何よりむき出しの生足が小さな傷だらけになってひりひりと痛い。というか元のイリスには申し訳ないと思う。


 それでも。ここで動くのをやめるわけにはいかない。

 琴さんの攻撃をなんとか避けて、反撃をくらわす。振袖の袂を跳ねさせるが、決定打には至らない。お返しとばかりに横なぎが飛んでくるからそれをしゃがんでかわす。


 いったいどれほどの攻防を続けてきたか。

 飽きもなく戦い続ける意味はあるのか。


 ある。

 はず。


 それを求めて、こうして意味のない――けど楽しい時間を過ごす。


 そしてそれは来た。


「ここだ。法神絶空衝ほうしんぜっくうしょう!」


 琴さんの薙刀が舞う。それに合わせて突風が僕を飛ばす。いや、包む。四方から風が来てその場に固定する。動けない。避けられない。軍神の力も大自然の力の前には無力なのか。

 それでもなんとか体を動かそうとして、それが叶ったのは3秒の後。


 その3秒が命運を分けた。


「ふっ!」


 琴さんの薙刀が来る。動けない、わずか3秒。それが致命的。


 衝撃が来た。

 力が抜けてその場にへたり込む。


「イリス!」


 誾千代の悲鳴。


「動くな!」


 琴さんが制する。

 地面に膝をついた僕の目のまえ。そこに銀色に光る薙刀の穂先があった。

 琴さんはその先で見下ろすようにして僕を制している。


 斬られなかったのか。痛みを認識してようやく理解した。

 衝撃は腹部への一点のみ。石突きで突かれたのだろう。

 情けをかけられた。そうなれば言い訳のしようもない。


「僕の敗けだ、琴さん」


 そうつぶやくように言う。


「イリス。今からでも遅くない。僕に……いや、ゼドラにくだれ」


「それは、できない」


「何故だ! どうして君は……」


「今まで助けてくれた、皆を裏切るわけには……いかない」


「……っ!」


 琴さんの顔が苦悶にゆがむ。

 ああ。そんな顔をしてほしいわけじゃないのに。


「琴。よくやった。では殺せ」


 そんな僕らに割り込むように、白起が言葉を挟んできた。


「しかし、白起殿!」


「殺せ」


 有無を言わさぬ白起の断定。


「…………」


「殺せ」


 無言で佇む琴さんに白起が無情に告げる。


「琴さん、いいんだ。やってくれ」


「しかし、イリス」


「白起! 1つだけ約束しろ。僕を殺しても構わない。その代わり、ここにいる皆は見逃してくれ。ここに来る他の皆も全部!」


 あるいは。

 そうあるいは。


 ここが最後のターニングポイント。

 極限の阻止限界点ポイントオブノーリターン


「断る。ゼドラにたてつくならば皆殺しだ」


 そうか。

 やはり。そうなるのか。


 僕が死に。誾千代や土方さんが許されるとしても、その後に待っているのは再び彼らの決起だ。

 そんなことを情に流されて許す白起ではないと思っていた。こうして各個撃破というチャンスを逃すはずもない。


 正しい。

 論理的には十分に。


 けど、論理的に正しいことが、常に世界において正しいとは限らない。


 そこが白起の限界。


 白起の――弱点。


「は、白起殿! それは――」


「殺せ。迅速にな」


 問答は終わりだと言わんばかりに黙り込む白起。

 それが最後だった。


「琴さん。もういい。やってくれ」


「しかし……」


「琴さん」


 僕は琴さんをジッと見つめる。

 その視線に全ての想いを込めて。いや、その前から。打ちあっていた時から、琴さんに全てを伝えるために。今までもずっと、全身全霊を込めてきた。


 その視線をどう受け取ったか分からない。

 それでも琴さんは何かを感じたように小さくうなずき、僕の前、白起との間に立ちはだかった。そのまま彼女の薙刀を天にかざす。


「イリス……さらばだ」


 琴さんの口から出た言葉。

 そこにはどこか湿り気と、そしていたわりがあった。


「琴さん」


 だから僕は、やはり僕は、ここでも全身全霊で答えることにした。


「ありがとう」


 そして衝撃が、地面を叩いた。

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