表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

835/876

挿話78 中沢琴(ゼドラ軍部隊長)

「敵の動きが分かった。敵の拠点もな」


 そう。総大将である白起が伝えた。

 それは帝都の中、その中心部。皇帝がいた宮殿の一室だった。


 行われているのは軍議だ。

 これまで僕がこのような場所にいたことはない。降将でしかない僕には、軍機を共有する必要はないからだ。


 だが今、こうして僕はここに存在を許されている。

 まぁ許されているとはいえ、残った3人が話し合うのを“眺める者”として見守るしかないのだが。


「敵が落とした砦、その進路、撤退路からするとこの辺りに敵は拠点を築いている」


「ならやるか?」


「呂布殿。地の利はこちらにあるのです。また、敵の目標も。わざわざこちらから出ていって有利を潰すことはないでしょう」


「分かってる巴。だが決めるのは俺じゃない。白起」


「打って出る」


「そうこなくちゃあな」


「しかし白起様」


「巴。この戦いで全てを終わらせる。いや、始める。ゼドラ国の全国統一。その悲願を」


「はっ……」


「夜半よりわずかずつ兵を外に出す。2人はこの地域へ向かえ」


「狙いは?」


「敵の動向からして、明日はこことこことここの砦が攻められるだろう」


「救援するのですか?」


「いや、落とさせる。そしてこちらの別の砦に向かうところを襲撃する」


「ふん、そんな簡単に行くかね」


「行く。相手の方が時間がないのだ」


「ではこちらも3つに分けると?」


「それはない。こちらは一点集中で、敵の心臓部を取る」


「心臓部?」


「イリス。連合軍の中核だ」


「っ!!」


 胸が波揺れざわめく。

 彼女だ。彼女を殺す相談をしているのか。心臓部を取る。彼女を殺すというのか。まさか。いや、だが確かに。彼女がいたからこそ、彼女の働きがあったからこそ、ゼドラ軍は速攻で帝都を落とせず、連合軍を組まれこうして泥沼の戦いに身を投じている。

 だからこそ。ここで彼女を殺すという話が出ているのではないか。


「琴」


 ハッとした。

 巴殿の声。

 同時、気づいた。巴殿と呂布。その2人がこちらを向いて立っていることに。そして巴殿の腕には薙刀が、呂布の手はまだ武器を取っていないが、傍らに立てかけてある武器にいつでも手を伸ばせる位置にある。

 対して自分も腰の刀の鯉口こいぐちを切っていたことに気づく。

 イリスを殺すという内容に、思わず体が反応してしまっていた。わずかな期間の間だが、僕の中でイリスはそれほど大きな存在になっていたらしい。それも悪くないと思う。

 こんなことをしてしまうくらいに愚かだと。新しい自分を発見した思いだ。


 すでに状況は煮詰まるところまで煮詰まってしまっている。

 命を助けてもらった恩はあるが、もともとイリスのために捨てた命だ。そのイリスを殺すなら、この命は閻魔大王に預けてもいい。


 僕は死ぬ。殺される。ならせめて黄泉への旅路を共に歩む者を募っても良いだろう。

 2人は無理だ。

 特に呂布。その武技は目の前で見ていた。彼を僕の腕で殺すのは不可能だ。だが巴殿なら……。悔しさがにじむ。かの巴御前と敵対することに。法神の化身とも言える彼女を。いや、彼女と共に逝けるというのなら、それもまた良し、か。


 気を左――巴殿に向ける。

 それで全てを悟ったらしい。巴殿の険しい視線。そして呂布が少し前かがみになったところで――


「全員、落ち着け」


 言葉が壁となって立ちふさがった。


 いや、気のせいだ。言葉に触感はない。

 だがそうとしか言いようのない。前に出ることができるない。行こうという気すら起きない。


 それは僕だけの現象ではなかった。

 巴殿も、呂布も何かに身を縛られたかのように動かない。動けない。


 白起。剣も抜いていない。ただ立っているだけなのにこの圧。あるいは何かの異能なのか。


「ここでの殺し合いは無用だ。武器を置け」


「……でも、イリスを」


 それだけが何とか言えた言葉。それでも相手に意図は伝わったはずだ。


 ただその後に来た返答は予想外のものだった。


「安心しろ。イリスは殺さない」


「え?」


 イリスを殺さない? ならなぜ先ほどはああいう言い方をしたというのか。


「心臓部を取る。つまりイリス、あの娘をこちらの味方につける」


「いや、無理だろ」


 呂布が即座に否定した。

 けどそれは自分も思ったこと。あのイリスが裏切りをかけるなど。鬼に魂を売った僕とは絶対に違う。


「できる。いや、やれるな……琴」


「え?」


 まさか自分が呼ばれるとは思ってもいず、思わず声が出た。


 イリスを、味方につける。それを僕が?


「できるな。そのためにお前を助けた」


 本当だろうか。最初からそういうつもりだったのか。あるいは騙しか。


 けどここで反論しても仕方ない。

 この白起と呂布に勝てる者はいない。なら僕がイリスを、友を助けるために動く。それは当然のことじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ