第112話 誘因
方針を決めて3日。
ひたすらに僕らは動いた。
帝都南東の森林の中にある広場を隠し拠点として、各地にあるゼドラ軍の拠点をしらみつぶしに潰していった。
拠点といっても、多いところで500人規模が詰めている、小さな砦レベルのものだったので、5千の部隊を向ければ鎧袖一触。ほぼ犠牲もなく拠点を破壊できた。
4日目になると、落とした拠点の数は20に近くなっていた。
敵の死傷者は2千を超え、捕虜も同程度というのに対し、こちらの被害は100人程度。それも重傷はほとんどいなく、どれもがすぐに戦線復帰できる程度の怪我だ。
捕虜、といっても僕らの隠し拠点に置いておくにはいかない(監視の問題や物資の問題がある)ので、近隣の村に保護という形でかくまってもらった。こうしておけば、負傷兵が戦線復帰して再び僕らに刃を向けることもなく、村の人たちからすれば僕らの願いを聞く恩を売りつつ、万が一ゼドラが勝った時にも兵を保護したという恩が売れる。どちらにもウィンウィンな方策なのだ。
何より村や街の人たちが好意的になってきた。
活発に動く僕らに対し、ゼドラ軍は帝都からまったく動かず、砦を落とされるがままにしている。
つまり有利なのは僕らの方で、ゼドラ軍は何か問題があって追い詰められている、というのが世間の見方。
だからここぞとばかりに村や街の有力者が物資の提供や、先の捕虜の扱いなどで援助してくれるようになっている。
「ふっふーん。いい気分ね。こうも歯ごたえないと、逆に物足りないけど」
連戦連勝。しかも民衆の評価も上々ということで、一緒に動く誾千代のテンションもうなぎのぼりだった。
てゆうか誾千代ってかなり武闘派? 気が強いとかは聞いてたけど。なんてったってローカーク門に雷落として占拠しようとか言い始めてるしなぁ。ちょっと不安だ。
「すぐに嫌でも強敵が出てくるよ」
「あの白起とかいうの? それと呂布?」
「ん……」
「でも出てこないじゃない。ここまでやられてるのに、じっと貝みたいに籠ってるなんて、やる気ないんじゃない?」
いや、違う。
やる気が――殺る気が充実しているから白起は出てこない。
はっきり言って、敵の目の前で軍を動かすのは愚策に近い。動くということは隙があるということ。隙があるということは、そこを攻められれば負けるということ。
たとえば今。軍を3つに割っている。そして合計値では味方とゼドラ軍の兵数はほぼ互角だ。
そうなった時に、ゼドラが3つのどれかを強襲して壊滅させて、残る2つを順番に叩けば労せず僕らを血祭にあげることができる。
もちろんそれをこっちの皆は分かってるから、偵察は遠くまで出しつつ、互いに大きく離れ過ぎないレベルの距離感を持って作戦を遂行しているわけだけど。
それを分かってか。あるいは他の何かを狙っているのか、白起は動かない。
僕らが拠点を落とし、ゼドラの兵を減らし、さらに周囲の評価も上げているのを、黙って見ている。それが不気味でならない。
何か大きな手を準備しているような。一撃で僕らをせん滅させるような。
だって白起ほどの軍略家なら、僕らの隠し拠点の位置はおおよそ掴んでいるだろう。なんてったって僕らは隠し拠点を中心に、敵の拠点を狙って落としていっている。
つまり落とされた拠点と、その次の拠点を線で結べば。その奥に僕らの隠し拠点を見つけることは可能だ。
隙を見せ続ける僕ら。
発覚している隠し拠点。
にもかかわらず動かない白起。
正直、嫌な予感しかしていない。
「どうしたのよ、イリス」
「…………いや、なんでもないよ」
ここで下手に味方の士気を下げる必要もない。僕は口をつぐんだ。
「あ、イリスちゃん。それで次はどうする? ここから北に少し行ったところに、もう1つ砦があるけど」
「それにしても正確な地図よね。あの千代女って子。いえ、あれが噂の武田軍団の諜報部隊の長ってことね」
ラスと誾千代。2人のやり取りを聞きながらも、僕の意識は別の方向を向いていた。
西。そこから何かが来る。
いや、そちらは帝都のある方。そこから来るものは1つしかない。
「ラス、すぐに狼煙をあげて。誾千代、すぐに部隊を下げる。打ち合わせの通り、合流ポイントで部隊をまとめる」
「わ、分かったイリスちゃん!」
「了解。ついに来たのね」
「ああ」
ついに、というよりようやく、だ。
ゼドラ軍。おそらくこれが最後の戦いになる。この戦いに勝った方がこの大陸を支配する。それは間違いない。
そういよいよ胸に去来する想いに身をゆだねていると、
「北から敵!」
「なに!?」
北? どこから。いや、まさか。
回り込まれた。そして僕ら、一番北を行く分割された部隊。狙い撃ちされた。
やはり白起は見ていた。
どこが一番、砕きやすいか。
どこが一番、狙いやすいか。
じっと見つめ、観察された。その果てのこの奇襲。
そしてその奇襲を成功させる唯一のピース。その速度、その強靭さ、全てを兼ね備えるのは1人しかいない。
「そこか、イリス!」
呂布奉先が、再び現れた。
切野蓮の残り寿命60日。




