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第111話 イリスの策

 戦機せんきとい言葉がある。

 いくさの機運。つまりは戦いが起こりそうなタイミングというもの。


 そして戦機が熟すという言葉があるように、そのタイミングはそれはじわじわと訪れる。

 柿が食べごろになるように。桃がれるように。徐々に変化して食べごろになったタイミングで動き出す。


 この僕らと帝都を取り巻く環境もそんなものだった。


 というより、そうなるのは必然だった。


 僕らはゼドラ軍を駆逐して、皇帝をこの帝都に再び座らせたい。

 ゼドラ軍は僕らをせん滅して、帝都を支配。新たな帝国を築きたい。


 2つの相反する思惑が存在し、そしてどちらかしか達成することができないとなった場合。そこに争いが生じるのは当然のこと。

 話し合いで解決する段階は過ぎた。いや、そもそもがなかったのだ。

 だから僕らとゼドラ軍。

 皇帝とゼドラ太守。

 あるいは僕と白起。


 どちらかが死に絶えるまで、この戦いは終わらない。


 本当にひどい話だ。

 そのためには一体どれくらいの人の死を重ねればいいのか。どれくらいの破壊と消滅を繰り返せばいいのか。


 白起がいなければ、そもそもゼドラ太守も皇帝になろうなどと思わなかったに違いない。

 僕がいなければ、帝都を追い出された時点で全国を巻き込んでゼドラ国に反抗しようと思わなかったに違いない。


 相反するところに存在する2人の人間が、ここまで全国民を巻き込む騒乱を引き起こすなど。その当事者の1人が僕だなんて。本当に。最低すぎて消えたくなる。


 それでも。ここまで進んでしまったからにはもう。

 何よりラスやカタリア、姉さんたち。この世界に住む人たちの未来。

 土方さんや高杉さんら。ここまで共に戦ってきた人たちの意義。

 何よりこれまで散っていった仲間たちの存在。


 何より、このイリス・グーシィンという少女の命。


 それらがここで引くことを許さない。どれだけ罪深くても、最後の最後。果てるまで戦い続けるしかない。


 あの自称死神の高笑いが聞こえてきそうで反吐が出る。

 本当に救いがたい。


 それでも僕は前を見て進む。

 その身に降りかかる罪に耐えながらも。先に進む。

 そう決めたから。


「この戦い。僕らが不利です」


 本隊と合流したその夜。

 僕は皆を集めて明日からの動きを伝える。


「それは相手が籠っているからだな、イリス」


「その通りだよ、スキピオ。こちらから攻めようにも、あの城壁を突破するのは不可能だ。源為朝みなもとのためともみたいなスキルもないしね」


「ならどうする。こっちから攻められないんじゃ、どうしようもない。むしろ遠征軍のこっちが不利だ」


「土方さんの言う通り、今、戦いの主導権はあっちにあります。このままだと僕らは干上がるか、その前に敵の奇襲を受けて壊滅します。それはここでの負けじゃない。反ゼドラ連合の完全敗北。つまりアカシャ帝国の終焉、そしてゼドラ帝国の勃興を意味することになる。ゼドラ軍はここぞとばかりに攻勢に出て、民衆の期待を裏切った僕らは各個撃破されて終わる」


「だからどうするってのよ、イリス?」


 誾千代が苛立たしげに吐き捨てる。

 こういったじりじりとした展開が苦手なのだろう。


「答えは1つ。こちらから仕掛ける」


「でも、それってダメじゃないの? あの帝都の城壁は越えられないでしょう?」


「話聞いてねーなー。今からそれを説明すんだろうが、イリス様が。黙って聞いてろ」


 当然の疑問をていした小松に、菊が暴言を吐く。

 じろりと睨んだ小松の殺意を、菊はどこ吹く風と聞き流す。


「イリス、説明して」


「ああ、そこはちゃんとするよ、マシュー。もちろん帝都は攻めない。攻められない。ならどうするか。謙信さん、今まで戦ってきた相手で、一番やりづらかったのは何です?」


「ん? それはあの甲斐のクソ坊主との戦いだが……ふむ、その中でも苛立たしいのは最初の川中島だな。あのクソ坊主はあっちへふらふら、こっちへふらふら。まるでつかみどころがない。しかもご丁寧に影武者まで用意して。本当小心者だな。ああ、思い出したら非常に腹が立ってきた。そこのクソ坊主の女、ちょっと斬らせろ」


「は? てかさっきからクソ坊主ってなに? まさかお屋形様のこと? しかも小心者とか。舐めてる? 舐めてるよね? よし、ちょっと手裏剣の標的になって」


「はいはい。2人に聞いた僕がバカだったよ。とりあえず矛を収めて」


 相変わらずの上杉謙信と望月千代女の仲の悪さ。

 けどまさにちょうどその話が欲しかった。


「そう。相手は帝都に籠って出てこない。それはそうした方が有利だから。城攻めには3倍の兵が必要って言うけど、こっちにそんな兵力があるわけじゃない。ましてや攻城兵器も少ない。仮に四方を囲めば、それだけ兵が薄くなる。そこをあの男たち、白起と呂布は見逃さない。各個撃破で負けになる」


 そう。なら、だ。

 ならどうするか。


「あ、分かったイリスちゃん。敵に出てきてくださいってお願いするんだね!」


 うん、そうだねー。そうだといいねー。あー、可愛いなぁラス。

 けど言ってることって決戦しようって挑戦状送るってことだよな。ある意味すがすがしいというか……。


「僕にはわかったぞ。つまりイリスは焼き働きして、出てきたところを叩こうってわけだな」


「はい、高杉さん正解」


「ふん、高杉。それくらいで得意満面になって恥ずかしい奴。俺ならそんなこと言えないね」


「はいはい。分からなかったからってひがむなよ? 鬼の副長さん?」


「よし、斬る」


「やってみろ」


「土方殿、加勢します!」


「やるなら外、出てってよ」


 この2人は相変わらずだなぁ。そこに八重も加わってくるし。

 もう止める気も失せる……。


「イリス、その焼き働きというのは……もしや焼くのか。村を」


「ええ、関羽さん。そこら辺を焼いてあぶり出します」


「それはいかんぞ。村の人々は翻れば皇帝の民。それを傷つけては義にもとる」


 うん。関羽はそれでいい。いや、それでこそ関羽。


「はい。それはもっとも。焼き働きといったのはあくまでたとえ。そしておそらく、敵は村を焼き払っただけじゃあ出ては来ないでしょう。だから――」


 そう言って僕は地図にバツ印をつけていく。

 そこは千代女がこちらに来て調べてくれた場所。帝都を守るように展開するバツ印。すなわち――


「明日から軍を分け、こちらから攻めに転じます。それぞれ点在する砦を落とし、敵が出てくるのを待ち――討つ!」

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