第067話 ミシルパとウォーペアッザ
2025/1/12ー後書きを更新しましたー
「逃げ遅れている人が、まだまだいますわね」
ミシルパは、避難する人々の波を逆走しながら、隣を走るウォーペアッザに言った。
「首都内は安全だと思っていた者も、かなりの数いただろうからな。実際、俺もこんなに速く門が破られるとは思っていなかった」
二人は、体内魔力を循環させ、通常の倍以上の速度で走っている。
馬に乗って移動した方が速いのだが、街の混乱を考慮した二人は、人との衝突を回避しやすい徒歩を選択していた。
軍の誘導こそあれど、避難している民間人は、半分パニックとなって西の方へと移動しているからだ。
「もう少し進めば、走りやすくなるだろう」
魔力循環によって強化された視神経が、人ごみの中にある隙間をウォーペアッザの脳に知らせる。
身を翻すように回転させ、ウォーペアッザは人とぶつかるのを回避した。
「急ぎませんと、戦況はあまりよろしくありません、のっ!」
子供を避けるため、ミシルパは軽く跳躍し、建物の壁を蹴って人と人の間に身体を滑り込ませた。地面に片手をついて姿勢を立て直すと、そのまま勢いを殺さずに駆け続ける。
ゲージから得られた情報によれば、カルバリ軍の左翼が、敵の猛攻を受けているらしい。
ミシルパとウォーペアッザは、激戦となっている左翼側に合流しようとしているのだ。
恐らく、貴族の居住区が近いため、その地域を押さえてしまおうとロボリ軍が考えているのだろう。
「このような状況で言うのもなんですけれど、これ程体内魔力の操作が上達しているとは思いませんでしたの」
鮮やかな身のこなしで、避難民の間をすり抜けるミシルパが、ウォーペアッザとの距離が近づいたタイミングで言った。
再び距離を開けた二人だが、肩が近づいたところで、ウォーペアッザ答える。
「深い思考領域を使う練習も、役立っているよな。強化した身体の動きを、十分制御出来ている」
人波の動きが手に取る様にわかり、体が自然とその中を縫ってゆくような感覚だ。
夕方になるたび、五人で集まって魔法の練習をしていた賜物といえよう。
間もなくして、溢れかえっていた避難民は、数えるほども居なくなる。
変わりに聞こえてきたのは、遠くで繰り広げられる戦闘の音だった。
「良かったのか?」
「何がですの?」
突然問われて、ミシルパは聞き返した。
「シャポーを一人だけで、研究院を護る軍に残しただろ。シャポーを、一人にしたくないんじゃないかと、思ってさ。今からでも――」
「戻りませんわよ」
俺だけでも大丈夫だ、と言い出しそうだったウォーペアッザの言葉を、ミシルパはあっさりと遮った。
「私が戻った所で、シャポーさんに守ってもらう者が増えるだけですの。そうは思わなくて?」
「あー、確かに。俺でも、守ろうとしてきそうだな」
ウォーペアッザは、自分の身に置き換えて考えてみると、軽く肩をすぼめた。
「なら、シャポーさんが他の戦場を気にしないで済む状況を作るのが、一番役に立てると思いますのよ」
片眉を上げたミシルパが、人差し指を立てて「これが正解だ」と言わんばかりの表情で言った。
ウォーペアッザは、返事をするでもなく何度か頷いて、彼女の意見に同意する。
そして、二人は前方へと視線を戻した。
激しくぶつかり合う戦闘の音と、精霊達の上げる悲痛な叫びが交錯する戦場は、目の前にまで迫っているのだった。
2025/1/12更新
本日投稿予定でしたが、体調が戻っておらず、更新予定を来週に延期させて頂きます。申し訳ありません。
次回更新は1月19日(日曜日)の夜に予定しています。
以下2025/1/5のお知らせ
次回投稿は1月12日(日曜日)の夜に予定しています。
体調が本調子ではないため、短めでアップさせていただきました。




