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深更、急遽召喚された丞相以下、沙嘴国廷臣たちは〈王の間〉に慄然として立ち竦むばかりだった。
自身、血の染みた巾を巻いて隻眼となった帝国征夷派遣軍総帥紂謖は言い放った。
「御覧の通りだ! 湖鬼と通じた謀反人・須臾王子の成敗は陽王、御自らの御手によって為された!
そして、それは取りも直さず今後、王が我等派遣軍──延いては島帝国に全面協力なさるという明白な意思表示である!
明日以降、私、紂将軍は王の忠実なる股肱となって、ここ沙嘴国における一切を取り仕切る所存である。皆の者、これに異存は……ないな?」
臣下諸官、一斉に玉座を仰ぎ見た。
そこに陽王はいた。
玉座も、その下の玉段も、後ろの壁も、天井に至るまで、凄まじい血飛沫──
座している王自身が、また血塗れだった。
王の顔貌は月のように白く、死人のように静寂。
虚空に向けて見張られた双眸には何の感情も映ってはいない。
抜け殻のごとく、ただそこに座っているだけの若き王だった。
〈王の間〉の一隅には血の海の中に横たわる弟王子の骸が放置されていた。
廷臣たちが視線を逸らせて、なんとか見まいと努めている、それ……
「では、おまえたちはもう下がれ!」
紂謖はきっぱりと申し渡した。
「ここは──」
と言って、〈王の間〉を眺め渡しながら醜悪な笑みを浮かべる。
「今夜一晩、何者も手をつけることを禁ずる」
心の中で紂は続けた。
我々帝国人の勝利の証に!
そして、この俺様、帝国征夷大将軍紂謖の沙嘴国完全制圧の記念に……!
この血を洗い流し、あの死体──美しい湖鬼め!──が取り片付けられる朝には、
沙嘴国は俺のものだ!
〈王の間〉を退出する廷臣たちのヨロヨロと心許無い列を見送った後、今一度、紂は玉座の沙嘴王に話しかけた。
「事実上そこに座る最後の夜を心置きなく過ごさせてやるぞ、陽王? 我が盟友よ!
せいぜいゆっくりと、水入らずで、弟を弔ってやるがいい。我々はこの血を肴に飲み明かすとしよう!」
例の心身を凍らせる凶々しい笑い声とともに紂将軍と配下の将兵は去って行った。
王は一言も発さなかった。
その身に散華した弟の血を拭おうともせず、死のような沈黙の中、一人座している。




