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ビル・フッカー博士、フロクス・キニアン女史、そして赤穴洸〈至宝〉管理局員の三人は今経っても発掘調査のベースキャンプに帰って来た一台の砂上乗用車の傍らへ駆けつけた。
先刻のスタッフの報告通り、後部座席に寝かされているのはジニー・スーシャだった。
三人は暫く口もきけないまま、バギーの砂に汚れた窓硝子越しに眺め入るばかり。
発見者だと言うスタッフの面々が、代わる代わる発見時の状況について説明する声だけが砂漠の特設基地内にやけに大きく谺した。
「……この先の二十キロくらい離れた砂の中で偶然発見したんです。僕たち三人は今日、非番を利用してダイナミックな砂漠の夕陽でも見ようかと出かけたんです。そしたら──」
「文字通り、一面の雄壮な夕焼けの中、妙な反射が目に入って……何だろうとそっちへ行ってみたら、何と! このジニーが倒れていたんです」
「ほら! どうやらこの、髪につけている髪飾りが陽に燦いたんでしょうね?」
「まさか、と目を疑いましたよ! だって、例の三日間と言うものここら一帯、あれほど隈無く探し回って……それでも見つけられなかったのに、今頃になって、ねえ?」
「でも、顔を見てください。ね? これはあのジニーでしょ?」
「しかも失踪以来、今日で何日目でしたっけ? その間砂漠に放り出されていたにしちゃ、全く元気そのものです!」
「ついさっきここへ来たって風ですよ?」
各人が説明する間に、同じく馳せ参じた医師のトレウがジニーをザッと診察した。
「頭を打っているようだな。何処か高い所から落ちるか何かして──だが、心配はない。軽い脳震盪程度だから、じきに意識は戻りますよ。え?」
ぐるりを取り囲んだまま直立している三人のただならぬ形相に医師は戸惑った。
「ど、どうかしましたか、皆さん?」
「お聞きしてもよろしいですか、博士?」
若いスタッフドクターを無視して赤穴はビル・フッカーに尋ねた。
「このジニーの着ているものに博士は見識がおありですか?」
その声は震えていた。
「君の質問の答えは──」
答えるフッカー博士の声も震えている。
「YESであり、NOだ。つまり……失踪前にジニーが着ていた服かという意味では、丸っきり見覚えがないのでNO。だが、超古代民俗学の見地から言えば、YES……」
女史がすかさず同意して、
「だってこれは……私たちが今現在、発掘調査中の……古代沙嘴国の民族衣装ですよ!」
赤穴はギュッと目を瞑った。
「まさか」
博士がそんな管理局員を振り返って訊く。
「じゃ、さっき君の言っていたジニーの未開放の能力というのは──」
「そうです」
〈至宝〉管理局員は認めた。
「僕たち管理局用語で言うところの、〈超時間瞬間移動〉こそジニー・スーシャの有す〈至宝〉なんです……!」
フッカー博士の居住コンテナの長椅子の上でジニーは意識を取り戻した。
目を開けたジニーが最初に見たものは心配そうに覗き込んでいる博士の顔だった。
「気がついたかね?」
「フッカー博士? ここは……?」
博士の隣にはキニアン女史。それから、その横に赤穴局員の顔を見つけた。
「あ!」
赤穴は静かに微笑した。
「お久しぶり、ジニー? また会えて嬉しいよ」
「赤穴局員? とうとう来ちゃったのね? ハッ、じゃ……博士?」
博士はゆっくりと頷いた。
「ああ。君の正体については全て聞かせてもらったよ」
「ついでに能力もね」
これは女史。
「能力ですって?」
ジニーの顔は怒りで紅潮した。
「あの、私自身わけのわからない、未開放なんとかってヤツ? こんな処まで追いかけて来て、まだ懲りずにそんな胡散臭いこと吹聴して回ってるの、あなたは?」
ジニーは顔を局員から博士に向けると必死になって訴えた。
「博士! この人が何を言ったか知らないけど、でも、そんなのは信じるに値しないデタラメもいいとこなんです! 正体を偽っていたことは謝ります。でも、〈至宝〉管理局員ってのは御覧の通り誇大妄想狂ばっかりで……私はこんな人たちに物心ついてからずっと追い回され、閉じ込められ、見張られて来たんです。ねえ、理解してください! 誰だって我慢できなくなるわ!」
「落ち着きなさい、ジニー」
「嫌よ! 放っといて! もうたくさんだわ! 私、私……あんなとこ大っ嫌い! 二度と帰りたくない!」
博士の簡易居住スペースの薄暗い隅に立つ赤穴局員の顔は、気のせいか泣きじゃくるジニー以上に引き攣って見えた。
フッカー博士は興奮状態の少女の肩に優しく腕を回して落ち着かせようとした。
その様子を複雑な表情で眺めながらキニアン女子が口を開く。
「それよりも、ジニー、あなたは一体何処に行っていたの? そのことについて、私たちはまず聞く必要があるわ」
ジニーはハッとした。
「そうだったわ! 私、こうしちゃいられないのよ。急いで私も城へ戻らなきゃ……螢が大変だわ!」
ジニーは取り囲む三人を順に見渡すと、改めて博士に視線を据えて懇願した。
「博士、砂上乗用車を一台貸してください。単車でも構いません。それがあったら私でも螢に追いつける……!」
「ジニー……」
掠れた声でその名を呼ぶ赤穴だった。
しかし、そんな管理局員をフッカーは目で制した。
「いいとも。何だって貸してやるよ、ジニー。だが、落ち着いて、そして、きちんと説明してほしい。何故そんなものがいるんだ? それで一体何処へ行こうと言うんだね? さっき城とか言っていたが、それは?」
「城って──沙嘴城です!」
ジニーは焦れったそうに両手を揉み搾った。
「私はあんまりここらの辺境に分布する少数民族の地理に詳しくないんだけど……でも、博士ならご存じですよね?」
「沙嘴城? 勿論だ」
流石にビル・フッカーも大きく息を吸い込んだ。
「知っているとも……!」




