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「私に面会人だって?」
掘り下げた遺跡の中でフッカー博士は驚いて顔を上げた。
不安そうに頷くキニアン女史の後ろに長身の男が立っている。
勿論、博士には全く見覚えのない初対面の男だった。
男は女史に続いて穴の底まで降りて来ると礼儀正しく博士に握手を求めた。
「お仕事の邪魔をして申し訳ありません、フッカー博士? 少しばかりお尋ねしたいことがあります」
「君は?」
キビキビした動作でIDカードを提示する。
博士と女史は一緒に覗き込んで一緒に驚きの声を上げた。
「〈至宝〉管理局員……!?」
すぐに博士は持ち前のユーモアで苦笑してみせた。
「なるほど。確かにここは私たちにとっては宝の山だが。君たちの関わる〈至宝〉とは少しばかりモノが違うと思うがねぇ?」
「ごもっともです」
管理局員赤穴洸も笑って周囲を見廻して、
「勿論、僕もここの宝を掘り出しに来たわけではありません。この娘をご存知ですか?」
胸ポケットから写真を取り出した。
今度も博士と女史は同時に声を上げた。
「これは──」
「ジニー……?」
「では、やはりこちらでしたか!」
男は心底、安堵の息を吐いた。
「博士が身元不明の少女を拾われたという情報を入手しまして……会わせていただけますね? どちらです?」
「君──」
博士を遮ってフロクス・キニアンが訊く。
「では、まさか、この娘──ジニーが?」
「ええ。公式認定番号を有する、我々の処の〈至宝〉です」
〈至宝〉管理局員赤穴洸は博士と女史を代わる代わる見つめて、半年前、ジニーが管理局を脱走したところから始まって、続く自身の孤軍奮闘の追跡の旅の概略を簡潔に語って聞かせた。
「……というわけでこんな辺境星くんだりまで駆け巡らされました。しかし……やれやれ! これでやっと連れて帰れます!」
語り終えた赤穴は、眼前の二人がひどく困惑していることに気づいた。
「どうかしましたか?」
「こいつは……困ったな」
取り出した緑色のハンカチで眼鏡を拭きながら口籠るフッカー博士。
赤穴は気色ばんだ。
「ご存知のように〈至宝〉の管理権……保護監督義務は我々管理局にあります。まさか、引き渡しを拒否なさるおつもりではないでしょうね?」
「いや、困ったと言ったのは──ちょっと理由があって。えーと?」
「赤穴洸です」
「そう、赤穴君。私たちとしてもすぐにでもあの娘の居場所を君に教えたいんだが……」
「とおっしやいますと?」
嫌な予感に管理局員の端正な顔が引き攣った。
博士は決定的な言葉を口にした。
「残念ながら我々も、今現在、ジニーが何処にいるか知らないんだよ」
「──……」
〈至宝〉管理局員の驚きは激烈だった。
赤穴は蹌踉て、そのまま昏倒するかとさえ思えた。遺跡に組んであった発掘用支柱に掴まって辛うじてそれは免れたが。
「……畜生! そんな!」
「何が、そんな、よ?」
今まで口を噤んで来たキニアン女史がここで爆発した。
女史は大柄な博士より一歩前に出て蒼白の局員に食ってかかった。
「はっきり言って、こっちこそあの娘のおかげで大迷惑を被ってるのよ!」
「おい、キニアン君、落ち着いて──」
「いいえ、言わせてください、博士! この人たち……高給取りの管理局員がしっかり働いていないから、こんな処で、こんな私たちまで引っ掻き回されるんだわ!」
最初の衝撃から立ち直りつつあった赤穴は別種の驚きとともに訊いた。
「……ジニーが何かしでかしたんですか?」
「何かも何も……ここに着いて一日目で行方知れずになってしまったのよ!」
夜中に突然宿舎を飛び出して行ったのまでは確認している。
だが、後はそれっきり──
「何の跡形もなくまるで立ち消えたようにいなくなってしまったのよ!」
ことは人命に関わる。しかも、ここ、辺境の当惑星の砂漠地帯に、生きて活動している人間は現在発掘調査に訪れた自分たちくらいのものだから、調査隊スタッフは続く丸三日間、全てを投げ出して辺り一帯を隈無く捜索した。
「ここにいるフッカー博士を先頭にね! おかげで当初組んでいた発掘調査の予定表が目茶苦茶に狂ってしまったわ!」
「予定表はともかく──」
顔を曇らせるフッカー博士。
「そうまでしても遂に私たちはあの娘を見つけ出せなかったんだよ」
「何も博士がお気になさる必要はありませんわ」
即座に言って女史は博士を慰めた。
「お聞きになったでしょう? あの子ったら、まあ、〈至宝〉ですって!」
女史は首を振った。それを知っていたらあれほど苦労して捜索活動をする必要はなかったのだ。
「ほら、テレポーテーションとか、そういうので何処かに逃げたのよ。きっと、この人、管理局の追っ手が迫っているのを予知するか何かして」
「いや」
再び支柱にしがみついて体を支えながら管理局員は呻いた。
「あいつは……その手の能力は持っていないんだ……」
「?」
意味がわからず訝しんで特等公務員の若者を眺める博士とその助手。
赤穴洸は搾り出すような声で繰り返した。
「あいつは……管理局でも数少ない〈未開放至宝〉で……テレポーテーションとか予知とか……千里眼、読心力、念写、念力放火、テレキネシス……とにかく、その種の便利で手頃でありふれた能力は持っていない」
「でも」
憤慨しつつ女史は言い募る。
「いなくなったのは事実なんですよ!」
「それが本当なら……まさか、ひょっとして……」
今度は博士が堪らず、
「まさか、ひょっとして、何だね?」
「やっちまったのか?」
「何を?」
「〈開放〉を、ですよ!」
今や傍目にもわかるほど管理局員は震えていた。
「あいつが持っていると我々が見込んでいた能力……局内でも〈最高峰至宝〉として慎重に見張り、管理され続けて来た恐るべき能力……それを、こんな処で?」
赤穴の悪鬼の如く掠れた声に思わずフロスク・キニアンは博士にしがみついた。
博士はそんな女史の肩を優しく抱きながら、恐る恐る尋ねる。
「君、その能力ってのは、一体──」
しかし、ここで調査隊のスタッフの一人が息せき切って駆け込んで来た。
「は、博士! 大変です!見つかりましたっ!」
「後にしたまえ」
大切な話の腰を折られて流石に日頃は温厚なビル・フッカーも厳しい声で闖入者を叱った。
「こっちは今それどころじゃないんだ」
キニアン女史も我に返って、博士から体を離すと、
「君たち、発見物のあった際の手順は頭に叩き込んでるはずでしょ? 何を今更慌ててるの? もっと落ち着いて冷静に対処なさい」
「で、でも」
スタッフは当惑気味に頭を掻いた。
「いいんですか? あんなに捜してたじゃありませんか? 幸いそんなにひどい状態じゃないですよ。怪我だってほとんどしてませんし」
掘り下げた遺跡の穴の底で三人は一様に目を瞠った。
博士が代表して、改めて問う。
「怪我だって? 何の話だ?」
「だから」
焦れったそうに発掘調査員は答えた。
「見つかったんですよ! ありゃ、どう見たって、正真正銘、ジニーです!」




