プロローグ
キィィィィィィィィィィィィン
それは離陸前の飛行機のような。
キィィィィィィィィィィィィン
或いは発射前のロケットのような感じだった。
耳をつんざく幻聴とまるで震えのような振動。
その中でスピーカーから流れるアルバート・アイラーの祈りのようなサックスは、確かに聴こえていた。
ぷぅおぉぉぷぅあぁぁぱおおぴーひょぴーひょー
1時間前に鎮咳薬メジコンを20錠オーバードーズした俺は、今まさに両目をしっかり閉じて『ぶっ飛』ぼうとしている。
――刹那、声が響いた。幻聴だろうその声は、ノイズ混じりの若い男の声だった。
『Kill the Past(過去ヲ殺セ)』
幻聴まみれなのに、なぜ理解できたのかはわからない。まるで脳に『情報』を注射されたかのようだった。
キィィィィィィィィィィィィン
幻聴は延々と永遠に続く。身体の振動が早くなっていく。
キィィィィィィィィィィィィン
ぷぅおぉぉぷぅあぁぁぱおおぴーひょぴーひょー
『Kill the Past(過去ヲ殺セ)』
瞬間、何かが体内で弾けたような感覚があった。ハッとして思わず目を開けてしまう。舌打ちをした。そして俺はそのまま固まった。
俺は宙に浮いていた。
さらに目の前には目を閉じ、パジャマ代わりのいつものジャージを着た俺がベッドに横たわっていた。
「なっ……えっ……? 浮いてる? ……幽体離脱……」
つい独りごち、こぼれ落ちた自分の言葉に気付かされる。
『幽体離脱』。
よくよく見やれば俺の両手はどこか透けている。透けた手の先には、ゆっくりと胸を上下させている≪本物≫の俺がいる。いつの間にか幻聴は何も聞こえない。
何だこれは。現実か? それともオーバードーズの幻覚なのか?
浮かんだのは、その疑問の答えではなかった。
――もし≪幽体≫の今、現実のオブジェクトに干渉出来たのなら。
そう、それは子供の頃から思っていたこと。
――もし≪幽体≫の今、≪幽体離脱≫から戻ってそのオブジェクトに変化があったなら。
そう、それはオカルト好きな幼少の俺が考えていたこと。
『もし≪幽体離脱≫をしたら、現実に干渉し、そして≪幽体離脱≫が終わって何か現実に変化があれば、それは≪幽体離脱≫がリアルに存在するということになる――』




