EP・21 隣り合わせメッセージ
《天羽視点》
散々な時間を過ごし、家に帰ってきた。
「はぁ、疲れた…」
今日起こった出来事を思い返してみようかと思ったが、もはやその気すら起きない。
洗面所に行き、手洗いとうがいを済ませ、洗濯機に向きなおる。
黒のビニール袋の中を見て気が滅入りそうになる。
「あーもう、私どれだけ…」
正直恥ずかしいので、自分でも見たく無いのだが、こればっかりはさっさと洗濯する必要がある。
手早くビニール袋から下着を取り出し、軽く手洗いして洗濯機に放り込む。
他に洗う必要のあるものを同様に突っ込み、洗濯機を回す。
制服を脱ぎ、匂いを確認し、大丈夫そうなのでハンガーに掛けておく。
自分の体の匂いは分からないので、明日何言われるか分かんないしさっさと入ろ…
タオルや、変えの下着、部屋着などを用意し、風呂に入る。
「ほんと、散々だったな、今日…神裂君にどう弁明すればいいんだろ…」
本当は、異能部について、もう少し話したかったけど…
正直、まともに顔を見て話せる気がしない。どうしたものかな…
うじうじ悩みながら頭洗い、体洗い、風呂を出て。
夕飯どうしよ…なんか何もせずに食べれる物ないかな…?
悩みを頭の隅に追いやるように、冷蔵庫を漁る。
あ、冷凍チャハーン…じゃない、チャーハン。なんでこうもまあ物資が準備万端なのだろうか…帰ったらルナ様に聞いてみよ。
という事で、冷凍チャーハンを皿に出し、レンジに突っ込む。
「あれ、神裂君からメッセージ?」
最悪のタイミングだぁ…正直今話せる事私ないよ…?
そう思いつつも、流石に無視するわけにもいかない。ど、どうにかあんな醜態を晒した事を謝らないと…
意を決してメッセージを確認する。
『天羽さん、今大丈夫?』
あ、以外と大丈夫そう…?
『えっと、これからご飯だからちょっと待ってて欲しいかも!』
『了解、食べ終わったら教えて〜、異能部でのこと話したいから。』
この一文だけで心臓が跳ねる。どうか禁書関連の話題じゃないですように…
『わかった、ちょっと待っててね。』
メッセージを返したところで、ちょうどレンジが温め動作を終えたので取り出す。
「ちょ、熱⁉︎」
予想より皿が熱く、危うく落っことしかける。
どうにか皿を机に置き、飲み物などを持ってくる。
少し冷ましながら、急いでチャーハンを頬張り、心配事に意識を向ける。
禁書関連の話題ではない事を祈りたいけど…でも折角神裂君からメッセージくれたし、何の話題だとしても頑張って話そっと…
諦めをつけ、チャーハンを食べ切る。
正直言って、疲れたからこのままベッドダイブして、ゴロゴロしながらメッセ打ちたいのだが、流石に食後だしな…ま、いっか。今日散々だったし、これくらい許されるだろう。
そう思い、ベッドに飛び込む。
「ほぁ…ふかふかだぁ〜」
そのまま睡魔に襲われるが、このまま寝るわけにはいかない。
頭を振って眠気を追い払い、スマホのメッセージアプリを開く。
『ご飯食べ終わったよ〜』
送って少し間を置いて、神裂君からの返信が来る。
『お、りょーかい、こっちも風呂上がったとこだね。ちょっと待ってて。』
風呂上がりと聞いて、ついその姿を想像しかける。
ちょ、待て待て私、何考えてんだ。これじゃ本当に変態になっちゃう。
と、そこで丁度送られてきた神裂君からのメッセージの通知音で現実に引き戻される。
『よし、終わった。では本題に行こう!』
『本題?』
『そそ、天羽さん、もうどうするか決めた?』
ど、どうするとは…?
『えっと、どうするっていうのは…?』
『もちろん異能部での事だよ?』
そ、そんな当たり前みたいに聞いてくる事ある⁉︎うぅ、どうするって言われてもなぁ…
『あ、あの…あの件はあくまで私自身の意思じゃなくて…でも神裂君には申し訳ないと思ってるし、今後関わりたくないとかならそれでもいいです…』
あんなんで関係壊れるのは嫌なんだけど…仕方ないかな…
『そっか、じゃあ、あの時やるって言ったのも無理にだったのかな、ごめん…』
え、待って、私禁書の呪いかかってた時、神裂君とそういう約束してたの⁉︎
『いや、その…別に嫌って訳じゃないんだけどね、そういうのはその…然るべきタイミングがあるんじゃないかと…』
『そういうもの?その為の今日の一件じゃなかったの…?』
『そ、それは…そう、かな…?』
これは…少なくとも嫌われては無い…?むしろ神裂君、ああいうのが好きなのかな…?
『もう一回、考えてみて欲しいかも。無理にとは言わないけど、まだ一回もやってないし。』
えっと…これはその…何回もやりたいって事…?神裂君、そういう感じなの…?
ていうか、なんか神裂君が予想の斜め上を飛び立って行くんですけど⁉︎
『わ、わかった。考えてみる…』
あー、もう私のバカ‼︎
これじゃほんとに今日の異能部での時、誘ってたみたいになるじゃん…
にしても、神裂君…そんなに私の事…
恥ずかしさやら、そんな風に思われていたのが、なんだかんだ嬉しいやらでベッドの上を転がりまくっていた時、通知音が響く。
『ありがとう、部員少ないみたいなのもだけど、折角なら天羽さんと一緒に入部したほうが、楽しいだろうし。仮入部の事、考えてみて‼︎』
と、このメッセージを見て、一旦会話履歴を振り返り、今度は純粋に、恥ずかしさで悶えるハメになった。
「そ、そういう事か…」
盛大に勘違いした挙句、私としても話したかった話題を自ら潰す事になるとは…
勘違いしてた、仮入部は参加するよ、と今から言っても良いのだが…
でもなぁ、何と勘違いしたのかと聞かれかねないしなぁ。
…いや、何と勘違いしたかは絶対言わなければ良いか。
『ごめん、神裂君。勘違いしてた、仮入部はちゃんと参加するよ。』
『あれ、そうなの?でもよかった〜、折角今日見学行って、天羽さんも楽しそうだったし、僕も入ってみようかな?と思ってた所だったからさ。』
『そういえば、勘違いって何を?』
やっぱ聞かれるよね…
『それは秘密‼︎忘れてね?絶対に。』
『わ、わかった。それにしても、異能部のメンバーがまさかあの二人だけとはね。随分少ないもんだね。』
よかったよかった、察してくれたらしい。
『確かに少ないよね、異能部、新設なんだっけ?』
『そうだね、僕はそう聞いてるよ。そもそも、うち以外の残り七つの異能指導をする学校には数年前から設立されてたみたいだし。』
『そっか、でも具体的に何するんだろうね?大会開くにしたって、八校じゃ、大した物はできないんじゃない?』
『はっきり憶えては無いんだけど、確か元々異形討伐をしていた人達が、企業に選手として雇われて出る大会があって、最終的には、それに学生枠として出るんじゃなかったかな?』
はぇ〜面白い、企業からすれば広告代わりにもできる訳だし、考えられてるな。
『なるほどね、結構面白そうじゃない?』
『うん、元々は学生の参加は認可されてなかったけど、つい最近認可が降りたらしいよ。だから部が新設されていってるのかも。』
『ちなみに、今は異能部があるのはその八校だけなの?』
これが疑問だった、この学校を含め、いくら異形の被害が酷く人類の生存圏が狭まっているにして、世界で八校しか異能指導を行う学校が無い?そんな事あり得るのか。
『そうみたいだね、今調べてみたけど、異能部があるのはこの八校だけだね。そもそも、異能を用いた戦闘訓練を、この八校以外ではやらないからね。』
この後、しばらく改めてこの世界の事を聞いてみる。
まとめると、異形は掃討戦以降、減少傾向にあり、生活水準は戻ってきている。
とは言えど、都市の中心部から離れるほどに、まだまだ異形被害が色濃く現れているし、そこにはほとんど人は住んでいないそうだ。
要するに、人類の生存圏が狭まり、それまでで言う、大学的扱いの学校が、異能指導を行う八校にまとめられたらしい。
この八校に入る前には、異能とは関わることのない学校に通うそうだ。
『世界全体では、まだまだ平和とは言えないんだね…』
『うん…ただ、大会に関しては良い取り組みだとも思うよ、大会の参加費とかは、危険地帯への助成金になってるみたいだし。』
『そっか、なるほどね。将来はそういう活動に貢献できるっていうのもいい仕組みだね。それと…ごめんね遅くまで色々聞いちゃって。』
『大丈夫、天羽さんはもう寝る?』
『うーん、もう少し起きてるかも?でもだいぶ眠くなってきたかも…』
最後にもう一度通知音が鳴るが、私の意識は既に深い眠りに沈みかけていた。
そっか、この世界の人達も、必死に生きているんだな…
そしてきっとそれは、私が今まで消してきた世界の人々も、そうだったのだろう。
改めて、その行為の重さに、胸が痛くなる。天界の戦争など、この世界や、他にも存在する沢山の世界の人々には何ら関係無いのだ。
私は何をしているんだろ…ルナ様だって、戦争を終わらせようと動いている。
この世界は私の管轄だが、きっと今も、他の『笛吹き』メンバーが別の場所で、世界消去を行っているはずだ。
それに比べ、私はなんだ?
初めて私が、兵器としてではなく、一人の女の子として過ごせる場所に立って、浮かれすぎなんじゃないか?
私は兵器だ。戦争、仲間の苦労、殺してきた人々。沢山のしがらみに絡め取られた人形。そんな私が、こうして平穏を享受して良いのか?
そんな事を思う私の意識はそのまま、深い眠りに落ちていった。




