EP・1 夢の音色、呪いの音色
天界の統治者、時ノ神『クロノ』が病に伏し、そのまま逝去した。
その跡継ぎ候補として名乗りを挙げたのが、かつて天界を追放された陽ノ神『ホル』。
それを阻む為に月ノ神『ルナ』も名乗りを挙げた。
神の持つ力はそれぞれが君臨する世界の人々からの祈りや信仰によってその強さを変える。
天界からの信頼が薄く、自身が君臨する世界の大半を追放時に奪われたホルは自身の持つ世界を複製するという選択をした。
何もかもが同じ世界の複製は禁忌であり、そもそも神にさえできる所業ではない。
それをホルは世界の理の一部を変えることで複製を成し遂げた。
だが、無理矢理に複製された世界は何かしらの異常に見舞われる。
しかし、それゆえに神への信仰は強まり結果としてホルはルナと互角かそれ以上の力を手にした。
そのやり方をルナは忌避し、複製された世界の破壊を決定した。
が、その選択により天界はホル派とルナ派に分かれて争うことになった。
世界の破壊は容易なことではなく、その戦争に「天使の喇叭」が用いられるようになったのは戦争が始まってまもなくであった。
***
私がまだ小さい頃、祖母に預けられていた私は祖母からこんな話を聞いた。
「私達の家系はね、代々世界を閉じる力を引き継いでいるんだよ。その力は一つの世界を造作もなく消失させることができるの。でもね、力には代償がつきものさ。その力は一人の神や天使が扱えるような代物じゃないのさ。実際今でも複数の家系の者がその力を持っているんだよ。」
小さい頃の私には難しかった。だからね、と祖母は続けた。
「お前がその力を悪戯に使ってはいけないよ、消失させる世界から放たれる想いは一身に背負えるような物ではない。耐えられずに心身を壊してしまう。それにその世界に生きる人々にいらぬ悲劇を与えることになるからね。」
正直よくわからなかったし、子供心にはカッコよく映るチカラだった。その時には寧ろそんな御役目を早く引き継ぎたいとすら思った。
***
祖母の夢なんて久しぶりにみたな…。そんな事を思いながら目を覚ます。見渡して何度でも思う。狭い。
仮にも天界では名の通った家の者で、尚且つ『アレ』を使える身である訳なので戦時下に屋根付き、扉は施錠可能といい部屋を貰ったかと思えば外には見張り、窓には鉄格子。まるで監獄だ。
「そんな事しなくても逃げませんよ、と。」
誰に言うわけでもなく呟く。独りごちていたとき、扉側から声が掛かる。
「命令伝達、特殊部隊『笛吹き』所属、天羽澪音、U二十九号の消去。時限は一七◯◯。」
「了解」
扉の外の気配が見張りのものだけになる。
また、嫌な時間がやってくる。
小さな頃憧れた喇叭の音色は、今では私を蝕む、呪いでしかない。
***
自陣の中枢にある転移門広場に着き、定刻通りにU二十九号への転移門をくぐる。
U二十九号に入った私はその世界の中枢である太陽へと薄汚れた呪符を巻いた右腕を向ける。
「体組織の五%を消費し喇叭を発動。」
我ながらこの光景にも慣れてしまった。
腕の呪符が焼き切れていき右腕がおよそ人のそれではなくなっていく。
焼き切れた呪符が四つの光の十字架となり杭の様に私の肩に突き刺さる。これのおかげで体の変質はそれ以上は広がらない。
でも、その先はとても元が人型の腕であったとは思えないほど形を変え、大口径の銃の銃身の様な形に変わっている。
「起動完了、U二十九号、消去。」
私の詠唱と同時に右腕の歪な銃身からどす黒い球体が打ち出され、太陽に衝突。次の瞬間太陽が弾けたとでも言おうか、燃え広がる炎と化した太陽はU二十九号の世界を紅く染めていく。
***
「っ……!」
人の形に戻った腕には、血の出ることのない亀裂が何筋も走っていた。今回は頬にもヒビが入った感覚がある。
痛む腕に呪符を巻き、頬には持ってきておいた傷口用の布を当て治療用テープで貼り付けておく。
こんな事をしても呪符が効果を取り戻すまでは何の役にも立たないのだからやっても仕方ないけど…。
これが世界を消し方。
今日もまた、何も知らない人々を、その人々の事など何も知らない
私が、世界ごと―――殺してしまった。
世界の消去にはもう慣れてしまった。でも、消した後も。
どれだけ時間が経っても、
今まで私が消してきた世界の、
殺してきた見知らぬ誰かの声は、
呪いとなって、この心に染み付いて離れない。




