◆001◆ボタンを押しますか?
ボ 希 あ
タ 望 な
ン す た
を る は
押 場 異
し 合 世
て は 界
下 2 に
さ 0 転
い 0 生
↓ 秒 し
↓ 以 ま
↓ 内 す
↓ に か
♡ ?
◆002◆ボタンを押した?
洋
式
ト
イ
レの個室。
目の前に書かれた文字とボタン。
押さなければどうなるのか。
モクジは頭を抱えて考える。
『どうして、こうなった? 何をしてたら、どうしたと言うんだ? 今話題の異世界転生—— 出来る物ならやっては見たいと思うが、それにしてもどうしてトイレ? 押すしか無いのか? 押さないと後悔する? するのか? 本当に?』
目の前の数字が数を減らす。
145
144
143
142
・
・
・
などと考えていたら—— 既に。
10
9
8
ガッッゴン!!!!!
ボタンの重さなど、押してみるまでは分からない。硬く錆び付いた様に重たいボタンが機械音を上げて、スゥーっと押し込まれる。
それと共に扉は開き、扉の外には真っ白な壁と床と天井と。
「ここは、あの世なのか? 俺は死んだ?」
自分が何だったのか、思い出す事さえできずに、一歩白い世界に踏み出すと、扉は閉まり奥で水の流れる音が聞こえた。
「引き返せないって事か——」
扉は押しても引いても持ち上げても、呪文を幾つか唱えてみてもビクともせずに、諦めて真っ直ぐに白い世界を進めば、左と右の分かれ目に辿り着く。
「どっちかが、どこかの世界に繋がっているって事でオーケー?」
モクジの根拠の無い自信は、足を右へと進める。同じ様な分かれ目が三度出て来て、その全てを右に行くと、白い壁で道が塞がれていた。
「迷路……なのか?」
誰も答えてくれる事は無い。そう思っていたら、後ろからは「ピィー」という鳴き声が聞こえて、慌てて振り返る。
「異世界ッぽいのキターーーーーー!」
そこに居たのは一体の、まん丸いスライム。
武器は無い。
自分が戦えるのかと考えて、一瞬躊躇するが、手を翳した右端に【!】の印を見つけてそれに触れてみると、目の前に文字が書かれたボードが現れる。
「これは、ステータスウインドウ? だよな?」
その中にあった、アイテムボタンに触れたところで身体に激痛が走る。
こんな痛みは経験した事が無い。
スライムと認識した相手が酸を吐き出して、それが腹部に触れて臓物が溢れ出ている。
血液はエフェクトを伴って、空気中に消えて行く。
「いだい、いだい、いだい、痛い——」
早く殺してくれと、何度も何度も何度も願ったが、その様子をスライムはニヤつく様に笑みを浮かべて眺めている。まるで、苦しむ様を楽しむ様に。
「ごろじでぐでぇ」
「ピィ?」
可愛らしく鳴いているが、ワザとだ。
喉の奥から熱く熱せられた錆び鉄が溢れて来る。
「ゴフッッ! グガゴゴゴガゴ——」
息が出来ずに、頭が割れる様に痛く、やっとの事で死が訪れた。
気付いたモクジの前には、あの文字が。
ボ 希 あ
タ 望 な
ン す た
を る は
押 場 異
し 合 世
て は 界
下 2 に
さ 0 転
い 0 生
↓ 秒 し
↓ 以 ま
↓ 内 す
↓ に か
♡ ?
モクジは思い出す。
何度もこの光景を見ている。
懲りずに、何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も——
ボタンを押した自分を悔いる。
—— アイテムのボタンには【木の棒】が入っていて、それを使ってスライムを一体倒すと、続けて何体か現れて、それらを倒して進んでも、空腹と渇きに飢えて死ぬ。
死線を潜り抜けて辿り着いたセーフポイントの入り口には【石の面】を付けて、布に包まれ、斧を持った狂気の怪物が立ち塞がり。
木の棒では相手にもならず。
首を刎ねられる。
何度も何度も何度も何度も繰り返す死の記憶に耐えられずに、気持ち悪い物を便器に吐き出す。
69
68
67
66
減り行く数を眺めていると、ついには——
3
2
1
0と、数字は消えて。
モクジの身体は便器の水に流されて。
目の前には——
ボ 希 あ
タ 望 な
ン す た
を る は
押 場 異
し 合 世
て は 界
下 2 に
さ 0 転
い 0 生
↓ 秒 し
↓ 以 ま
↓ 内 す
↓ に か
♡ ?
「転生もの?キターーーーーー!これ!」
と、数は197でモクジはボタンを押した。
モクジにこれまでの記憶は無く。
ガゴン!! とボタンが押されて扉が開くと真っ白な通路を前に足が止まる。
それまでは、すぐにでも飛び出す勢いで鼓動が高まっていたのに、血の気が引くように、急に身体が強張り。
記憶は無いが、それまで経験してきた過去の自分の亡霊が身体を締め付ける様に。
堪らなくその場でしゃがみ込んで、右上の【!】の存在に気付く。
「……はぁ……はぁはぁ、はぁ。これってもしかして?」
【!】に触れると、ステータスウインドウが現れる。
モクジが何度も目にして来たそれは、記憶の中では初めて見るもので、恐る恐る一つずつ触れて行く。
「一通り見る限りは、やっぱり異世界って事みたいだけど【経験値】と【最悪の箱】だけは意味が分からん」
【経験値】に触れても、0という数字が浮かび上がり消えて行く。
【最悪の箱】は、その文字面もじづらから触れる気になれない。
それでも【皮袋】と【木の棒】は大きな収穫だった。
【皮袋】には、真後ろの洋式便器の吸水口から水を入れて確保した。
給水タンクの【※】に触れると、説明ウインドウが現れ【綺麗な飲み水】と、しっかり表記がある事から、安心して口を付ければ、緊張からカラカラに渇いた喉を潤す。
「うめぇ〜ー!」
と、なればそれを【皮袋】に入れるのは自然な流れだ。それだけで、この世界では喉が渇くという理屈が理解出来た。
「よし! 行くか! 異世界へ!!」
白い通路に一歩踏み出すと、例によって扉が閉まる。モクジの記憶では初めての事で驚くが【綺麗な飲み水】を【皮袋】に入れた時点でこうなる事は予測していた。
そして【!】の中に【マップ】があった事で、この白い通路が迷路である事を認識した。
【木の棒】を握り締めて慎重に歩いて行くと「ピィ」と可愛く鳴くスライムと出会い、運良く酸の攻撃を避ける事が出来て【木の棒】で殴り倒せた。
スライムは、四角いエフェクトを撒き散らして消えて行く。
「よっしゃあー! 初めての異世界……勝利……」
と、尻つぼみに声を出して、思い出した様に【経験値】に触れると【0】だったものが【12】に増えていた。
「来たんじゃねーか? これ?」
さらに、左上の【S】に気付く。
「Sって事は? ほーれ」
調子に乗って【S】に触れると【レベル】と【スキル】の文字が現れる。
その後に色々と試してはみたが、HPやMPといった、モクジが探しているものは現れなかった。
それでも【レベル1】と書いているという事は、レベルが上がる事を確信出来る。
時間を置いて再び現れるスライムを倒す—— 運良くだが。
強運が重なる事で【レベル3】となったところで、水の残量は少なくなり、空腹を感じ始めて慌てて【マップ】を確認して、先を急ぐと、例の【石の面】の怪物と遭遇して、呆気なく殺された。
ボ 希 あ
タ 望 な
ン す た
を る は
押 場 異
し 合 世
て は 界
下 2 に
さ 0 転
い 0 生
↓ 秒 し
↓ 以 ま
↓ 内 す
↓ に か
♡ ?