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第二話 偽の勇者と真なる勇者

 東偽勇也、ユウヤ・ヤオミ、現在三十五歳。

 職業、「元」異世界勇者。

 

 俺は社会人生活二年目、ようやく仕事にも少し慣れてきたかという頃、勇者召喚されてこの世界、「ウルタール」へとやってきた。

 

 ――異世界召喚されし勇者よ、魔王を倒し世界を救ってくれ――

 対魔連合の長と名乗った、レムリア王国の王たる男に乞われて。

 

 突如巻き込まれた、途轍もない事態への混乱と焦燥。

 コツコツ真面目に生きて来た俺では、さあいっちょ異世界を救ってやるか!などという前向きな気持ちには到底成れず、出だしから随分苦しんだと思う。

 特に還る術の無い、片道切符の召喚であると聞かされた時には。 


 それでも色々な人の協力あって、何とか自分が勇者であり、この世界の人々の命運を握っているのだという事実を受け入れる事が出来た。


 それから十年。

 残念ながら、最強チートでサクッと魔王討伐――などという楽な展開にはなってくれず、地べたを這いずり血反吐をはきながら、魔王の眷属達と戦い続けて来た。

 勇者ではあるが、誰よりも努力し、地道に強くなってきたという自負がある。 

 

 とはいえ、辛いばかりの十年間という訳では、決してなかった。

 魔族の恐怖からこの手で救った、人々からの笑顔、感謝。

 そして、厳しい戦いの中で互いに友情を育み、掛け替えのない仲間となった、この世界の英雄達。


 突然異世界へと連れて来られ、右も左も分からない、戦闘のせの字も知らなかった若造を教え導いてくれた男。

 俺が兄とも慕う最強の騎士、王国騎士団副長、グラント・バートン。 


 その少女の如き外見からは想像も出来ない深い知識と、強力な魔法で皆を助けてくれた森の乙女。

 俺にとって姉のようで妹のようなエルフの天才魔道士、サティナ・シドウェル。

 

 異世界からの闖入者に懐疑的だった出会いから、次第にお互いを認め合う親友へと変わって行った女性。

 俺の性別を超えた親友である神速の槍使い、ミラ・べインズ。  


 剣聖のもとで、次の剣聖として鍛えられていた、眩いばかりの剣術の才能を秘めた皮肉屋の少年。

 俺の弟分である次代の剣聖、ケイン・ワーズワース。


 その中でも、唯一人の特別な人。

 どんな苦しい旅の最中にあっても、その自愛で包み支えくれた、俺の最愛の恋人であるクロエ・エヴァンス。

 透き通るように滑らかな長い銀髪と、女神と見紛うばかりの、一種の神聖さすら感じさせる美貌を持つ心優しき聖女。

 この戦いが終われば、俺と結婚して幸せに暮らす――はずであったひと。


 全ては過去の事、失われし栄光の日々。

 

 ……俺がウルタールへと召喚されてから十年目。

 新たにあの男が、この世界へと勇者召喚された日。

 それが真の勇者の物語の始まりと、偽の勇者の物語の終わりの日であった。


 この世界に召喚される事により、極めて強力な加護ギフトを得る事が出来るという伝承が残る異世界人。

 実際、一人目はまさしく、勇者たるに相応しい加護を受けた。

 ならばその二人目がいれば、より早く確実に魔王を討つ事が出来るであろう。

 この十年で、再びの召喚に必要な量の魔力は溜まった。

 最早、行わぬ理由が見つからない。

 

 ……再度の召喚が行われたのは、そんな単純な事情であったらしい。


 ここでまず先に、俺の受けた加護を説明しておこう。

 

 『体力超回復』『魔力超回復』『剣聖』『炎の精』


 この四つが俺に与えられた加護。

 多くても二つが最高であると考えられていた加護を、倍の数授かった事で当時は随分驚かれたものだ。

 

 ……その十年後、加護は量より質であると思い知らされた訳だが。  


 体力・魔力の超回復はその名の通り、回復が異常に早くなる加護だ。

 あまり大したことがない加護――いや、そんな事はない。

 この世界の回復魔法は怪我を癒すのみであり、失われた体力は時間によってしか回復出来ない。

 魔力も又同様であり、これはあの楽勝チート持ちの真なる勇者であっても変わらない。

 

 更にはファンタジーでお馴染みの、ポーションのような便利アイテムも存在しないとあっては、この加護の有用性もわかろうというものだろう。

 

 剣聖もその名の通りで、剣の扱いが異常に上手くなるという加護だ。

 この加護持ちが、最強の剣士として代々剣聖と呼ばれ敬われる事になる。

 次代の剣聖が生まれると現剣聖の加護が薄れ、完全に失われた瞬間が代替わりの時らしい。


 次代の剣聖、ケインが既に居るのにも関わらず俺がこの加護を得た事で、色々複雑な事態になっていたとも聞く。

 当の本人は「剣聖なんて面倒臭いもの、ヤオミさんにお任せしますよ。剣聖と聖女から生まれてくる子供とか、聖なる光でずっとピカピカ輝いてそうで面白いや」なんて良い笑顔で言っていたっけな。

 全ては偽物の勇者と呼ばれる前の話だ。


 最後の炎の精、これは『火』という加護の強化版?らしい。

 俺しか持ち主が居ないので恐らく、という注釈付きではあるが。

 攻守共に火への相性が良くなるという加護で、冷気に対する強い耐性を持つ。

 特に気温の低い魔族領のような土地でも、活動に支障がないという利点もある。


 俺が焚き火の炎の揺らめきを見ると心が休まるのも、この加護が関係しているのだろうか。


 …………


 さて、かの様な思惑で行われた二度目の勇者召喚であるが、彼らの期待は良い意味で裏切られる事となる。

 二人目の異世界勇者は、否、真なる勇者の加護は、一人目のそれとは比較にならない程、強力なものであった。


 『カリスマ』『聖剣召喚』 


 カリスマの加護は、万人から魅力的な人物としてみられるというもの。

 優秀な加護ではあるが、これを持つものは居ない訳ではない。

 歴史に名を残す為政者には、この加護持ちが多かったといわれる。

 魅了チャーム洗脳ブレインウォッシュの魔法のような、相手を操るという程の力ではない。 

 

 聖剣召喚、この加護こそが、真の勇者である証。 

 他の全ての加護を超越する、唯一無二の絶対の力。


 聖なる力を剣の形にして扱うという加護。

 魔族に対する圧倒的な攻撃力と防御力。

 持ち主の能力を、飛躍的に引き上げる特殊効果。

 その効果は周囲の仲間にまで及び、持ち主程ではないがその能力を大きく上昇させる事が出来る。


 そんな聖剣の力を、世界中に知らしめた出来事がある。

 

 俺と仲間達が命懸けの死闘を演じながら、辛うじて勝利を収めてきた、魔王の眷属の中でも一際強大な力を持つ上位魔族。

 二人目の異世界人にとって、その上位魔族との初陣での不運過ぎる遭遇劇。

 

 聖剣――まだこの時点では、如何程のものであるか定かではない――という切り札を持つが、未だ訓練のみで実戦経験のない、レベル十にすぎない青年。

 

 何とか彼を守り、逃がそうと必死だった、平均レベル五十を超える俺と仲間達の思いを他所に。

 

 振るわれた聖剣の一撃は、その強力な魔族をいとも容易く塵に変えた。

 

 その戦いの報告を受け、聖剣の想像を絶する凄まじい力に、対魔連合の長であるレムリア王国の国王は狂喜乱舞したという。

 そして、俺が決して忘れる事の出来ない、あの最悪の宣言をしたのだ。

 

 ――二人目の召喚者、狭真勇斗、聖剣を持つハヤト・ハザマこそ真なる勇者である。一人目のユウヤ・ヤオミを勇者としたのは間違いであった――

登場人物説明回でした

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[一言] 無責任頭パヤパヤ国王
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