第一話 既に終わった物語
初投稿です。流行りに乗ってみました。宜しくお願いします。
「……では、僕達は先に休ませてもらいます。でも、本当に朝まで夜番を交代しなくても良いんですか?」
二十歳程の精悍な顔立ちをした茶色の髪の青年が、さも申し訳無さそうな様子で鼻を啜りつつ、此方へ問い掛けてくる。
夜の魔族領は確かに冷えるが、他の仲間達は此処まで寒がってはいない。
この男は以前から、特別寒さに弱い。
まあ加護のお陰で、冷気に対する耐性のある俺がいえる事でもないか。
「ああ、気にするな」
「ヤオミもこう言ってる事だし、早く行くわよハヤト」
外見だけならまだ十代半ばに見える、エルフの美少女が青年を急かす。
……これから行われるであろう、彼との行為の事しか頭にないのだろう。
彼女の腰まで伸びた長い金髪が、焚き火の炎に照らされてキラキラと映える。
「そうですね。夜番など誰にでも出来る事。ハヤト様がなさる事ではありません」
コシのある青い髪を後ろで一つに束ねた、槍を背負った二十代半ばの長身の美女がそう追従する。
御丁寧に、短い言葉の中にも俺への軽視を滲ませている。
「……ユウヤさん、本当に大丈夫ですか?」
青年に寄り添う三人の中でも一際美しい――主観ではあるが――少女が、サラサラと音が聞こえてきそうな銀の長髪を揺らして、もう一度確認する。
歳の頃は十八、九といったところだろうか。
深い色を湛えた蒼の瞳が、真っ直ぐに俺へと向けられている。
(大丈夫な事など、何もあるものか)
思わず喉まで出掛かった言葉を、慌てて飲み込む。
「大丈夫だ。問題ない」
内心とは正反対の言葉で答える。
早く四人で天幕へと行ってしまってくれ。
俺には何よりこの時間が、苦痛で苦痛で仕様がないのだ。
「ヤオミさんに後お二人も。お言葉に甘えて失礼します。……行こう、みんな」
ぶるりと身を震わせた青年と三人が、天幕へと向かって去って行く。
この後の彼らについては、決して考えたくない。
…………
「それにしても、流石は真なる勇者様。極上の美女を三人同時にとは、いやはや頭が下がる思いですねえ」
「……止めないか、ケイン」
軽口をたたく二十歳前であろう少年を、倦んだ様子の壮年の男が嗜める。
前者はマッシュルームのような丸い銀髪の、引き締まった細身の剣士、後者は短髪黒髪のがっしりとした、歴戦の騎士といった風体である。
「しかしまあ、ヤオミさんを前にして、あのあからさまな態度っていうのもねぇ。女って怖いなぁ。僕はずっと独りが良いや」
「パーティー内、唯一の妻帯者であるグラントさんから見て、そのへん如何なんですか?」
「だから止めないか。……それにお前の立場で独り身など、許されんだろう」
「まあ、そうなんですけどねぇ。あーヤダヤダ」
気にしないようにしても、二人のやり取りの一つ一つが、いちいち癇に障る。
「お前らも、俺に付き合わずもう休んでいいぞ。ここは一人で十分だ」
焚き火の炎に没我しようとしながら、呟く。
兎に角、ただ独りになりたい。
「……わかった。そうさせてもらおう。行くぞケイン」
「ん、ちょっと調子に乗り過ぎましたかね。ヤオミさん、スミマセンでした。お休みなさい」
「ああ」
俺の意を汲んでくれた二人が、もう一つ立てられた男用の天幕へと向かう。
……真なる勇者様はといえば、其方にはいらっしゃらないのだろうが。
これでやっと静かになると思っていたら、黒髪の騎士が如何いう訳だか、踵を返し此方へと戻ってくる。
「……ユウヤ、余計な事だとは思うが、勇者、彼がその、事をなす時は、馬車へと行っているようだ。だから天幕で全員で、というような事は恐らく無く……いや、やはり余計な事だったな」
「……」
本当に余計な話だ。
俺は以前、決定的な場面を見てしまっている。
――勇者と彼女が抱き合って、口付けを交わす場面を。
だから、そんな慰めを聞かされたところで、彼女はもうあの男の……
いや、よそう。
愛する女を奪われた、惨めな男が一人居る、というだけのことだ。
…………
俺達が今、野営しているこの場所は魔族領、魔王の居城からそう遠くない位置にある。
これから勇者一行が魔王城へと乗り込み、最終決戦の幕が上がるのか!?
……いや、期待を裏切るようで悪いが、これは「既に終わった」物語だ。
魔族に対する絶対的な優位性を持つ《聖剣》と、人々の支持を集める《カリスマ》という二つのギフトを与えられた「真の」勇者、狭真勇斗――ハヤト・ハザマ――が世界を救う物語。
最強の聖剣に選ばれし真なる勇者は、見事魔王を討ち滅ぼし、既に世界を救って見せたのだ。
後は王都まで凱旋して、世界へ向けて魔王討伐、勝利の報告をするのみ。
その時サプライズとして王国の姫君を娶り、次期国王に選ばれる段取りだ。
確かあの国王の娘、第一王女は勇者をえらく気に入っていた筈だしな。
……そのついでに、旅の仲間達との結婚も発表されるかもしれない。
前任者が、10年も掛けてついぞ成し得なかった魔王討伐。
その偉業を、召喚されてからたったの1年で遂げてしまったのだ。
王女の他に側室を数人娶ることぐらい、何の問題も無かろう。
ましてやその全員が、勇者と共に魔王を倒した英雄達である。
世界を救ったカリスマ持ちの勇者と王女、勇者の仲間達の結婚。
万人が祝福こそすれ、反対するものなど居ろう筈もない。
……唯独り、偽りの勇者の烙印を押されたこの俺、東偽勇也――ユウヤ・ヤオミ――以外には。
お読みいただきありがとうございました。途中でルート分岐する予定ですが、程良い長さにまとめるつもりです。




