プロローグ 前編 廃鉄の惑星デソラ
「ドラゴンだぁぁぁぁぁッ!!」
耳をつんざく警報が、辺境惑星デソラ中へ響き渡った。
鉄屑を積み上げて造られた家々。
剥き出しの配管。
何度も補修を繰り返した発電設備。
金属の関節を軋ませながら、住民たちは一斉に空を見上げる。
「……嘘だろ。」
「なんでデソラなんかに!」
「資源なんて何もねぇぞ!」
第一惑星デソラ。
人類が滅びて数百年。
豊かな資源もなければ、大規模な都市もない。
残されているのは、朽ち果てた人類遺跡が二つ。
そして、その遺跡を頼りに細々と暮らす機械生命体たちだけだった。
だから、この星は安全だった。
ドラゴンは資源を喰らう。
鉱山都市。
工業惑星。
巨大プラント。
価値あるものが集まる場所ほど襲われる。
何も持たないデソラへ現れる理由など、誰も考えたことがなかった。
しかし。
空を覆う巨大な鋼鉄の翼が、その常識を踏み潰した。
全長数百メートル。
赤熱した装甲。
腹部から噴き出す蒼白い推進炎。
巨大な機械の竜が、ゆっくりと街の上空を旋回する。
「お兄ちゃん!」
妹のシルヴィアが駆け寄ってくる。
「逃げよう!」
「司!」
父と母もこちらへ走っていた。
その瞬間だった。
司の視界へ、赤い文字が浮かび上がる。
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WARNING
EMPEROR DRONE
Lv.45
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「……え?」
思わず立ち止まる。
エンペラードローン?
ドラゴンじゃない?
周囲を見回す。
誰も、その表示を見ていない。
「何してる!」
父が叫ぶ。
「早く逃げろ!」
ドラゴンがゆっくりと口を開いた。
次の瞬間。
純白の閃光が村を薙ぎ払う。
轟音。
爆炎。
昨日まで家だった鉄骨が空へ舞い上がる。
修理工場は跡形もなく吹き飛び、発電設備が爆散する。
逃げ惑う住民たちは、次々と炎へ飲み込まれ、その身体を砕かれていく。
「シルヴィア!」
妹が必死に手を伸ばした。
「お兄ちゃん!」
届かない。
頭上から巨大な鉄骨が崩れ落ちる。
激しい衝撃。
世界が暗転した。
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SYSTEM ERROR
RIGHT ARM DAMAGE
POWER 36%
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ノイズ混じりの視界がゆっくりと戻る。
「……っ。」
司は瓦礫の下から這い出した。
右腕は半壊し、サーボモーターから火花が散っている。
それでも動ける。
足は無事だった。
ゆっくりと立ち上がる。
村は、消えていた。
黒煙だけが空へ立ち昇り、風に鉄片が転がっている。
「父さん……。」
瓦礫を掘り返す。
やがて父を見つけた。
胸部は大きく抉れ、コアが砕けている。
視界へ表示が浮かぶ。
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BODY STATUS
Destroyed
Classification:Scrap
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「そんな……。」
母も探す。
しかし結果は同じだった。
焼け焦げた身体。
停止したコア。
そして。
【Classification:Scrap】
住民たちも例外ではない。
道端に横たわる老人。
修理工。
子ども。
全員の身体へ同じ表示が重なる。
Scrap
その文字を見た瞬間、不思議と意味だけは理解できた。
完全に壊れた機体。
変換装置へ投入しても素材とは認識されず、装飾品程度しか作れないほど損傷した残骸。
もう、戻らない。
「…………。」
視界が激しく乱れた。
ノイズが走る。
エラー表示が次々と浮かび、センサーが正常に働かない。
故障ではない。
悲しみに、機体の制御が追いついていないのだ。
「……父さん。」
「……母さん。」
もっと話したいことがあった。
修理の続きを教えてほしかった。
四人で、また一緒に暮らしたかった。
そんな思いが胸のコアを締め付ける。
この場で動けなくなりそうだった。
「……今は。」
小さく呟く。
「今は、悲しんでる場合じゃない。」
そう言い聞かせる。
悲しみは後回しだ。
全部終わってからでいい。
今、自分まで止まれば、本当に何もかも終わる。
「シルヴィア……!」
妹だけは、まだ見つけていない。
瓦礫を掘り返す。
鉄板をどける。
折れたフレームを投げ捨てる。
右腕が悲鳴を上げても構わない。
何度も。
何度も。
探し続けた。
そして。
崩れた鉄骨の下から、小さな少女型ボディが姿を現した。
「シルヴィア!」
胸部装甲は潰れ、両腕も脚も失われていた。
それでも。
胸のコアだけは、奇跡的に損傷を免れていた。
視界へ新たな表示が浮かぶ。
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BODY STATUS
Critical
Emergency Power:5%
稼働可能時間
02:58:17
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「……まだだ!」
完全には壊れていない。
コアは生きている。
司は震える手で胸部ハッチを開いた。
『SYLVIA』
認識コードを確認した瞬間、非常用電源が起動する。
「……お兄ちゃん。」
ノイズ混じりの、小さな声。
「……だい、じょうぶ。」
「……また、ね。」
通信が途切れる。
胸部の非常灯だけが、弱々しく点滅を続けていた。
「待ってろ。」
司はコアには触れず、胸部ハッチを静かに閉じる。
まだコアは生きている。
このまま運べば、助かるかもしれない。
その時だった。
頭の片隅に、見たこともない景色が浮かぶ。
朽ちた遺跡。
その隣に建つ、大きなガレージ。
「……ガレージ?」
知らない。
なのに知っている。
あそこなら。
応急処置くらいは、できるかもしれない。
その確信にも似た感覚とともに、頭の奥で何かが弾けた。




