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第45話: 叡福寺には何にもありません……と思ったら、1400年ぶりのお土産出てきておっちゃんボロ泣き。

 お母ちゃんと兄ちゃん、お義姉ちゃんに挨拶して家を出ると、ウチらはまっすぐ叡福寺に行った。

 叡福寺って言うんは、おっちゃん、つまり聖徳太子が、お母さんの穴穂部(あなほべの)間人皇女(はしひとのひめみこ)、奥さんの膳部菩岐々美(かしわでのほききみの)郎女(いらつめ)と一緒に埋葬されてるお寺で、太子町に住んでるウチらは、子どもの頃からお祭りやなんやで、何かと縁がある。


「どしたんおっちゃん、お墓参り?それか、お母さんと奥さんがいてはるとか?」ウチがそう言うと、おっちゃんは少し寂しそうにはにかんだ。


「いやはは・・・自分の墓に参ってもしゃあないやろ。それに・・・この磯長墓しながのはかには、もう誰もおらんのや。」

 磯長墓しながのはかっていうのは、おっちゃんが、奥さん・お母さんと一緒に祀られているお墓のことやけど・・・


「おらん?おらんってどういうこと?自凝島(おのころしま)神社にイザナギさんがいてはったり、西宮神社にヒルコさんがいてはるんと同じように、奥さんたちもいてるんちゃうん?」


「あー・・・まぁ、ちゃんと言わんと分からんわな・・・あのー、アレや。嫁はんと、ワシのお母はんはな、とうに輪廻転生してもうてな、ここには、辛うじて嫁はんとお母はんの骨の一部が残ってるくらいや。魂魄はとどまってないねん。」


「え……あ!ごめん、ウチ……要らんこと聞いてもうた……」せやけど、おっちゃんはウチの肩に手を置くと、優しく笑った。

「そないなこと気にせんかてええ、1400年以上前のことや。神になったり仏になったりして、何時まぃでも地上にとどまっとる方がおかしいんや。お母はんには心配をかけた。子供のころから、観世音やなんやかんやて言われて、心が休まる暇もなかった。嫁はんにも苦労を掛けた。ワシが行った朝廷の改革のせいで、いらん恨みも買うたやろ。今でも、こないして救世観世音菩薩やいうて、せんでもええのに人の世話ばっかり焼いとる。死んでからも、ワシみたいな奴に縛り付けとかんでええ。生まれ変わって、幸せになってくれとったらそんでええんちゃうか。」


「おっちゃん……」ウチは思わず、おっちゃんの背中を叩いた。何回も叩いた。

「痛っ!ちょっ!夏菜子!何すんねんなっ!なんや何回も……って夏菜子……なんもオマエが泣かんでええやろ……」


「せやけど……うっ、うう……グズ」なんか知らんけど、悲しくて涙が止まらへん。田島がハンカチで涙と鼻水を拭いてくれた。

「夏菜……大丈夫?太子のおじさん、夏菜はさ、おじさんのこと好きじゃん?だから、おじさんが寂しそうにしてたら、辛いんだよ。ね?そういうもんじゃん?」

 田島がそういうと、おっちゃんはへっ!と言って、目のあたりを拭う。


「なんやなんや!美紗ちゃんまで……お前らみたいな小娘が、ワシみたいなグレートにええ歳したオッサンの心配とか1400年早いわ!まぁそんなんええから、ちゃっちゃと入って用事を済まして行こうで!」

 おっちゃんはそう言うと、ウチらを連れて御廟……磯長墓しながのはかの入り口のところに来た。


 入口まで来ると、たぶん叡福寺のお坊さんやと思うけど、その人が恭しく挨拶をする。

「太子様、弘法大師様……お待ち申し上げておりました……その方々ですか?……此度の鍵となるというのは?……」

 そのお坊さんは、ウチと田島、アレ君をみておっちゃんに質問する。おっちゃんは、一言「そや」と言った。

 すると、そのお坊さんは何も言わず、柵を開けてウチらを廟の入り口まで連れて行く。


「ご住職、すまんな。まぁ迷惑は掛からへんと思うけど……」おっちゃんがそう言うと、そのお坊さんは首を振った。

「迷惑などとお寂しいことは仰らんでください……こうして貴方にお会いできることがどれほど我らの励みになるか……太子信仰を選んだことが正しかったと、皆感動しております。我らは四天王寺のように、直にお役には立ちませんが、せめて御身とご母堂、奥方様の菩提を弔う事だけはさせていただきたく……」


「そうか……いや、おおきに。ほな、入らさしてもらうで……」おっちゃんはそう言うと、廟の前に立ち、数珠を取り出して、真言を唱えた。

「オン・ザンバラ・シャレンダラヤ・ソワカ……四天王の権能持て命ず……戒めよ、解けよ。」


 そういうと、コンクリートで閉ざされた入口が、ゴゴゴ……ていう音を立てて開いていく。

「すご……おっちゃんそんなん出来んの?」

「いやいや、もう何遍も言うてるけどな、ワシ観世音菩薩やから。だいたいここワシの墓やし。自動ドアみたいなもんやし。」

 入口を抜けると、しばらく狭い通路が続いて、小さい長方形の部屋があった。


「とごろで太子様、こごさ(ここへ)何しに来だんだすか?何が(なにか)探し物でもあるんだすか?」アレ君が訊くと、おっちゃんは「あー」って言うた。


「いやーここにな……ちょっと秘密のアイテムがあって……どこやったかな~?ワシの棺……あ、ボロボロやな……ワシの骨グズグズやし。副葬品は……まぁ金目のモンは無いか。ほんなら嫁はんのとこは……」

 おっちゃんはそう言うて、自分の棺の隣にあるボロボロになった棺のところにしゃがむと、無言のままその中身をじっと見ていた。


「そうか……残っとるんや……ごめんな、来るんが遅うなったな……」おっちゃんはそう言うと、棺の中の骨の欠片を一つ拾い上げる。床に、ポタリ、ポタリって涙が落ちた。


「いらんことに首を突っ込まんかったらなぁ……お前にも楽さしたったのになぁ……アホやなぁ……ホンマにアホやったなぁ……」

「おっちゃん……」ウチが声を掛けると、おっちゃんはハッと気が付いたように顔を上げる。


「すまんすまん!ハハ……アカンな……感傷に浸っとる場合ちゃうわ……えーと、ここにもなかったらお母はんのところか……」

「お、おい……太子よ。無理すんなや。オレが代わりに探そか……」真魚さんがそう言って、おっちゃんの肩に手をかけるけど、おっちゃんはその手を優しく外すと、振り返って微笑んだ。


「真魚よ、ワシらがしっかりせんでどないすんねん。日ノ本の民の苦しみはこんなもんやなかったやないか……変なとこで気ぃ遣うな。ほんで……」そう言って、おっちゃんが奥にある、石棺の中を調べようとすると、ウチらの後ろでボウっと光が点いた。


「アンタ、お帰り。」

「……!……」びっくりして振り返ると、半分まぼろしみたいな感じの、女の人が立っていた。歴史の教科書で見るような、だいぶ古い時代の衣装を着てはる。


「お……お前……なんで……」それを見た、おっちゃんの顔がワナワナ震えてて、女の人は、おっちゃんの顔を見てにっこり微笑んだ。

「アンタ……なんちゅう顔してんの?……閻魔様に言うてな、ちょっと中陰で待たさしてもらってん。地蔵菩薩様が口きいてくれはってな。鬼の皆さんもごっつ親切なんやで、閻魔庁の中に離れ造ってくれてな。お地蔵様、言うてはったわ『彼、カッコつけちゃうから。』やって。ホンマやね。」


 女の人が言うと、おっちゃんはその場に泣き崩れた。

「なんでや……早う転生したら良かったのに……ワシなんか待ってへんでええやろ……」


 おっちゃんがそういうと、女の人はふうっとため息をついて、

「……もう、しゃあない人やね。アンタはいつでもそない言うてええカッコしようとすんねん。ウチ、心配で先に行かれへんやんか。」


 女の人はそう言うと、懐から手のひらサイズくらいで、素焼きの不格好な五重の塔を取り出した。

「これを探しとったんやろ?お地蔵さまから聞いたで。四天王寺で喧嘩したんやて?やめときや、あの人なんやかんや言うてもアンタのこと大事な後輩やって思うてんねんから。アホやなぁ……」


 おっちゃんは、震える手でその塔を受け取る。奥さんの魂が籠もったその温もりに、またひとしきり肩を震わせる。

「……おおきに。……すまんな、キミちゃん……」


「ええから早う行き。…空海様、いっつもご面倒をお掛けしてるみたいですみません。あと、夏菜子ちゃんと美紗ちゃんやね?ごめんやけど、この人のこと頼むね。…一見お調子もんやけど、そない強い人ちゃうから。」


 奥さんの姿が、淡い光に溶けていく。 最後に、ウチは聞いてみた。

「あっ!あの!ごめんなさい奥さん!奥さんは幸せやったんですよね!?」すると、奥さんはアハハって笑った。


「当り前やないの、アンタ!お母はんは先に行かはったけど、言うてはったで!アンタの母親で良かったって。」

 それで、そのまま光の玉になってフッて消えた。


「太子……大丈夫か?……」真魚さんが背中を擦ると、おっちゃんはうんうんと頷いて立ち上がる。


「みんな……おおきに。もう大丈夫や、どや夏菜子!ワシの嫁はん、ええ女やろ!ほんま世界最高やで!」

 おっちゃんはそう言って、ガハハって笑うと、涙をぬぐって外に出ていった。


 ◆


 叡福寺を出て車に乗り込むと、おっちゃんと真魚さんは、二頭身のぬいぐるみ(たぶん、『太子くん』と『こうやくん』っていうゆるキャラやと思う)になってた。まぁ、このクルマ4人乗りやしね。


「ところで太子よ、この素焼きの五重塔はなんやねん?なんか、エライ下手くそが作ったみたいやけど?」

「え?ああこれか?これは玲瓏塔・・・」って、おっちゃんが言うと、こうやくん・・・やなくて、ぬいぐるみになった真魚さんは飛び上がるくらいびっくりした。


「玲瓏塔やて!?チート級の仏アイテムやんけ!なんでそんなもんお前が・・・いや持っててもおかしないけど!・・・」って言おうとする真魚さんの口を、やっぱりヌイグルミのおっちゃんが抑えた。


「ちがうちゃう!玲瓏塔のレプリカや!ほんまもんは毘沙門天が持っとる!これは嫁はんがお守りやって言うて作ったんや!」

「え・・・?そうなん?いやその、なんかごめん・・・そやんな、キミさんの形見やもんな・・・」って真魚さんがいうと、おっちゃんはちゃうちゃう、っと言って手を振る。


「そやから、そういうんはええねんって。オマエ、常識ない割にそういうん気にするやんな、昔っから。いや、こん中にな、昔調べたことが書いた巻物が隠してあんねん・・・えーと、オン ベイシラ マンダヤ ソワカっと。よっしゃ、出てきた!」

 おっちゃんが真言を唱えると、小さな素焼きの五重塔の中から、巻物が出てきた。


【1400年越しの夫婦愛と、深夜の用語解説】


読んでくださってありがとうございます! 本日は投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません。 夜分遅くの更新となりましたが、おっちゃん(聖徳太子)の涙に免じて許してやってください。


今回は仏教用語や少し難しい言葉が出てきたので、簡単に解説しておきますね。


【用語解説】

中陰ちゅういん: 人が亡くなってから、次の生を受ける(輪廻転生する)までの期間のこと。通常は「四十九日」までですが、奥さんのキミちゃんは閻魔大王に直談判して、1400年もここで待っていたようです。とんでもない愛の深さです。


玲瓏塔れいろうとう: 七福神の一人、毘沙門天(多聞天)が左手に持っている宝塔のこと。本来は仏の教えや宝物が詰まっているものですが、今回は奥さんの手作りレプリカとして登場しました。


オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ: 毘沙門天の真言マントラです。おっちゃんが塔を開けるパスワードとして使いました。


さて、涙の再会の後は、おっちゃんと真魚さんがまさかの「ぬいぐるみ化」。 車の中での窮屈さを解消するための変化ですが、見た目はゆるキャラ、中身はレジェンドというシュールな一行。 手に入れた巻物には一体何が書かれているのか?


次回、いよいよ物語は奈良・橿原の深淵へと進みます。 お楽しみに!

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