第44話: 夢で会えたお父ちゃん! 実は熊野の戦士やってん!? の巻
ほんで、ウチらは物置の中を探すことにした。
「まぁ古そうやけど…お母さん、こちらは代々農家なんでっか?」
「え?あ、はい。たしか私の祖父の時分から農家で。この家も代々受け継いできたもんですけど?」
「お母さんの?っていうことはご主人は婿入りでっか?ご主人も地元の方で?」
「いえ?夫は奈良の橿原市出身です。畝傍山の西側にある神社の次男坊で。」
おっちゃんと真魚さんが顔を見合わせて頷いた。
「えーと、その何やったかな?両側に刃が付いた短剣みたいなんを見せてもろて…」
って中を探してると、奥にお父ちゃんのガラクタが入ってる黒いカンカン(缶)の箱があった。
「おっちゃん、こん中に入ってんのはただのガラクタやで?」
そう言いながらウチが箱を開けると、おっちゃんと真魚さん、ほんでアレ君と田島が固まった。
「独鈷と輪宝…それに形代紙か…ん?これは何や…」
中に入ってたんは、A4で三枚くらいの手紙みたいやったけど、開いてみると、漢字と、お寺でよく見る記号がいっぱい書いてて何のことか分からへん。
「何やこれ?中国語?お父ちゃん、中国語なんか話せたっけ?」
せやけど、お母ちゃんも兄ちゃんも首を振る。
真魚さんが、これは万葉仮名と、梵字、漢文がごちゃ混ぜになっとる、って言うた。
「夏菜子ちゃん・・・ちょっとそれ、見してくれるか?なになに・・・」真魚さんは、それを読むと、無言のままおっちゃんに渡す。おっちゃんはそれを読むと一瞬険しい目つきになって、ぱっと顔を上げるとお母ちゃんと兄ちゃんに作ったような笑顔を浮かべた。
「いやぁ!なんかよう分かりませんわ!アレですかねぇ、ご主人は写経でもしてはったんかもしれませんねぇ・・・いやいや、こない遅くに失礼しました。まぁ、ええ感じに酔いも醒めたし、今日はもう休まさせてもらいますわ!」
おっちゃんはそういうと、物置から出ていきながらウチに目配せをした。やっぱりなんかあるんや・・・
そのあと、ウチらは晩御飯の片づけをして風呂に入り、田島はウチの部屋で、アレ君とおっちゃん、真魚さんは客間で寝た。といっても、正確にはおっちゃんと真魚さんは霊体やから寝んでもええんやけど、起きてるとお母ちゃんと兄ちゃん、お義姉ちゃんに怪しまれるから、いちおう布団の中に入ってる。
「ねぇ夏菜。」うつらうつらしてると、田島が話しかけてきた。
「どしたん?寝られへんの?」ウチが聞くと、田島はううん、っていう。
「あれ…夏菜のパパが戦士だって書いてた…そのこと、夏菜は知ってた?」
え!?そんなん初めて聞いたし!
「どういうこと田島?っていうか、アンタあれが読めるん?ほんで戦士って?」
「え?あー…トヨウケヒメになったからじゃないかな?戦士っていうのは、昨日会った真琴さんと同じだよ。明日、太子様に聞いてみ?」
「真琴さんと同じって・・・ヤバイやん。せやけどお父ちゃん、ぜんぜんそんなんちゃうかったで?いっつも優しいし、お母ちゃんのこと大事にして・・・ってあれ?田島?たーじーまー!うわ、コイツいきなり寝よった。どんな神経してんねん・・・」っていうことを言ってるうちに、ウチも気が付いたら夢の中やった・・・
◆
「・・・あれ?ここどこやろ?・・・」なんかウチは、山のふもとにある神社みたいなところにいた。あっ、これお祖母ちゃんとこや。なんか手足を見たら小っちゃくなってて、子供のころに戻ってるみたいやった。
向こうから、優しそうな男の人が歩いてくる。お父ちゃんや!
「お父ちゃん!会いたかった!どこ行ってたん!」ウチが呼びかけると、お父ちゃんは近づいてウチを抱きしめる。
お父ちゃん、最後に見たときよりずっと若いな。ほんで、お父ちゃんに手を引かれていくと、男の子と、女の人が二人いた。
兄ちゃんと、お母ちゃん、お祖母ちゃんや。お祖母ちゃん・・・ウチがずっと小っちゃい時に亡くなったのに・・・お母ちゃんもずっと若い。キレイ・・・可愛いなぁ・・・そや、ウチは可愛くて綺麗なお母ちゃんが大好きやった。
ほんで、お父ちゃんはいっつもお母ちゃんが大好きで・・・いっつも言うてた。「お母ちゃんはオレの宝物や」って。
パって顔を上げると、鎧をきて刀を持ったお父ちゃんが、厳しい顔をして誰かと話してた。アレは・・太子のおっちゃん?いや・・・顔は似てるけど、雰囲気が全然ちゃう。そのおっちゃんに良う似た人は、グレーのスーツをきて、眼鏡を掛けた男前のおじさまで、少し寂し気な顔でお父ちゃんになんか話してる・・・お父ちゃんは、その人に怒ってるような、懇願してるような感じやったけど、声が聞こえへん・・・
「お父ちゃん!」ウチが声を掛けると、お父ちゃんはハッと振り向いた。お父ちゃんは、ポタポタ涙を流すとウチの手を握って、何かを持たせた・・・それは物置で見た、両側に刃のついた短剣みたいなやつやった。
お父ちゃんはウチを抱きしめると、耳元で何かを囁いた。 声は聞こえへんかったけど、唇の動きだけがスローモーションみたいに見えた。 「○○○○○」 ……なんて言うたんやろ? そのままお父ちゃんは立ち上がり、太子のおっちゃんに似た人と一緒に、真っ赤に燃えるトンネルの向こう側に行こうとした。
「お父ちゃん!そっち行ったらアカン!お父ちゃん!帰って来て!嫌や!お父ちゃん!お父ちゃーん!」
「夏菜!どしたん!大丈夫!?夏菜!?」誰かが呼ぶ声がする。ハッて目が醒めると、田島が泣きそうな顔でウチを揺さぶってた。
「あ?あれ?田島どないしたん?」そしたら、田島はわって泣いてウチに抱きつく。
「どうしたのじゃないよ!あーしびっくりしちゃったじゃん!夏菜、わんわん泣いてたよ!」えっ?あ、そうか・・・夢やったんやな・・・それにしても、えらいリアルな夢やな・・・ほっぺたの周りが濡れてるし・・・
「夏菜子!どないしたんや!なんか変な夢でもみたんか!?」お母ちゃんとお義姉ちゃんが、心配して部屋を覗き込む。うちは、いやちょっと寝言やって誤魔化したけど、夢に出てきた短剣は気になった。お父ちゃん・・・ウチになんか伝えたかったんやろか?
とりあえず着替えて食堂行くと、もうアレ君と真魚さんが、朝ごはんを作ってた!
「え!?アレ君何してんの!?こんな朝早ように!」でも、アレ君は振り返るとニッコリ笑う。
「あ!夏菜子さん、美紗さん!お早うごぜます!太刀魚とカゴカキダイのアラ、ガザミの殻があっぺ!こらざっぱ汁にしねば、もったいねだす!」アレ君が言うと、真魚さんもフン!と胸を張る。
「アレ坊にばっかしええカッコさしとったら、高野山の名折れやからな!オレも直伝の精進料理を食わしたるわ!ま、あり合わせのもんやから、高野豆腐の含め煮と精進揚げくらいしかでけへんけどな!」
そんな、男二人が料理をしてるのを見て、お義姉ちゃんがうっとりしてる。
「二人ともすごいんやで・・・お義姉さんに僕らの分まで作ってもらうんはあきません、っていうて、僕がやりますって・・・なぁ、夏菜子ちゃん、どっちがアレ君のこと狙うてんの?アンタ?、美紗ちゃん?」
「な!?なんや!そんなちゃうって!ウチは別に・・・」
「アホ言いな!あんなええコ他におるかいな!アンタもまんざらやないみたいな顔しとんのに・・・どっちでもええけど、捉まえときや!あとで後悔しても知らんで!」
そんなん、ウチ・・・ウチは・・・でも隣を見ると、田島が首筋を真っ赤にしてアレ君のことを見てて、目の端が潤んでた・・・それを見ると、ウチは胸が少し苦しくなる・・・
「お?なんや!エライ旨そうな匂いがするやんけ・・・って思うたらまたオマエらかい!くぅーーー!女子の機嫌ばっかり取りくさって!やらしいやっちゃら(奴ら)のぉー!」
おっちゃんが入ってきた。なんかタンクトップ一枚で汗びっしょりになってる。
「どないしたんおっちゃん?ランニングでもしてきたん?」ウチが聞くと、おっちゃんはえっ?と言って、ちゃうちゃう、っと笑った。
「ちょっとな、古い知り合いに会いに行っとった。まぁ大した話や無い。それよか飯にしようで!ワシ腹減ったわ!」
◆
「あら?もう行かはるんですか?もうちょっとゆっくりしていかはったらええのに・・・このー・・・ざっぱ汁?アラ汁みたいなヤツも、高野豆腐の含め煮もようけ残ってるのに・・・」
お母ちゃんが、お茶を入れながら残念そうに言う。おっちゃんが、すぐ叡福寺に行ってそのまま奈良に行くって言うたからや。
「すみませんねぇ、お母さん。ちょっとねー、いまバタバタしてまして。まぁでも、この仕事ももうちょっとしたら落ち着きますから、ほしたら、夏菜子さんも帰って来れると思いますんで。あ、それとねー、お母さん。昨夜物置で見たお父さんの持ち物?アレ一つ夏菜子さんが持って帰りたい、って言うてましてねー。いや、離れて暮らしてると淋しいでしょ?」
え?なに言うてんのおっちゃん、って思ってけど、そう言おうとすると、真魚さんが目配せしてきた。
「なんや夏菜子、あんた淋しいんか?ほんなら淡路島とかおらんと帰ってきいや。たしか、太子町役場で職員の募集してたで。」
「え?あー、えっと、アレやん!ウチもいろいろ勉強したいし!まだしばらくあっちにおるつもりやけど、なんか、あったら安心するやん!まぁ、ちょっと後で見に行ってみるわ!」
そう言って、出がけにもう一回物置にいって、昨日見た両側に刃のついた短剣を取ろうとすると、
「?・・・あれ?これなんか、えらい重たい?」昨夜は見ただけやから分からんかったけど、手に取ったそれは、明らかに普通の鉄製の感じと違うかった。真魚さんが大きく頷く。
「やっぱり・・・これ、ヒヒイロカネやな。」
「ヒヒイロカネ?真魚さん、それって何?」
「あぁ・・・えーとな、夏菜子ちゃん、饒速日はんに会うたって言うとったな?その人が剣持ってたやろ?アレの素材や。なかば現世に、半ば常世に実体が存在する金属でな。これで作ったものは、現世のどんなに強力な兵器でも破壊することは出来へん。せやけどこれを持っとるちゅうことは…」
真魚さんが、太子のおっちゃんの方を見て、おっちゃんが静かに頷く。
「せやな…夏菜子、お前のお父ちゃんはな、戦士や。しかも崑崙の戦士やない。蓬莱島…つまり補陀落、熊野権現の戦士や。そう言うことが、あの手紙には書いとった。しかし…」
おっちゃんが言葉に詰まるところを、真魚さんが引き継いだ。
「夏菜子…蓬莱島は、オレら関西ライオンズクラブの管轄や。せやけど、そんな戦士は聞いたことない。ヒヒイロカネの独鈷を持ってんのは高位の戦士だけやから、絶対にオレらの耳に入るんやけどな…」
せやけど、と、おっちゃんが言う。
「今は先を急ぐ。その内分かることもあるやろ。とりあえず行こやないか。」
読んでくださってありがとうございます!
第44話は、前半の「飯テロ」と後半の「ミステリー」の温度差をお楽しみいただけましたでしょうか(笑)。
まずはアレ君の作った**「ざっぱ汁」。
魚のアラを使った豪快な漁師汁ですが、こういうのをサッと作れる男子、ポイント高いですよね。
対抗して精進料理を作る真魚さん(空海)、負けず嫌いです!
そして後半、ついに判明したお父ちゃんの「裏の顔」。
「蓬莱島の戦士」、そしてお父ちゃんが残した「ヒヒイロカネ」の武器。
「なかば現世に、半ば常世に実体が存在する」
往年の伝奇アクション漫画ファンの方なら、このフレーズにニヤリとしていただけたのではないでしょうか?
この謎の金属が、今後の物語の鍵を握ります。
次回、一行は聖徳太子の眠る叡福寺へ。
そこには「何もない」はずだったのですが……?
1400年越しの「あるサプライズ」が、おっちゃんを待ち受けています。
物語が大きく動く第45話、どうぞお楽しみに!




