第2話 同僚は元ヤンアイドル? 再び現れたお爺ちゃんの秘密
数日後、仕事が終わって帰ろうとしたら、隣のデスクの田島が話しかけてきた。
「ねーねー、こないだマルナカに太刀魚入ってたんだって!今日帰りに買ってこうよ!あーし喰ったことなくてさー!ほんで夏菜んとこで飲もうぜぇー!」
なんやねんこの元ヤンは・・・東京モンはみんなお洒落ちゃうんかい?プリン頭でしゃべりはガラ悪いし。なんやったかな?コイツの出身、たしか京急の穴守稲荷?知らんけど。たぶん大阪の大正とか西成みたいなとこに違いない。その割には国立大学出でわたしより頭ええんが気に食わん。
「なんでやねん・・・あんたと飲んだら一晩中やんけ・・・」さっさと逃げようと思ったが、よく考えたらコイツは独居老人対策で洲本市役所や南あわじ市役所によう行ってる。ひょっとしたらこないだのお爺ちゃんのことでなんか知ってるかも?
「まぁ金曜日やし・・・ええで、付きおうたるわ。」そういってわたしらはPCを閉じて昨日のマルナカに向かうことにした。マルナカには、ときどき地元の珍しい魚が並ぶことがある。とたんに田島が反応する。
「なにコイツ?ちょーかわいい!ねーねー夏菜!コレなんてゆうの?」田島は棚に並んだ銀色の丸い魚を指さした。
「え?マナガツオやけど?東京にはおらんの?」そういうと、田島は急にわたしに抱きついて来て手をつないできた。なんか知らんけど、コイツはやたらベタベタ引っ付いてきよる。
「えー!あーし初めてみたよ!これって美味いの?」田島が目を輝かせていると、魚屋のおっちゃんが鼻の下を伸ばしながら解説しだした。
「なんや!?田島ちゃん、マナガツオ知らんのか?コイツはゴッツイ美味いで!造りでも塩焼でも抜群や!おい夏菜子!コレ捌けるか!?田島ちゃんに旬のマナガツオ食わしたれ!」
「おいオッサン!なんで田島はちゃん付けでウチは呼び捨てやねん!ていうか……マナガツオ捌くくらい余裕やっちゅうねん! お?シズも置いたあるやん!これもちょうだいや!おっちゃん、マナガツオ一尾とシズ2尾な!美味いん選んでや!」
「なに言うとんねん、田島ちゃんはオマエみたいにガチャガチャしてへんしベッピンさんなんやないか!ちゅうかオマエ、ちょっとはガラ良うせな嫁の行き手ないで……ほい!マナガツオ一尾とシズ2尾や!早よ食べや!田島ちゃん、また来てや!サービスするさかいな!」
「うん!おじさんありがとう!また来るね!」田島は、愛想よく笑っておっちゃんに手を振る。
田島は元ヤンでプリン頭ではあるが、愛想が良くて美人でそのうえ可愛い。更にスタイルが良くて胸がでかい。
しかも、ギャル言葉が可愛い、とか言うてここらのおっさんたちに大人気である。なんなら、漁師の兄ちゃんとか高校生の男の子にも人気で、ここ洲本のアイドルと言っても良い。
くっそ!ウチがチビで色黒でごつくて腕が太くて、男にもてる要素皆無やのに!この間、近所の幼稚園の紙芝居ボランティアに駆り出されたら、年長さんの男の子に「ドワーフや!ダンジョンご飯や!」って言われたし!
しかも、女ドワーフの方やと思たら飯作ってる方のおっさんドワーフやて!?なんやっちゅうねん!
あ、ちなみにマナガツオって言うのは、主に関西人が食べる丸くて銀色の高級魚やで。東京やと喰われへんみたいやから賢い読者のみんなは覚えといてや。ついでにシズって言うんは、イボダイとかウオゼっていう、銀色のちっさい丸い魚で、コイツも旨いねん。大阪きたら食べて帰るんやで!
って違う!そんなことはどうでもええねん!なんでウチはガラが悪いとか、嫁の貰い手がないとか言われなアカンねん!天は二物を与えへん過ぎやろ!せいぜいウチにあるんは胸おおきいくらいや無いか!
そんなことでまた地団駄踏んでいると、田島が肘で突いて来た。
「ねね、夏菜・・・ちょっとあのお爺ちゃん大丈夫かな?」
振り返ると、昨日見たお爺ちゃんが、ふたたびトボトボとカートを押していた。
お爺ちゃんはカップ麵のコーナーに行くと、一つ取ろうとして棚の上に手を伸ばす。
しかし、少し高い所にあるカップ麺を取ろうとする手が震えていたせいか、それを落っことしてしまった。
「アッ!お爺ちゃん!」田島が急いで駆け寄り、カップ麺を拾ってお爺ちゃんのカートに入れて声を掛けた。
「お爺ちゃん大丈夫?これ、買うんだよね?」
田島に声を掛けられたお爺ちゃんはコックリと無言で頷いた。わたしはカートの中を見たけど、中に入ってるんはさっきのカップ麺と、納豆ともやしだけやった。
「お爺ちゃん、こんなもんばっかし喰うとったら身体こわしてまうで?」わたしが言うと、お爺ちゃんはまたハァーと溜息をついて寂しそうに応えた。
「すまないね、ワシはだいぶ前に女房に死なれてしまってね・・・子供たちや孫たちはワシの残した財産を無駄遣いするばかりで、今は無一文なんじゃよ・・・」
まさかの標準語!?地元の人とちゃうんかな?
どんな事情か分からへんけど、県民局でも高齢者の見守りや支援はやっているし、洲本市とも連携している。
担当の田島もおるからちょうどええ。
「なぁおじいちゃん、ウチら県民局の職員やねんけど、お爺ちゃんみたいに一人で暮らしててお金ない人とかサポートするんが仕事やねん。ちょっとお家いってええかな?なんかできることあるか知らへんし。」
「そうだよ!あーしら今からお鍋するから一緒に食べよ!?そんでお爺ちゃんのこと色々教えてね!」
え?田島なに言うてんねん。今日マナガツオとシズの造りで飲み明かすんちゃうんかい。いきなり魚すきかい。わたしらは豆腐やら白菜やら鍋に入れる物を買い足して会計すると、田島の車でみんな一緒にお爺ちゃんの家に行くことにした。
「あれ?なんでこんなとこ・・・」お爺ちゃんが言うところの住所は、どうも南あわじ市らしい。なんでそんなとこから洲本まで?車でも30分かかるで?歩きやったらメッチャ遠いやん。っていうか、お爺ちゃん昨日マルナカの近所の神社に入っていかへんかった?
「どういうこっちゃ・・・」
「ん?夏菜なんか言った?」わたしがブツブツ言っていると田島が聞いてきたので、わたしは首を振って何でもない、って言うた。
「おお・・・ここだここだ。ありがとう、お嬢さんたち。」
お爺ちゃんがお礼を言って車を降りたところは、淡路鳴門自動車道のすぐ近くにある大きい鳥居やった。たしか自凝島神社って言わへんかったかな?
わたしらはでっかい鳥居にビビッて見上げていたが、ふと下をみるとお爺ちゃんがいない。
「あれ?家に入っていったんかな?」わたしらは慌てて境内に入って社務所に行き人を呼んだ。
「すんません、さっきだいぶ歳いったお爺ちゃんが入っていったて思うんやけど、どこに行かはりました?」
「はいはい、わたしは当神社の宮司でっけど・・・は?年寄り?いえ、ウチは私と女房だけでっせ・・・父はもうだいぶ前に他界してまっさかいに・・・」
たぶん60後半くらいの宮司さんやったけど、似ても似つかん人やった。だいたい関西弁やし。
「どういうことだろ?あのお爺ちゃん、ここが自分の家だって行ってたよね?」田島は不思議そうに頭をひねってたが、とりあえずわたしらは家に帰ってマナガツオの魚すきでも食うことにした。




