第1話 都会を夢見る地方公務員と謎のお爺ちゃん
「え?なに?遺産分割?知らんて…別に遺産いうたって、あの家とお父さんのガラクタしかないやん。そんなんお兄ちゃんにあげたらええねん。え?次の日曜日に太子町に帰ってこいて?もう…なんなん!ウチ忙しいねん!ほな切るで!」
わたしはそう言って母親からかかってきた電話を一方的に切った。
2年前に父親がいきなり離婚したいって言うて家を出て行って、幸いわたしも兵庫県庁に採用された後やったし、お母ちゃんはお兄ちゃんとお義姉さんが同居してるし、お父ちゃんはなぜか財産を全部残してくれた。
そやから生活は困らへんけど、わたしはなんか心にぽっかり穴が開いたみたいで、加えて何でかよう分からへんけど突然彼氏にも振られて、わたしの社会人デビューは散々なところから始まった。
それでも何とか踏ん張って頑張ってきたのに、先週突然上司に言われたんは「来月から淡路県民局に異動やから」。
なんなん!田舎での生活が嫌やから都会での就職を選んだのに、何でよりにもよってそんな田舎なん!しかも島やん!
そのことを同僚の田島美紗に言うたら、アイツ
「あのねぇ、アンタは本当の都会に住んだことないからそんなのが良いと思うんだよ。アタシとか東京23区だよ!?見ろ!人がごみの様だ!違うっつーの!品川とか山手線まってる人が京浜東北線のホームに落ちそうなってるし!その点洲本サイコーじゃん!家賃安いしご飯めっちゃ旨いし!」
なんやねん、上からモノ言いよって東京モンが!わたしはムスッとしながらPCを閉じると庁舎を出てチャリに跨り、家と職場の間にあるスーパーにも向かった。
わたしは小路夏菜子、さっきも言うたけど大阪府太子町出身の、都会暮らしを夢見て地元並みの田舎に飛ばされた悲劇のしがない公務員や。最近では、家と職場の間を往復するだけの毎日に嫌気が指している。
確かに、洲本は地元の太子町よかちょっとは都会やと思う。イオンあるし。太子町で一番ようけ人集まるんはラムーやからな。ラムーとイオンでは勝負にならん。そんなことはわたしも分ってる。
せやけど、そこちゃうねん!太子町は大阪駅まで1時間かからへんやん!洲本から三宮駅まで2時間ちかくかかるやん!しかもバスやん!
そんなことを考えながら、わたしは晩御飯のおかずを買いに近所のスーパーマルナカに入った。
たしかに、淡路島は食べる物が美味しい。野菜が美味しいのは地元でも一緒やけど、魚が美味しいんは良かった。県庁にいたときは、大して美味しくもない魚や野菜でもめっちゃ高かった。給料がそんなに良いわけでも無いので、安くて美味しいものが食べられるのはありがたい。
「まぁ、たしかに田島の言う通りか知れへんけど・・・」わたしはそう言いながら鮮魚コーナーに行くと、太刀魚の造り(刺身)を発見!おっ!?ラッキー♪しかも安いし!なんか今日はムカついたしこれでビール飲も!ってちゃうし!わたしはなに喜んでんねん!?
そんな感じでひとり地団駄踏んでいると、一人のお爺ちゃんがヨボヨボとカートを押しながら総菜を物色しているのが目に入った。
お爺ちゃんは惣菜の値段を見るとはぁっと溜息をついて、それを手に取らずまたトボトボ歩いて行き、納豆とタマネギだけをカートに入れてレジに向かった。
「なんや…お金ないんかな?一人みたいやし、年金少ないとか?」
地方で身寄りのないお年寄りが生活に困窮して…いちおう行政マンのわたしは、急いで太刀魚の造りとビールを会計すると、お爺ちゃんの後をつけてみた。
「晩御飯のおかず納豆とタマネギだけてヤバいやろ…」そんなことを思いながらスーパーを出ると、お爺ちゃんは買い物袋を下げながらトボトボ歩いて行く。
どうも、車やチャリで来たんとちゃうみたいで、そのまま歩いてスーパーの駐車場を出て行った。
「この近所かな?」思いつつ、チャリを押して後をつけるが、なぜか全然距離が縮まらない。
?お爺ちゃん、めっちゃヨボヨボ歩いてんのになんで?どう言うわけか距離が開いていくのでわたしは慌てて自転車に乗ったが、普通に漕いでやっと追いつくような感じやった。
しばらく走ると、お爺ちゃんはあんまり人気の無い神社に入っていく。
「ここの神主さんかな?」わたしはお爺ちゃんを見失わないように急いでチャリを漕ぐと、神社の鳥居に着いた。
そこにチャリを止めて境内に入るが、さっき入っていったはずのお爺ちゃんが全然見当たらない。
「あ、あれ?」建物と言えば小さい拝殿が一つあるだけで、社務所のような人が入れる建物は見当たらない。
「見間違いかな?ちょっとこのへん道暗いし・・・」かといって、周りにアパートやマンション、民家があるわけでもない。
不思議に思ったけど、明日も仕事があるし、わたしは帰ることにした。




