序章
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現実世界の殺人事件はつまらない。
今日も誰かが死んでいく。どこかで誰かの命が狙われ、殺される。人に感情がある限り誰かを恨み憎み、誰かの恨みを買い憎まれる。
だからこんなことは日常茶飯事で、何の面白味もない。誰かが誰かを殺す理由に、大した物語などない。
どうせ今回の事件も、そんなくだらなくて欠伸が出るようなものなのだろうと、審馬匠は確信付いていた。
ーーーはずだった。
ヒール靴の音が周囲に響き渡る。その音に反応するように、集まった捜査員達は玄関の方へと視線をやる。
家の中から警察官に囲まれた女が歩いてくるのが見えた。パトカーに体を預け腕を組む審馬の方へと、彼女らはゆっくり近付いてくる。
女と目が合った気がした。その瞬間、体の中から湧き上がってくるような快楽にも似た感覚を覚える。
美しき殺人鬼。結婚し、中学生ほどの大きな子供がいるとは思えないほど、この女は容姿も佇まいも洗練されている。
そんな女が、真っ直ぐ審馬の目を見ている。
気付けば無意識に唇を舌で舐めていた。
「最っ高に良い女じゃねぇか」
そう呟きながら、審馬はパトカーのドアを開ける。押し込まれるようにして車の中に入っていく女のちらりと露出した首筋をじっと見つめる。
退屈?そうだ。きっと退屈だ。どうせこの女の動機もくだらない。
だが、そんなものを跳ね除けるくらい、正義の宿る目をした「イイ女」だ。
家族を皆殺しにしておいて正義面ができるこの女は、果たしてどんな声で鳴くのだろうか?
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次回投稿は5/25(日)
を予定しております。