エピローグ
今日は、長年の確執があったルネディア王国とヴァルディア王国の平和同盟が結ばれた記念すべき日…………
の次の日である。私と魔王様はルネディア王国に滞在させてもらっていた。
そして私は時間の隙を見てルネディアの城を抜け出して、城下町へと来ていた。
目的はそう、この国の料理が食べたかったのである。屋台の大将に金を払って、肉の串焼きを受け取り思い切り頬張る。ヴァルディア王国とはまた味付けが違って美味しい。
あっちの初めて見る料理も食べてみるか。最近の私は胃が大きくなっているので全制覇も出来るかもしれない。
そうして食べたかったものも大方食べ終わり、そろそろ勝手な外出がバレて怒られる前に戻るかと歩き出そうとした。
その瞬間、ぐい、と外套の裾が引っ張られる感覚がして不思議に思った私は下へと視線を向ける。
そこにいたのは小さな女の子だった。何故か私にキラキラとした瞳を向けていた。
「イザベラ魔王妃さま……!」
私は驚き周りを見渡す。幸いなことに近くに人はおらず誰も聞こえていなかったみたいだ。身バレ防止のため深いフードを被っていたのだが、食事のために口元だけ出していたらそりゃ下からは顔が見えるかと納得する。
私は女の子に目線を合わせるためにしゃがみこむ。
「すごい、よく分かったな」
「昨日のパレードで見た」
「記憶力がいいなぁ」
昨日のパレードでは私はかなりメイクをしていて、それに対し今日はすっぴんなのだが観察力がすごい。
「ねぇねぇ魔王妃さまは、この国のお姫様だったんでしょ?」
「あぁ、そうだな」
「ならどうして魔王さまと結婚したの? 王子さまや勇者は来てくれなかったの?」
予想してなかった質問に私は目を丸くする。
ふと、彼女が本を手に持っていることに気がついた。その表紙には王子様とお姫様らしき人物が描かれていた。
「お嬢ちゃんは王子様や勇者が好きなのか?」
「うん! かっこいいもん!」
そう言って無邪気に笑う姿がとても可愛らしかった。
ふと、私は昔お母様が読んでくれた魔王と姫の話を思い出して笑みを浮かべた。
「そうだなぁ、魔王様のことを好きになってずっと一緒にいたかったからだよ」
「……お姫様なのに?」
「お姫様でも、好きになったんだ」
彼女は私の言葉にパチパチと瞬きをしている。王子や勇者に憧れることが出来る素直ないい子にはまだ難しかったかなと、そっと頭を撫でた。私はだいぶ捻くれた子供だったから。
「じゃあ質問のお返し。お嬢ちゃんは好きな子はいるのか?」
「うん!いるよ!」
まさかの即答に私は凄いなと感心してしまう。この潔さは見習いたいものだ。それでも一応恋愛経験のある先輩として一つだけアドバイスをしておくとする。
「そうか、ならちゃんと大好きって気持ちを伝えるんだぞ」
「うーん、でも恥ずかしいよ」
「そうだよな。でも、待っているだけのお姫様じゃ幸せになれないかもしれないぞ」
「……なら、頑張ってみる!」
そういって彼女は両手に握りこぶしを作っていた。
もう満足したのか「ばいばい!」と元気よく走り去っていく女の子を見て、私は手を振り返して微笑ましく思う。
子供って可愛いなと思っていれば、背後から愛しい人の声が聞こえてきた。
そうして振り返れば予想通り、私と同じく深いフードを被った怪しい男、旦那のレグナルがそこに立っていた。
「ちょっともう!探したのよ!」
「わざわざ迎えに来てくれたのか」
「勝手にいなくならないで頂戴、心配するでしょ」
「申し訳ない」
私は不満げに口をとがらせている可愛らしいレグナルを見て笑い、するりと腕を絡ませて擦り寄る。
「折角だから、このままデートしてから帰ろうか」
「……仕方ないわね。少しだけよ」
私に甘く素直じゃないレグナルは、そう言って笑った。
私は『魔王と姫は無事にハッピーエンドを迎えられたよ』と心の中でお母様に呟いたのだった。
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