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母国で虐げられた男勝りな姫は、隣国のオネエな魔王陛下に嫁ぎ幸せになります  作者: 久遠 千暁


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09.憧れの騎士団




 この国に来て数日がたち、新しい環境にも慣れ始めたある日のこと。

 私は魔王様から騎士団の見学の許可が出て、今日という日が楽しみすぎて胸がいっぱいだった。昨日はいつもより早く寝て、朝早く目覚めることが出来た。

 そして私は動きやすい乗馬服を着て、少し歩いて騎士訓練場へとやって来ていた。


 

 そこではまだ朝早いというのに既に騎士たちは訓練を開始し、走り込んでいる人やトレーニングアップをしている人、打ち合いをしている人達の活気で溢れていた。

 我がルネディア王国の騎士は大半が男性であるが、このヴァルディア王国ではパッと見る限り男女比が半々のようだ。

 男性も女性も背が高くガタイがいいからだろうか。


 

 目を輝かせて邪魔にならないように片隅の方で彼らの練習風景を見学していた。

 私はお昼の休憩時間になったのを見計らって、大きく息を吸い込んだ。



「頼もう!!」


 

 私の声に気づいた騎士たちが一斉に私へと視線を向ける。

 それらは決して好意的なものでは無かったが、実質不審者で無礼者である現状では仕方ないだろう。


 

 様子見をしている騎士たちの壁から一人の男性が私の方へ歩み寄ってくる。先程まで他の騎士たちに司令を出していて、立派な腕章と胸元のバッチを見るに彼がこの中で一番偉い騎士団長か隊長クラスだろう。



 サッパリとした短い青髪と、額から覗くツノ。身長は魔王陛下と同じ2mぐらいは軽くありそうだ。そして服を着ていても分かる素晴らしい筋肉。相当な実力の持ち主なのだろう。


 

「そういえば魔王陛下が、そのうち城に居候してる人間の女の子が見学に来るかもって言っていたな……」

「初めまして。居候してる人間の女のイザベラと申します!魔王陛下にはいつもお世話になっております!」


 挨拶は大事だと、私が元気に挨拶をすれば面食らったように彼は頬をかいた。

 


「こんにちは、お嬢ちゃん。俺はこの騎士団長のフランだ。見学に来たのかい?」

「はい!不躾ながらお願いがあるのですが、隅の方で良いので練習に混ぜていただけないでしょうか」


 

 私の失礼なお願いに、にこやかな笑みを浮かべていたフラン団長の顔が曇る。


 

「それは難しいな。お嬢ちゃんは大人しくそこで見学していてくれ。これは遊びじゃないんだ」

「百も承知です。そこをなんとか!!!!」


 

 私は深く頭を下げて無理を承知で頼み込む。昔、お母様に騎士団に放り込まれた時のことを思い出すな。


 

「ガキにはまだ早い、庭で遊んでな」と騎士団のおっちゃん達に相手にされず兄共々追い返される日々。雨の日も風の日も何日も何日も頼み込んで、ようやく認められて稽古をつけて貰えるようになったあの日の感動は忘れられない。

 あの頃はなんて意地悪なんだと思っていたが、大きくなってみるとまだ遊んでいるべき年齢の子供に対するおっちゃん達なりの優しさだったんだなと理解した。

 


 これは説得するのに何週間もかかるかもしれないなと思いつつ、それでも通い続けるぞと息巻いていれば、一人の女性騎士が手を挙げた。




「まあまあ、フラン団長。その子は簡単に諦めたりしなさそうな頑固な目をしているよ。今日は時間もあるし、チャンスをあげてもいいんじゃないかい?」

「おい、マリアンヌ」


 

 フラン団長の静止の声を振り切り、マリアンヌと呼ばれた女性は私の前に立ち美しく微笑んだ。赤い髪を腰まで垂らしていて、褐色肌でメリハリのある体をしている。つい晒されたお腹に目がいってしまう。だって、綺麗な腹筋がそこにあるのだ。

 

 

「アタシに一発でも剣を当てられたらアンタの勝ち。戦えなくなったり戦意喪失して降参したら負け。勝ったら私が面倒を見てやるよ。これでどうだい?」

「ありがとうございます!!分かりました!!」


 

 実力を分からせて諦めさせるためかもしれないが、初日でチャンスをくれるなんて女神様かもしれないと私は感動する。


 

「それにしても人間ってどれぐらい脆いのか分からないな……大怪我しても恨むんじゃないよ」

「はい!!!」

 

 

 私達は訓練場の一角を貸してもらうことになった。周りには興味深そうに観戦しようとしている騎士たちでいっぱいだった。

 そうして丸腰な私に練習用の剣を手渡された。

 私がいつも使っているものよりずっと重いし長い。手に馴染むまで少し時間がかかりそうだ。でも負けても武器を理由にしたくないので私は気を引きしめる。




 

「始め!!!」


 

 試合開始の合図とともに攻撃が来るかと警戒していたが、マリアンヌ様もまた私の挙動を一挙手一投足見逃さないように視線を向けていた。


 

「かかっておいで。全部受け止めてあげるよ」


 

 そう言って彼女は大した構えもせず手招きをした。舐められている、というかハンデを貰っている。私はそれを優しさと受け止めて微笑む。



「それでは有難く、失礼する!」



 私は瞬発力を活かして一気に彼女の間合いに入り込む。しかし剣が思ったより素早く動かせなくて彼女の剣さばきによって容易く弾かれる。崩れた体制を立て直すため、彼女の動きから目を離さないまま私は地に足を着いた。


 

「いい身体能力だね、動きも早くて目の動かし方もいい。柔軟性もあるみたいだね」


 

 そう私の攻撃を評価して頷いた。

 そしてマリアンヌ様は初めて動き出す。目にも止まらぬ速さで、剣の攻撃が毎回とても重い。何とか受け止めているが、歯を食いしばらないと耐えられない。


 

 そうして何回か切り込まれて彼女の狙いは私の手……もとい剣に向いていることに気がつく。きっと私自身への攻撃を最小限にして、剣を弾き飛ばして戦闘不能に持ち込むつもりだろうと察することが出来た。こんな不審な小娘一人ボコボコにして勝ったっていいはずなのに、本当に優しい人だと尊敬する。

 


「いつでも降参していいんだからね」

「まだ頑張ります!」



 まだ戦闘不能になっていないのだし、私は降参するつもりはサラサラなかった。息を整える。

 ようやく、剣が私の手に馴染んできた。重い衝撃を受け止めていたせいで手が痺れ、重さに腕が疲れ始めていたが、それでも握りしめる手に力を入れる。



 私はこの剣を思い切り真上へ回転させて投げ飛ばした。

 そのまま私は助走をつけて高く跳躍する。空中で回転している剣をキャッチして握り込み、そのまま落下するスピードは落とさずにマリアンヌ様の元へ切り込んだ。



 私の行動に驚いていたマリアンヌ様は回避が少し遅れ、腕に剣の切っ先を当てることが出来た。

 


 周りで固唾を飲んでいた騎士たちの歓声と拍手が上がる。

 安堵から私は張り詰めていた息を大きく吐くことが出来た。


 

「お前さんそんなちっちゃいのによくやったな!人間って弱っちいのかと思ってたけど、そうじゃなかったんだな!」

「あんた最後まで諦めないガッツがあっていいね!かっこよかったよ!」

「すげーじゃん!!今度は俺とも手合わせしてくれよ!」


 

 たくさんの騎士たちが私の方へ駆け寄り、肩を叩いたり髪をぐしゃぐしゃと撫でられる。どうやら少しは認めて貰えたようだ。

 人の波を押し分けてマリアンヌ様が私の方へ向かってきた。


 

 

「イザベラ……だったか、怪我はないかい?

 とてもいい試合だった。私の負けだ、約束通り面倒を見てあげるよ」

「マリアンヌ様がとても手加減してくれていたおかげで私は怪我ひとつ無い。こちらこそ実りのある試合だった、本当にありがとう!」

 


 負けを認めないなんて事はなく、そう言って彼女は手を差し伸べた。私は迷うことなくその手を取る。


 

「それじゃあまた今度、手合わせしよう!普段のトレーニングメニューとか夜まで語り合おうじゃないか!アンタのことを気に入ったんだ、もし暇だったら明日も来てくれ」


 

 汗を流し頬を高揚させたマリアンヌはどこか妖艶だった。

 しかし、無邪気に眩しい笑顔を浮かべて、私の手を取りぶんぶんと振り回す姿は子供のようでギャップでドギマギしてしまう。


 

「どうやらうちの副団長であるマリアンヌが君を気に入ったようだし、ウチとしては認めないわけにはいかないな。いい試合だったよ。

 もう少ししたら訓練再開だから俺たちはもう行くけど、良かったら見ていってくれ」



 副団長自らがチャンスを与えてくれて居たなんて……!と私は更に感動と尊敬の瞳をマリアンヌ様を見ることになった。

 そしてフラン団長からもお許しの言葉が出たので、私は休憩も兼ねてそのまま見学させてもらう事にした。


 

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