第317章 【別伝】ソフィア・シュテンの日記㉚ 突撃隊隊長、魔都で買い物をする
政府庁舎駅から地上階に出る。
そこは広いホールだが、軽食ができる店や洋品店、文房具店、それに惣菜などを売っている店がたくさんあり、多くの人でにぎわっていた。
「政府庁舎駅は、魔王国情報総局の建物の地下に作られたものですが、この通り、地上階は政府に承認されたお店がたくさんあり、マフトレーン利用客や近くの建物で働いている人たちにとても便利だと、とても多く利用されています」
“何っ、この建物は魔王国情報総局の建物?! 情報局と言えば、一国の安全保障、外交、経済、防衛にとって極めて重要な機関だ。外国の政治・軍事・経済 動向を収集・分析して政府の意思決定を支え、反政府主義者や外国の諜報活動から国家を守る防諜機能も担う。
そんな重要な機関が入っている建物の地下にマフトレーンの駅を作り、さらに地上階には多くの商店を営業させているなど到底考えられん!”
マフトレーンに大量の爆薬をしかけて情報総局を建物ごとぶっ飛ばしたり、市民に紛れこませた敵の諜報員が情報総局に侵入して重大な国家機密を盗み出さないとも限らない。まあ、魔王のことだ、そういう面の対策はしっかりさせてあるのだろうが。
マノンは、地上階ホールが作られ、商店が開業するに至った経緯などを説明しながら、エルフやラビットニディオス、カプリコルニディオス、トロールなどが長い列を作っているお店の前まで私たちを連れて来た。
「そしてここが、アリシア総督さまが、外務省の8級職員から情報総局情報分析室室長に栄転されてから、毎日ご利用されていた『マオウナルド』店です」
マノンが、まるで毎日彼女がアリシアのために列に並んで、トリプルバーガーを注文して情報分析室に持ち帰っていたかのように、それほど大きくない胸を張って誇らしげに言った。
“外務省の8級職員?
私は魔王国の公務員の階級は知らないが、たぶん8級というのは最下位の階級だろう。外務省の最下位職員から、情報分析室室長という重要な職に抜擢されたのだ。
これは単に魔王のお気に入りと言うだけでは就けない職だ。アリシアがエルフ語、獣人語(何十種類もある)、トロール語などに堪能だということは聞いてはいたが、一国の運命を左右する問題の解決や意思決定に影響をあたえるかも知れない情報を分析し、重要と思った情報を上部機関や魔王に具申したのか。
ボンクラやゴマ擦りなどの無能な者には出来ない仕事なのだ。”
魔都高層建築区(政府間庁舎地区)
魔王国情報総局の建物から出ると、そこには目を瞠るような光景があった。
幅がすごく広く、きれいに舗装された道路には、正確に10本の、等間隔で引かれた線が描かれており、馬なしの馬車― 馬に引かせない馬車を馬車と言うのかどうかは疑問だが― は、行儀よく?等間隔で引かれた線の中をすべるように動いていた!
馬なし馬車は、すでにベルミンジャン戦役のおり、ディデウスクス宮殿の戦いで、わが軍が魔王国から買った「アグラード」という名前の車体を鋼板で囲った最新式の兵器を見ている。
あれは本当にすごい兵器だったが、一般に兵器というものは、その国の最新技術を投入して作られるもので、製造価格など無視して製造される。
したがって、新兵器の製造に使われた技術が民間で使われるようになるまでにはかなりの年月を要する。
それが魔王国ではすでに広く民間に普及して、こうして鬼人族国では見られないような幅がとてつもなく広くきれいに舗装された道路を数えきれないほどの数の馬なし馬車が走っているのだ!
情報総局の建物を出たところは、広い芝生のある公園のようになっていた。
そして、10車線ある幅広い主要道路から2車線の道路が別れて情報総局の建物の前に伸びていて、主要道路から降りて来たマホウカー― と呼ぶとマノンが教えてくれた― が、何台も静かに通り過ぎて行く。
情報総局の建物の周りには、同じような高い建物が競うようにいくつも建っており、この場所は魔王城のある古い町並みを残したかのような地区と一線を画す、近代的な都市区域であることが明らかだった。
「この官公庁区は、魔王さまの近代的高層建築案をアマンダ王妃さまとプリシル王妃さまが計画、実現されたもので、ご覧になられている高層建築の建物群は、第一段階計画として15階まで建てられ、現在第二段階計画で30階まで増築し、もっとも高い高層建築の高さは180メートルに達しています」
マスマホで誰かと連絡をしていたマノンが説明をする。
私たちは、斜頸になるほど首を曲げて情報総局の建物のてっぺんを見上げた。
「こんな高い建物、階段の上り下りだけでも大変じゃないですか?」
「隊長が言うように足腰の鍛錬にはなるかも知れませんけどね」
「当然ですが、これらの高層建築には、魔王城と同じく垂直移動部屋が設置されていますので、お年寄りや妊婦の方などは、足腰の鍛錬をする必要はありません」
「ああ、あの魔法で動く箱部屋ね。あれは本当に便利だわ」
「大王さまも閻羅宮に垂直移動部屋をつけられたらいいのにね」
「閻羅宮は3階しかないから、そんなものは必要ない」
「それもそうですね」
「この行政機関統合地区には、国軍省、総務省、国務省、内務省、法務省、外務省、財務省、経済・貿易省などの魔王国の主要な省庁が集中しています」
「へえ、よくそれだけ覚えたわね、マノンちゃん」
誰とでもすぐ親しくなれるという特技?を持つマリコッチが、感心している。マノンをもう“ちゃん”付けで呼ぶほど仲良くなっているらしい。
「それだけの省庁が、あるってすごいわね!」
「いえいえ。多いので全部言いませんでしたけど、ほかにも国土資源省、科学・教育・通信省、保健福祉省、工業・動力省、運輸省、農業・水産省、都市開発省、魔法庁、それに最高裁判所などもあります」
すらすらと省庁の名前を言う、マゼンタ色の髪と青い目のエルフ少女を見た。従妹にあたるリエル王妃とエリゼッテ王女も美女だが、マノンも同じ血筋の家柄だけあってかなりの美少女だ。
マノン・ シルヴェーヌ・ ボードニア、16歳。オルガス・ボードニアン王の弟、モードム・ボードニア大公の四女だ。アリシア総督が新しい人材を募集していたのに応募し、数千倍の競争率があったという厳しい審査と選抜試験に受かって見事に総督府の職員に採用された。
そして有能なことで評判のレイカ総務次官の秘書官となった才媛らしい。そんな彼女にとって、行政機関統合地区にある省庁の名前を覚えることなど造作もないことだろう。
主要道路から、ひときわ目立つ大型のマホウカーが音もなく近づいて来て、私たちの前で止まった。
「王族専用車を近くで待機させていましたので、これからこれに乗って商業地区へ参ります」
「わーい!」
「商店街に行くのを楽しみにしていました!」
「やれやれ。お買い物の時間か」
「ソフィアさま。そうおっしゃらずに。おいしいお菓子のお店もあるんですよ!」
魔都繁華街
平日の午前中だというのに、魔都の繁華街は人であふれかえっていた。
若い男や娘が圧倒的に多い。恋人同士らしい若い男女が腕を組んで歩いていたり、女友だち同士なのだろうにぎやかにおしゃべりしている娘たち。
エルフもいれば鬼人もいる。カニスディオス、ラビットニディオス、カプリコルニディオス、ボヴィニディオスなどの獣人やトロールたちまでも楽しそうに歩いていたり、歩道に並べられたテーブルに座って飲み物を飲んだり、何やらおいしそうなものを食べたりしている。
「それにしても若い人が多い街ですね!」
「これだけ多種多様な種族が住んでいる街って、ほかには知りません」
「オシャレなブテイックや商店もたくさんあり過ぎて目移りするわ」
「私たち、キョロキョロして歩いているから、きっと田舎者の鬼人って魔都の人たち思っているでしょうね」
「違いありませんね!」
マノン の解説によると、魔都の繁華街は、魔王がマビンハミアン帝国とブレストピア王国を占領して魔王国を建国し、元マビンハミアン国の帝都であったアンドゥインオストの名前を魔都と変えてから、魔都発展を目的に最初に大改造計画を実施した結果生まれたらしい。
大改造計画では、東西南北に広い大通りを開通させ、大通りに面した建物は一律五階建てに建て替えさせ、狭い路地はすべて撤去し、上下水道を整備し、衛生的な生活環境を魔都民に提供するとともに、河川の水質保全をし、さらに公園、街路樹なども整備したそうだ。
魔王の経済政策― 農業重視政策― が功を奏し、魔王国は急成長を遂げ、経済の活性化は商業・工業も成長させ、魔都には多くの人が集まるようになり、商店街は売り上げが増え、さらに新たな商店やレストランなども開店し、魔都はテルースの世界でもっとも活力のある街に変貌した。
魔都の繁華街を歩いていると目移りがして困った。
マリコッチもニーナもソレヌも、目を輝かせてブテイックのガラス張りの飾り窓に顔をくっつけんばかりにして、展示されている最新流行の服や装飾品などを見ていた。
私?私はマリコッチたちの後から見ていただけだ。
マリコッチたちは、持参したお金で買えるだけの服を買った。
ミニスカート、ブラウス、シャツ、パンツ、ショートパンツ、キャミソール、タンクトップなどなど。それに下着もたくさん買いこんだ。
私?私は、泰山王家の娘、ならび子爵としての品格を下げない、落ち着いた上品な『モンスタイル工房』というブランドのスカートやワンピース、シャツ・ブラウスを数点購入した。
『モンスタイル工房』の服は、ガジーマにあるお店でも売っているが、魔都はガジーマで売っているのよりも安いし、最新のモデルがある。
『モンスタイル工房』というブランドの製品は、リンマイユおばさまに言わせると、私みたいな若い娘が着るものじゃないそうだ。しかし、私はヒザ上10センチとか15センチなんて言うちょっとかがむと下着が見えるようなスカートやワンピースを着るわけにいかない。
アリー・ブランド・タグ
マリコッチたちは、『アーリー』ブランドの服だけを買っていた。
『アーリー』ブランドは、鬼人族国でも若い娘たちに大人気で、突撃隊の若い子たちも全員『アーリー』ブランドの服を着ている。もちろん、デート用とかの外出用なのだが。
「やっぱり、魔都は、『アーリー』ブランド発祥の地だけあって、ガジーマよりずっと新しいモデルがそろっているわ!」
「見て、見て、このショート丈トップス。私のために作られたのに違いないわ!」
「それ、白もいいけどピンクもいいと思うわ」
「ねえ、このプリーツミニスカートなんかいいと思わない?かわいいし、脚長見えると思うんだ」
「あはは。ニーナっぺ、もともと短い脚をスカートを短くして長く見せようたってムリよ」
「そうそう。オトコどもがあなたの下着を見てよろこぶだけよ」
「二人ともヒド――イ!」
ブテイックでブランド服を買い漁ったあとは、ランジェリー専門店に入り、その店でも下着を買い漁った。キャミソール、スリップ、ペチコート、キュロットペチコート、ニットインナー、それに下着のパンツにブラジャー。隊員たちは、まるで甘いお菓子に群がる子どものように興奮し歓声を上げて買い物カゴを山盛りにした。
「みんな、もっと静かにしないか。ほかの客に迷惑だろう!」
「は――い!」
「は―い。隊長、これいいと思いませんか?」
ニーナが、自分の腰の前にあてているパンツは、小さな飾りリボンが縦に三つついたかなり大人ぽい(セクシー)パンツだった。
「ん?」
「白がいいかな?それともピンクに黒?」
ニーナは、別のパンツを手にとって見比べている。
ニーナのチョイス
「ニナッペ、それ、かなり透けているじゃない?」
「おケケが丸見えになるんじゃない?」
マリコッチとソレヌも目を丸くしている。
「ヤニグをよろこばせたいの?」
「そんなの見せたら、即、婚前交渉間違いなしよ!」
「やだ――っ、デートの時は穿かないわよ」
ニーナが顔を真っ赤にして否定している。
“えっ、ニナッペがヤニグとつきあっている?”
初耳だった。ヤニグはマリコッチと同じく、突撃隊の副隊長を務めている。年齢は、たしか25歳だったと思うが、責任感の強い頼りがいのある幹部だ。
一方、ニナッペは私と同じ19歳。若いわりにけっこうしっかりしている隊員で、料理が得意だそうで、宿舎では女子隊員たちによく料理をふるまっている。
“そうか。結婚を前庭に真剣につきあっているのなら、じきに結婚するだろう。”
同い年の隊員が結婚をする...
しばし考えこんでしまった。
“私はいつか結婚するのだろうか?
私はアリシアが好きだが結婚なんて不可能なことはわかっている。
だが、もし出来ることならいっしょに住みたいと思っている。
しかしが、おたがい立場が違う以上、それも無理だろう。
ならば、一夜だけでもアリシアと過ごしたい...
だけど、アリシアが私に好意を持っていて、私と一夜を共に過ごしてくれたとしても...
もし、それで私の心が、どうしようもないくらいアリシアにぞっこん惚れこんでしまい、もう離れたくないと思ったらどうすればいいのだ?”
「隊長!」
「隊長!ソフィア隊長!」
誰かが呼んでいるのに気がついてわれに返った。
「ん、どうした?」
「隊長、どうしたんですか、ぼ――っとして?」
ソレヌが、パンツを手に持って首をかしげていた。
「うん。少し考え事をしていた。それで何だ?」
明日の報告会のことを考えていたともっともらしい言い訳をしようと思ったが、
それだと マリコッチとニーナまで興味を持って話に加わりそうだし、マノンまで話に入って来そうだ。そうなるると『ファロスラウグ作戦』の話になってしまい、せっかく隊員たちが楽しく下着を買い物している雰囲気をぶち壊すことになってしまう。なので“考え事”と答えた。
「隊長は、これなんかどうですかって聞いていたんですよ?」
ソレヌが、レースの縁取りがあるリブストライプのパンツを手に取って見せた。
「それは無難な下着だな」
シンプルなデザインで穿き心地もよさそうだ。
「あら、隊長はパンツスタイルが多いから、Tバックがいいんじゃないですか?」
「そうですよ。Tバックはパンツラインが見えないから、パンツをスマートに穿けるんですよ!」
「これなんかどうです?」
マリコッチが商品棚からヒモみたいなパンツを手にとってひらひらさせている。
「いや、それは露出が大き過ぎる」
「でも、通気性が良くて蒸れにくいし、パンツのラインが見えないから、オシリのきれいな隊長にピッタリだと思いますよ」
「私はシリの線が見えようがどうがかまわない」
「残念!」
私も学生時代にTバックを買ったことがある。
私はスタイルには自信があったが、人の目をすごく気にする年頃だったので、シリのラインがきれいに見えると言う話を聞いて買ってみたが...
あのシリに食いこむ違和感が凄すぎて、とてもじゃないが慣れることは出来なかった...
「隊長、好きな人が出来た時のために、これ買っておいたらどうですか?」
ニナッペが、フリルがたくさんついて、リボン結びの飾りがついたセクシーっぽいパンツを持って来て見せた。
「いや、そんなの自分が鏡の前で見るたけだけに買ってもしかたない」
「そうですかぁ...」
結局、パンツもブラジャーもごくフツーのものをいくつか選んで買うことにした。
が...
が、ニナッペが勧めてくれた、リボン結びの飾りがついたセクシーっぽいパンツも誰にも見られないように取ってカゴの下の方に入れておいた。
もしも...
もしも、いつの日かアリシアと愛しあうことが出来る日が来た時は、絶対にこれを穿くつもりだ。
「服は『アーリー』ブランドが一番だけど、下着は『リスイーム』ブランドが一番ね!」
下着をいっぱい入れたカゴを下げ、店の会計の列に並びながらマリコッチが言う。
「そうよね。『リスイーム』の下着は、身体によくフィットするし、仕立に高級があるし、安心して使えるのよね!」
「ブラなんかも、谷間をキュッと持ち上げてくれるから、オッパイがより大きく見えるしね!」
マリコッチたちが、下着メーカーの製品を褒めている。
私も下着はほぼ『リスイーム』社のものばかりだ。『リスイーム』社のものでもTバックは買わないが、パンツは『リスイーム』社のばかりだし、ブラジャーもつけ心地がいいし、私のDカップのオッパイをより美しくもり上げてくれる。
「ご存じだと思いますが、『アーリー』ブランドも『リスイーム』ブランドも、アリシア総督さまがお立ち上げになられた会社です」
「え、そうなの?」
「全然知らなかったわ!」
「アリシア総督って、『マオウナルド』だけじゃなかったの?」
マリコッチたちはすごく驚いていたけが、私もびっくりした。




