ハッピーエンドは好きだけど私は、ヒロインではありません
穏やかな日が続いて、何もなかったかのように過ぎる毎日。
これが当たり前で今までが異常だったのに、寂しさが残るのは何故だろう。
不思議なものだ。気の緩みってものかもしれない。
ルシアさんが学園に来なくなり一月が過ぎ、レッセン王子達、ルシアさんを取り巻いていた令息の事情聴取なども終わり、関係者は、1週間の停学処分となった。
これは関わりが深い浅い関係なしに平等で、学園側に苦情も来たが、かなりの生徒が巻き込まれたこともあり、処分を決断したと発表された。
私は、自宅のサロンでお茶を飲んでいる。そして目の前には、レイリー様がいる。
「何故、いるんです?」
「いや、婚約者だからね」
とニタニタしている。
「いえ、まだですよね。やめて下さいな、その顔」
「まぁ、俺的にもすっきりしたかなぁって感じ。気づいていたんだろう?最初から?」
「いえ、途中からです。転生者として目覚めたのがサマーパーティーって言うのが本当なら、そこから準備をしたのかしら?レッセン王子にアドバイスは何もしていなくて、途中からむしろルシアさんとの時間を作ってあげている印象を持ちました」
「うーん、そうだったかな、見えないようにやっていたつもりだったけど。その前に転生者を自覚して、あの時ゲームを思い出したのは本当で、俺もゲーム経験者、ちなみに1と2両方とも、でも覗き見や彼女の代わりに少しやっていた程度。混ぜたらどうなるかなぁって思ったのと、ストーリーの改ざんしたらどうなるのかという興味本位かなぁ。隣国の王子、王女に留学の案内出したのもこちらから仕向けた。転生者がいるんじゃないかなぁって予想でね。先にミリーア王女に取られたけど黒魔法の本も俺が取る予定で動いてたらなかったって話」
「予想通り、おめでとうございます。ミリーア様とご婚約されても良いんじゃないですか?辺境伯としたら、都合はいいと思います。レッセン王子に仕返しで溜飲は下がったんじゃありません?もう平気でしょう」
と言うと、大きく手を振って、
「ざまぁと思ったのは確かさ。令嬢に騙されて、周りからの評判も下がって、不信な目でも見られている兄上が見れる。話が違うのは、ここからさ。今まで、蔑ろにされてた、王族として捨てられた扱いの俺にだよ、公務やら内政の仕事をして兄上を助けろ、なんて言ってきた。ふざけるなって思ったね。何が二人で一人前になれば良い、なんてふざけているよ」
と悔しそうな顔をして、少し泣いてしまうんではないかとも感じ取れた。
幼い頃から辺境伯に預けられたレイリー様の気持ちは言葉では表せないほど計れない。
「仕事量ってえげつないの。笑っちゃうだろう。こんなの小さい頃からレッセン王子はやってるんですとか、内政官に言われた。俺は、辺境伯達に思いっきり外で遊ばしてもらってた。狩りも乗馬も楽しかった。教育も、それに年に何度か王宮で過ごしてた。その時は、みんな優しくて逆に気を使われてるとさえ思った。レッセン王子のスペアみたいな恰好が嫌だった。今考えると俺を貶したりする奴らから、国王も王妃もレッセン王子も守ってくれていたに過ぎないことなのに、変に嫉妬して兄上にザマァとかして、迷惑かけてそれで、仕事しろって言われて、出来ませんってヤバいやつだろう?笑っていいよ。怒ってくれよ」
下を向いて顔が見えないレイリー様の肩が、震えている。
「お待たせしました。お入り下さい」
と私が言うと扉が開く。現れたのは、レッセン王子。
その声に顔を上げるレイリー様、
「えっ、えぇ〜」
と声をあげるレイリー様に、笑うレッセン王子。やはり双子だけあって似てるなと思う。
「やぁ、レイリー知ってて教えてくれなかったんだって?あえて近づくように時間を作ったりって酷いな。それもルシアが魔力持ちで、その力に私は、魔力に引き寄せられていた事もカトレア嬢とミリーア王女の進言でわかったよ。魔力酔いの状態で正常な判断が出来ないと証明してくれた。そしてルシアも王家の魔力の本に魔力を吸い取られ、本が閲覧できるようになった功績で無罪だよ。みんな魔力のせいという事を明日学園の朝会で発表する」
とレッセン様が言うと、
「えっ、そんな話、知らない」
とレイリー様が言う。
「ハハハ、レイリー、君もカトレア嬢に一本取られたな。彼女は、魔力を吸う黒魔法の本を多くの令嬢に使わせる事によって、魔力が本当にある事を事実として吹聴してもらう作戦だったそうだ。ルシアに黒魔法がかかった後、ミリーア王女と共に王宮に来てこの話を聞いた。そしてレイリー、君が私に嫉妬しているのではないか?と疑問も提示して停学処分を受ければ、良いとそしてその間の仕事をレイリーに押し付けろって言ってさ、ハハハッ」
「押し付けろなんて言ってません。ただ体験なさってみても良いのではないかと思ったままを言っただけです」
と私は、慌て言う。目をまん丸くして驚くレイリーに、レッセン王子は、ずっと笑っている。私は、席を立つ。
「どこに行くの、カトレア」
とレイリー様は、不安な表情をしたが、
「後は、ご兄弟で話しあって下さい。きっかけは、ルシアさんかも知れませんが、大きくしたのは兄弟喧嘩みたいなものですから、しっかり謝って下さいね」
と言って部屋を出た。
扉の外にまさかの王妃様がいて、私も腰が抜けそうになったところを執事のトーマスに支えられて、大事にはならなかった。
まさか王妃様が立ち聞きとは、驚いた。
シィーとやるポーズがお茶目で綺麗なのに可愛いなんてありかと驚かされた。
お父様とお母様とお兄様は、さらに廊下の向こうで様子を見ながら震えていた。その様子に笑ってしまう。
「笑うな、カトレア、こんな大層な日が来るとは、我が家に王妃様、第一王子様、レイリー様がいるんだぞ。震えるだろう」
とお父様が言えば、お母様もお兄様も頷く。
「最初で最後ですし、場所を提供したと胸を張りましょうよ」
と言った後に玄関ホールに目を向けると護衛騎士や侍女の数の多さと我が家の侍女が端で震えながらお茶の準備やら何やらしている。
「みんなに悪い事しちゃったかしら」
それからすぐに学園では、朝会でレッセン王子がこの度の事柄の説明及び謝罪をした。そしてもう一人、ルシアさんも謝罪した。
今後このようなことはしないとみんなと約束をして、保護観察の管理下にあることも発表された。
下手に魔力があるルシアさんにも手が出せない状況でいじめを無くそうということだ。
「はあーミリーア様終わりましたね。乙女ゲーム。最後踊ってませんが」
と言えば、
「サマーパーティーまで参加して、お兄様と私帰るわね」
と突然のお別れ宣言をされた。
「えぇ〜突然ですね」
「まぁね。1と2が終わって、ストーリー散々変わったけど、ここから私達が動き出すわけよ。漲るわね」
と高らかに笑いながら言い、私はパワフル王女についていけず苦笑いになった。
サマーパーティー当日
晴れた空に忙しそうにしている生徒会の方達を見ながら受付を済ませて、広間に入ると、
「ゲームの世界だわ」
と人知れず感激していると、ルシアさんが寄ってきて
「今、ゲームって聞こえたんですが、転生者ですか?」
と頬を染めて言われれば、
「えぇ」
と警戒しながらも頷く。そして
「何故暴走したの?」
と聞けば、
「それは、学園入学前にこの景色を見に行っちゃって気分も爆上がりでゲームだ、ヒロインだって浮かれて、どんどんゲーム通り攻略していけば、みんな優しくしてくれるし、最初に出会った、攻略対象のゲームキャラだと、はしゃいでいたにも関わらず、マシベル様がすごく笑ってくれて嬉しくなって、みんな君を待っていたよ、なんて言われれば、調子に乗っていきました」
どうルシアさんが答えた。マシベル様って一年生のワンコキャラの対象者。会った事ない。
「ルシアさん、マシベル様って同じクラス?」
と聞くと、
「いえ、この学園に入学されてないです。本当にゲームのストーリーと学園入学したら全然違って驚きました。あっ、すいません、呼ばれていますのでこれで失礼します。またお話させて下さい。お名前を聞いてもよろしいですか?」
「カトレア・リストです」
「では、カトレア様、また今度」
と走っていった。ふんわりピンクの髪が風に靡いているように消えていった。
「加速させた最後の転生者いえ、もしかして最初の転生者は、マシベル様ってことよね。だって、みんな君を待っていたなんて台詞はないでしょう」
とここまでくれば驚かない。
今日は、ダンスを楽しみましょうと気持ちを切り替えて、誘い手に私の手を乗せる。
クルクル回る広間に音楽とドレスの花が開く。
「エンディングですね」
と言えば、レイリー様は、
「それはどうなのかな?なんか3の予告を見た気がするんだよ」
「はーあーぁ!嘘でしょう」
と言えば、わからないと肩を窄めるレイリー様。
曲が終わり、違う手が私の手を掠め取るかのように、
「ダンスを一曲踊って頂けますか?」
と誘われる。
「断れるわけないじゃないですか?注目浴びていますよ。勘弁してください。兄弟喧嘩に巻き込まれるのは、もう嫌ですよ。レッセン王子様」
と言えば、意地悪そうな顔して
「ほら、見てレイリーの嫌そうな顔。仕返し仕返し、あいつ全然公務やってくれないし、学園卒業したら、すぐ辺境伯の元に帰るって言うんだよ。全然兄の事助けようともしないなんて酷いと思わない?」
とレッセン王子は口早に言う。私は、呆れて
「そんなぶっちゃけ話されても困ります。包み隠すのをやめられたんですね。それを私に見せる必要はありませんよ。側近や婚約者様にどうぞ」
と言えば、少し不貞腐れて
「つれないなぁ」
と言う。そして、横から、
「失礼、よろしいですか?カトレア嬢最後に一曲踊って頂けますか?」
と私の手を取り自分の方に引き寄せるもう一人の王子。
「サイフォン王子」
と言うと笑って、
「楽しく踊ろう」
と言う。帰国することは聞いていたので
「帰国の準備は順調に進んでいますか?」
と聞けば、
「あぁ、明後日には出発だよ。あちらの学園で待っているよカトレア嬢」
「何を言ってるんですか?私は、留学なんてしませんよ」
と言えば、笑って私に言う。
「ミリーが君を招待する為に学園長や王妃様や国王陛下にお願いしていたよ」
「何ですと」
ひたすら笑っているサイフォン王子にむくれていると、
「そんな顔は、逆に煽っているだけだよ」
と耳元で囁く。ゾワっとした何かがくればサイフォン王子に腰を支えられて密着度が増す。あちらこちらで悲鳴やらざわめきが聞こえる。
レイリー様が大股歩きで寄ってきて私の腰に手を当てて抱き寄せる。
「一体何なんですか?これじゃ、誰がヒロインかわからない。私はヒロインじゃないですわよ」
と言えば、周りから笑い声が出た。
ミリーア様が
「誰もがヒロインになり得るって話ね」
とドヤ顔で言った。
「全然、オチてないですからね。こんな乙女ゲームは嫌よ」
と言えば、ミリーア様が
「これだけ転生者が居ればストーリーなんてないわ。受け入れなさいよ。カトレア様」
「い〜や〜で〜す〜」
そして、半年後、春も麗らかな日に私は、隣国の学園の門を潜った。出迎えるのは、サイフォン王子にミリーア王女にレッセン王子にレイリー様にルシアさん。そしてここに来て初めましてのマシベル様。
ごちゃごちゃになったゲームストーリーは、先が読めないにも程がある。
でも楽しみなのは止められないんです。
〜fin〜
単話でも良かったぐらい短い話です。
読んでいただきありがとうございます。
違う作品ですが、誤字のご指摘や感想大変嬉しく思っております。ありがとうございます。