図書室
あれから数ヶ月の間、サティアはずっとマナーの勉強をさせられていた。
お辞儀の仕方、カップの持ち方など延々とそんなことをさせられて頭がおかしくなりそうで、そろそろ外に出たいと思いある日サティアはアルフレッドの執務室を訪ねた。
「あの…図書館に行きたいのですが…」
おずおずと言うとアルフレッド片眉をあげる。
「図書館に?なぜだ?」
「私は常識を知りません。常識を知るためにもまずは本を読んでいろんな知識をつけたいと思って…。ですから、行ってもいいですか?」
「なるほどね…。それならまずはこの宮にある図書室の本を読んだらどうだい?」
「ここに図書室があるのですか?ではそこに行ってみます。ありがとうございました」
アルフレッドはサティアを外に出したくないようで居候の身で贅沢は言っていられないと思いサティアは素直に引き下がる。
もっとも居候だと思っているのはサティアだけで、アルフレッドがサティアを外に出したくないのはサティアを人に見せたくないという強い独占欲ゆえで、延々とマナーの勉強をさせられていたのはずっと待ち望んでいた番がようやくやってきて舞い上がってしまったダリアの暴走ゆえだ。
ちなみにサティアの存在を知るものは国王夫妻とこの宮にいる人だけである。
***
執務室から退出した後、サティアはダリアに案内されて図書室に来ていた。中は図書室?と疑問に思うほど大きくてしばらく入り口のところで呆然としてしまった。
後ろからダリアに声をかけられ我にかえると読書の邪魔をされたくなくて食事の時間になったら戻るからダリアは仕事に戻っていいと告げ、本棚に近づいた。
幸い女神様が文字を読めるようにしてくれたのか知らない文字なのに理解でき、適当に本を見繕い近くにあったソファに座り、時間を忘れて読みふける。
読んで読んで読みまくり、いろんなことがわかってきた。獣人のこと、番のこと、魔法のこと、世界の歴史、この国の歴史などなど、どんどん頭の中に知識として詰め込んでいく。
それからどれくらい時間が経っただろうか。突然バンとドアが開き、アルフレッドが飛び込んでくる。
「ティア‼︎」
そんな大声を出してどうしたのだろうと首をかしげていると、アルフレッドが走ってくる。
「どうしたのですか?」
心底不思議だという風に尋ねるサティアにアルフレッドは脱力しその場にへなへなとしゃがみこんだ。
「どうしたのって…。もう夜なのに全然帰ってこないから何かあったんじゃないかと思って急いで来たんだよ」
「…夜?」
窓の外を見てみると真っ暗でそこでようやくサティアは自分が昼ごはんも食べずにずっと本を読んでいたことに気づいた。どうやら集中しすぎて気づかなかったらしい。
「ごめんなさい。夜になっていたなんて全然気がつきませんでした」
「うん、次からは気をつけてくれ。ティアに何かあったんじゃないかって肝が冷えたよ。さあ、戻ろう」
「ま、待ってください」
手を引いてサティアを連れて行こうとするアルフレッドを慌てて止める。
「これだけ…これだけ読ませてください」
あと数ページで読み終わる本を見てアルフレッドに頼む。それに本も本棚に戻さないといけない。
「でももう疲れただろうし、明日また来て読めばいいだろう?本もあとで人をよこして片付けさせるから」
積み上げられている大量の本をチラリと見てそれからサティアの目を見てもう帰ろうと言った。でもこればっかりはサティアは譲れなかった。
「お願いです。あと少しですから」
アルフレッドの目を見て懇願する。普段ならサティアはこんな我がまま言わないが、本のこととなるとサティアは途端に頑固になる。それほど知識欲がすごく、本が好きなのだ。
結局アルフレッドが根負けし、サティアはウキウキと続きを読む。アルフレッドはそんなサティアの横に座り、嬉しそうに本を読む様子をにこにこと眺めるのだった。
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