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星が降る、雨が降る、猫が降る  作者: 文月ゆり
月を掴んで
13/15

2

 次の日の朝、美帆は仕事に行く準備をしていた。シャワーを浴びて、長い黒髪をドライヤーで乾かし、メイクを始めた。美帆は美人だった。薄化粧でほとんど時間はかからない。最後に髪をセットすると、押し入れから洋服を選び、カバンを持った。外に出ると、雲がほとんどない真っ青な空が見えた。今朝はカラっとした日で温かい。ロングコート一枚で十分だった。


 美帆は下町の小さな花屋に勤めていた。赤い店舗テントに「花住(かすみ)」と店の名前が書かれている。クリスマス用に、店はいつもより華やかに飾り付けされている。テントの際にイルミネーションライトが施され、外壁には大きなクリスマスリーフが飾られている。店内にも、小さなツリーが置かれており、壁にはサンタやトナカイのウォールステッカーが可愛らしく貼られ、天井から吊られているガーランドにはhappymerryChristmasと書かれてあった。三種類の長靴やシルバーのキラキラしたパーティーモールも飾られている。誰もが楽しんで帰ってもらえそうな店内だった。花もクリスマス用にいろいろ販売されている。ポインセチアといって、花びらはないが、花のように見える鮮やかな赤い葉っぱの植物で、クリスマスフラワーとも呼ばれている。それと、クリスマスローズ。バラのような白い花を咲かせる可愛らしい花。羊番の少女が、クリスマスの日に星に導かれてキリストと対面し、天使に手渡しされた花だとされている。そして、クリスマスツリーでおなじみのコニファーもある。手軽な小型のものが売られている。


夏菜子(かなこ)さん、おはようございます」

 

 美帆はレジカウンターで開店準備をしている夏菜子にあいさつをした。夏菜子はここの店長だ。二階が住居になっていて、個人オーナー経営をしている。夏菜子はスラっとした長身で、小じわは目立つが、綺麗だった。若い頃は絶対にモテていただろう。ほんのり茶髪の長い髪を櫛で束ねている。


「あ、おはよう。美帆ちゃん、鉢植えを表に出してくれる? あと水やりもお願い」

「はい!」


 美帆は黄色いエプロンを着けると、言われた通り鉢植えを店先に出した。花にとって太陽と水は成長に欠かせないもの。ちゃんと朝は太陽の光を浴びせ、水やりをする。「元気に咲いてね」美帆は小さく花たちに声をかけた。


 十時の開店と同時に、お客さんが続々ときはじめた。やはりクリスマス用の花や植物が売れていく。子連れの主婦や子育てを終えた奥さん。お爺さんやお婆さんも来る。学校が終わる頃には、学生もチラホラ見かける。いろんな人がいろんな思いを胸に花を買っていく。それをアシストできるこの仕事は素敵だと思った。美帆もまた、そんな思いを胸に花を選んでいた。


「美帆ちゃん決まったら言ってね」

「はい」


 十二時。お昼休憩の時間だ。美帆は色とりどりの花の中から一つ一つ思いを込めて選んでいく。そして、数種類の花を持ってレジカウンターに向かった。


「今月も行くのね」

「はい。いつもすみません。毎月、二十日に店を抜けてしまって」

「いいのよ。一人でもなんとかなるし、それに大事なことなんでしょ?」

「ええ、毎月会いに行きたいんです」

「そっか。値段は全部合わせて千円でいいわ。おまけしとく」

「え、それだと半額じゃ……」

「従業員割引よ!」


 夏菜子はニコリと微笑んだ。美帆はお辞儀をして、二つの花束を抱えて店を後にした。

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