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今日はとても気持ちがいい。そよ風が美帆の髪をなびきながら、通り過ぎていく。美帆は歩きやすそうなスニーカーを履き、ある場所へ向かっていた。スカイツリーにどんどん近づいている。やはり、その大きさには圧倒されてしまう。見上げてもてっぺんのほうが見えないくらいだ。
ふと細い脇道にそれ、歩いていると、行く先に墓地が見えてきた。そこはビルやマンションに囲まれ、スカイツリーもまじかに見えた。そんな広くないコンパクトな墓地だった。訪れた人が使えるように手桶置き場が用意されている。美帆はそれを手に取り、側にある水道で桶に水を溜めた。そして、あるお墓の前に立った。近くで鳥がチチッと鳴いた。墓石には時田と書かれてある。墓誌には『時田 景介』と刻まれていた。
「会いに来たよ」
美帆はそう言うと、墓を綺麗に掃除し始めた。そして、ステンレス製の花筒に、さっき買ってきた花束を挿し、線香にあげた。美帆はしゃがんで両手を合わせて目を瞑る。ビルとビルの間から優しい風が花を揺らしていった。美帆の指先は微かに震えていた。
「景介待ってよー! 置いていかないでー」
「美帆は歩くのが遅いなー」
「いやいや、景介が早いだけだよ。そんなに一人で先に行かないでよ」
「悪い悪い」
そう言うと景介は美帆に右手を差し出した。美帆は照れくさそうにその手を握り、景介を上目遣いで見つめた。
「あ!」
美帆は空を見上げた。青空が広がっている。そこから、キラキラ光る粒が落ちてきた。お天気雨だ。突然、強い雨がザーっと振り出した。慌てて、美帆はカバンを探りながら折り畳み傘を取り出した。
「ちょっと二人で入るには小さいか……」
黄色い水玉の傘を見て、美帆は苦笑いを見せる。すると、景介は美帆にぴったりくっついて、腰に手を置いてきた。
「景介近ーい!」
美帆は意地悪そうに言う。
「だってこうしないと濡れちゃうだろ?」
「ちょっとー! どさくさに今お尻触ったでしょ!」
「いやいや! 気のせいだって!」
「もーう」
はたからみたら、幸せそうなカップルにしか見えなかった。景介は白い歯を見せ笑っていた。美帆もそんな無邪気に笑う景介を見て微笑んだ。休日に二人は都心にある、大きな公園を歩いていた。犬の散歩をしているおじさんや、ベンチで本を読んでる女性がいる。広い芝生にはキャッチボールをしている親子や、寝そべっているカップルもいた。最近、急に温かくなった。三月。桜もチラホラ咲き出していた。
「お、雨止んだぞ」
景介が、傘の外から空を伺った。
「すぐ止んじゃったね」
「通り雨だろうな」
二人は遠くの空を見た。すると、ビルが立ち並ぶ空から薄っすらと虹が見えた。
「結婚するか」
ポツリと景介は独白するように言った。突然の事で美帆は聞き返した。
「今なんて言ったの?」
それを聞くと、景介は握っていた手を少しだけ強めた。
「美帆、俺と結構してくれるか」
景介は、今度は美帆の目をしっかり見て、真顔でプロポーズしてきた。その顔が少しぎこちなくて、美帆は思わずクスッと笑ってしまった。
「美帆ー! それはないよー……」
美帆の笑う姿を見て、項垂れるように頭を落とした。
「ごめんなさい。でも、そんな真顔で突然言われたから、なんかおかしくって」
「ひどいなー」
「はい」
美帆は突然、真剣な顔を見せた。
「ん?」
「こんな私で良かったら、傍にいさせてください」
「て、言うことは?」
「そういうことよ!」
美帆は万遍の笑みを浮かべた。すると、景介の表情はパッと晴れて、喜びを噛みしめるように小さくガッツポーズを見せた。
「だから、もう一人で先に行かないでよね? ずっと並んで歩こうね」
「ああ、わかった」
美帆と景介はよく晴れた三月の昼下がり、傘をさしたまま歩いていた。




