part.17-10 パンジャンドラマーの誇り
それから約1か月が経過した。現実世界では夏休みも終わりに近づき、パンジャンドラムについて調べていた科学部も解散となった。その為、これからは岡田先生の力を借りる機会も減ってしまう。そんな中、僕は物理化学や基礎的な魔法エネルギーを学び、異世界ではその知識を活かして未だ見ぬロケットの研究を行っていた。そんな中、
「……遂に、か」
ロケットのプロトタイプが完成した。非常に短期間での完成だ。これも岡田先生や現代日本の文明レベルのお陰と言った所だろうか。
「あとは試験運用と細かなマイナーチェンジで実用化できるはずです。もう少しの間、頑張りましょう」
プロジェクトのチームに向け、僕はそう言った。
「良く頑張ってくれぇショータ、このままじゃあ本当にヘルベチカ計画を実現出来るかもしれない」
「……それも、カローラさんのお陰ですよ」
言いながら、カローラさんと握手を交わす。心なしか、彼女の目が少し潤っているような気がした。
「僕はこれから上層部へ報告してきます。明日にはエルヴィン伯爵も視察の上で試験運用を行いたいと思っています。ロケットを試験場まで運んでおいて下さい。では!」
そう言って一同解散となった。僕は資料の最終確認を行った後、上層部の部屋まで提出する。
「長かったような、短かったような……でも、明日で最後だ」
そう呟きながら僕は書類を提出し、自室へと戻っていった。
◉ ◉ ◉
翌日、現実世界にて、夏休みも残り少なくなってきた。受験生の僕は異世界の事を忘れ、茜と共に近くの図書館で受験勉強に勤しんでいた。僕と茜、どちらも志望校は同じだが、何の対策も無しに入学できるほど簡単な学校ではない。
「……ねぇ、しょーた」
不意に茜がペンを置いてそう呟いた。明らかに休憩ムードだ。
「んー?」
「結局異世界の事ってどうなったの?ほら、前言ってた……ジャンパンドラムだっけ?」
やっぱり。ちょっと休憩と言わんばかりに茜は関係ない話題を振ってくる。
「パンジャンドラムな。それヘルメピア人と一部の狂信者が聞いたら刺されるぞ?」
「お、おう……パンジャンドラム、恐ろしや……」
茜の戯言を無視して僕は話を続ける
「まあ、開発は上手くいってる。丁度昨日、ロケットが完成したところなんだ。最終試験は明日、行われる」
僕もペンを置いてそう答えた。
「それは良かった。私が協力した甲斐があったってもんよ」
図書館に居る為か茜のわざとらしい虚勢がいつもより控えめだ。その上僕にだけ聞こえるように耳元で囁いててくる。
「……やめてくれよくすぐったい」
そう言うと茜はくすくすと笑い声を殺しながら、また囁いてくる。
「ここ間違ってるよ、英語で同じ主語は使わない」
と、茜に英語の課題について指摘される。
「え!?ああそうか……」
そう言って僕は消しゴムを握った。
◉ ◉ ◉
ひとしきり勉強を終えた僕たちそれぞれ帰路に付いた。家に帰ってからは両親が出迎えていた。ちゃんと勉強しているのかと聞かれ、少しだけうざったさを覚えたがこれも親の務め、心配はいらないと僕は笑って返す。それよりも明日が近づくにつれて期待と不安が大きくなっていった。それもそのはず、明日はいよいよロケットの試験運用日だ。明日に備えて早めに寝よう、そう思う日である程なかなか寝付けない。
「……」
仕方が無いのでベッドから起き上がり、何か暇つぶしになるようなものが無いかを探す。こういう時はスマホに頼るのが一番だ。ブルーライトがどうのこうの言ってたが、この際やむを得ないだろう。
「あ、そういえば……」
ふと思い出してWEB小説のサイトにアクセスする。『涙まみれのこの異世界転生に救いはないんですか?』の小説を確認する為だ。しばらく読んでいなかったが、あれから15話程更新されている。結構な文量だ。これなら暇つぶしに丁度いいだろう。異世界についての新たな情報もあるかもしれない。
「どれどれ?」
しばらく読み進めると、ガレルヤ王国の実態が知れてきた。やはり小さな国だ。存続には冒険者の力が必要らしい。レオはそんな中、ガレルヤ王国から国の脅威となる大型のモンスター『アトラス』討伐に向けて動いていた。とはいえ一人で立ち向かうには分が悪いらしく、レオは仲間を募ることにした。数日してようやく『メアリー』『アルス』の二人と出会い、苦戦の末にアトラスの討伐に成功したらしい。
「……ちょうどいい所で終わったな、ふわあ……」
最新話まで読み終えた所でようやく眠気がやって来た。ベッドに潜り、目を閉じる。良かった、これで心地よく眠れそうだ。
「……」
ベッドに潜り、リモコンで明かりを消す。しばらくして僕は眠りに付いたのだった。
◉ ◉ ◉
翌日、目を覚ました僕はすぐに支度をする。今日はヘルベチカ計画にとって、そして僕にとっても重要な日だ。しかし、
「……?なんか、外が騒がしいな」
それを差し引いてもなにやら廊下でバタバタと慌ただしい足音が響いている。ロケットの内容以外に、何かあるのだろうか?そう思っている内に、部屋の扉が荒々しくノックされた。
「サイキ・ショータの部屋はここだな?開けろ、ロイヤルアーミーだ」
ノックと共にその声がドア越しに聞こえる。『ロイヤルアーミー』とは、ヘルメピア王国の正規軍の事だ。
「ロイヤルアーミー?一体何の用だ?……鍵は開いています、お入りください」
そういうと、ドアが開けられる。そのまま僕は兵士達に囲まれた。剣を向けられ、僕は困惑する。
「……これは一体!?」
「君がサイキ・ショータだな?少し話がしたい。ついてこい」
「……話?僕はこれからロケットの試験運用が……」
「悪いがそれは中止になった。とにかくついてこい!」
と、兵士に告げられ、僕は拘束される。
「ちょっと待っ!これは一体!?」
「君にはカローラ伯爵の殺害容疑が掛かっている。おとなしくしてもらおう」
「……はぁ!?」
兵士の言葉に驚愕を受ける。それは、僕が拘束される事よりも衝撃的な事実だった。
「カローラさんが……殺された!?」
放心状態となった僕は、されるがままに兵士達に連行された。
続く……
TOPIC!!
R-4463 レディ・ロケット
ヘルメピア連合王国が初めて自国で開発したロケットエンジン
本ロケットはパンジャンの残光をコピーしたものと言われているが、
『DWI(Direct Wind Impingement)』と呼ばれる魔法エネルギーを用いた特殊な稼働方式であり、
パンジャンの残光とは全く異なる構造となっている。
DWIとは炎魔法と風魔法を組み合わせて推力を発生させる機構であり、
魔法力の調整によって推力量を変動させやすい機構も持ち合わせていた。
本ロケットは推力調整は不可能であるものの、高い推力が評価され、
パンジャンドラム・レプリカント試作型のほとんどに本ロケットが使用された。
しかし推力が高い反面、消費エネルギーも高く、
ヘルメピアのみでエネルギー源を確保する事は困難であり、
量産は不可能との判断を受けている。
この事から本ロケットを用いたパンジャンドラムは以下の試作型のみとなっている。
<レディ・ロケットを搭載したパンジャンドラム>
・パンジャンドラム・レプリカント試作初号機
・パンジャンドラム・レプリカント試作2号機
・パンジャンドラム・レプリカント試作4号機