part.18-1 パンジャンに溺れた者たち
「……こっちだったか?」
走りながらルーディはそう尋ねた。その表情には焦りがある
「はい、恐らく」
ルーディに付いて行きながらイヴァンカはそう答えた。ここはヘルメピアの地下牢、翔太がカローラ殺害の容疑を掛けられたと聞きつけ、大慌てでルーディ達が駆けつけていたのだ。
「……誰か開けてくれ!僕は……!」
「兄さんの声だ!」
栞が声に反応してその場所へ向かう。
「ちょっと……!」
「俺達も急ごう」
栞の後を追うようにルーディ達も続く。
「し、栞……!?」
ルーディ達が追い付く頃、栞は既に翔太と合流していた。捕らえられたショックからだろうか、翔太は既にかなりやつれていた。
「ショータ、まずは無事で良かった」
「良くないですよ、まさかこんな事になるなんて……」
鉄格子を掴みながら翔太は倒れこむ。
「ああ、だからひとまず落ち着いてくれ。それから、何が起きたかを俺達に話して欲しい」
「……」
ルーディの言葉に従い、翔太は深呼吸する。
「どうだ、落ち着いたか?」
「……少しだけ」
「いいさ、いつも通りになんて言わない。……おっと、少し待っててくれ」
そう言うと、ルーディは看守と話し始めた。
「……やあ翔太。久しぶりだな、まさかこんな形で再会する事になるなんて……」
ルーディが翔太との会話を止めて間髪入れずに今度はイヴァンカが翔太に話しかけた。
「ああ、僕も驚いているよ。……イヴァンカ達も僕を疑ってるのかい?」
「まさか、あれ程カローラ氏を慕っていたんだ。何かの間違いだろうと思っているよ」
「ハハハ……そうだよ、僕はやってない。でも、誰も信じてくれなくて……」
「兄さん……大丈夫、それでも私たちは信じてるから」
励ますように栞はそう言った。
「……そうか」
「おおショータ、待たせたな!正式に面会が出来るようになった。少し場所を変えようか。お前もここ数日、同じ景色だけで退屈だろう?」
看守との話を終えたルーディは、翔太にそう語りかけた。
「そうですね、ありがとうございます」
と、翔太は力なく笑った。
◉ ◉ ◉
その後、一度翔太と別れてルーディ達は面会場へ向かう。しばらくして看守から翔太が到着したとの連絡が入った。
「じゃあ、よろしく頼む」
「分かりました」
そう言って看守は離席した。直後、手錠を掛けられた翔太が入室する。
「良かった、気分は落ち着いたようだな」
「ええ、ルーディさんのお陰です」
ルーディの言葉に翔太が答える。
「看守も人払いをしておいた。ここに居るのは俺達だけだ」
「そのようで……本当、ルーディさんには頭が上がりません」
「だから、俺達には真実を話して欲しいんだ」
「……」
ルーディの言葉に翔太は沈黙する。
「ちょっと、ルーディ商人!?」
イヴァンカが制止するように声を上げる。
「心配するな、別にショータを疑っちゃいないさ。だが、勘違いして欲しくもないと思っていてな」
「……勘違い?」
「仮にお前がカローラ博士を殺していたとしても、それはそれで構わないと俺は思っているんだ」
「いや、ルーディさん……!」
「カローラ博士を殺したとしても、それならそれでやりようがある。脱獄のルートも調べておいた。だから、最悪の場合そういう選択肢も取れるという事だ」
と、ルーディは翔太にだけ聞こえるように耳打ちする。
「そんな事……!」
「だから、俺は……いや、俺達だけは真実を知っておきたい。話してくれるか?」
「……」
翔太は黙り込んだ後、意を決したように話始める。
「ルーディさん、僕はやってません。本当です」
「そうか、その言葉、信じるからな?」
「勿論です」
そう言って翔太は事件の経緯を話始めた。
◉ ◉ ◉
完成された試作型ロケットの試験運用が予定されていた日の前日、事件は発生した。何者かがカローラの部屋に侵入し、殺害したという事だ。カローラの死体には数か所にわたり、刺し傷が見られたらしく、他殺でまず間違いないという事だった。
「現場では争われた形跡は無いようです。となると、犯人は許可を貰ってカローラさんの部屋に入った可能性が高い、という事になります」
「つまり、犯人はカローラ博士から入室許可を貰える程、彼女と繋がりのある人間に限られる、という事だな」
「そうなります。僕もその一人に入っているので、容疑者候補に含まれるのは確かなのですが……」
「ショータが犯人になりえる決定的な証拠があった、と?」
「証拠……ではなく証言ですね、事件の現場を、グレンが目撃していたようです」
「グレン……というと、カローラ博士の契約妖精の事か?」
「ええ、彼が事件の第一発見者だったのですが、その時に僕がカローラさんを殺害している瞬間を目撃したんだとか……」
「なるほど、それが決定打となった、か……」
「しかし証言だけですか?何か証拠となり得るものは?」
と、イヴァンカが疑問を上げる。
「それは今調査中なんだとか……」
「証拠もないのに捕らえられたのか?そんな事が」
「まあ、現場を目撃したという証言があったんだからな、それも被害者の契約妖精だ。信憑性は高いと言わざるを得ん」
イヴァンカにルーディが答える。
「ちなみに事件当時、ショータは何をしていたんだ?」
と、ルーディが尋ねる。
「単純に寝てましたよ、僕が事件を知ったのは翌朝の事です」
「そうか……」
当時、部屋に居るのは翔太一人だけだったらしい、その為、それを証明できる人はいない。
「事情は分かった。俺達も可能な限り調べてみるとしよう」
「よろしくお願いします。何か分かったら、僕にも教えて下さい。可能な限りで良いので……」
「勿論だ。なるべく退屈と不安を与えないように、俺達もまめに面会に来るよ」
「ええ、ありがとうございます」
「じゃあ、俺たちはこれで。自暴自棄にはならないことだ」
「はい」
言って、ルーディ達は面会場を後にした。
「少し一服したい。お前たちは先に行っててくれ」
と、ルーディは言ってイヴァンカ達と離れる。その後、ルーディはとある部屋へ入った。
「……ちゃんと聞いてたか?」
部屋の中には看守が一人、座っていた。
「ああ、聞いたよ。『捜査に協力してやる』って、こういう事だったのか?」
と、看守は言った。
「ああ、『信頼できる仲間からの尋問』——判断材料とするには十分じゃないか?」
と、ルーディは尋ねた。面会場に向かう前、ルーディは看守と話していたが、『自分が翔太を尋問するから離れた場所で盗み聞きしてて欲しい』という交渉だったのだ。
「そうだな、多少は信用してやってもいい。俺も少しだけ疑問に思っていたんだ」
「疑問?」
ルーディが首を傾げる。「誰にも言うなよ?」と念を押して看守は続けた。
「ショータとやらを捕らえたが、今回証拠が無いんだ。彼が言ったようにグレンというカローラ博士と契約している妖精の証言だけで逮捕に踏み切っている。本来なら、上は証拠不足と判断するはずだ」
「なのに今回は捕まった、と?」
「ああ、俺の勘だが、ショータは何か『大いなる力』に動かされたんじゃないかと思うんだ」
「大いなる力?ショータを逮捕したのは誰かの差し金だって言いたいのか?」
「そこまでは言えねえなぁ、上層部を疑ってちゃあ俺の命も持たねえ」
「なるほどな、助言に感謝するよ」
「ああ、仲間の疑いが晴れる事を願っているよ」
看守の言葉を聞いたルーディは、部屋を後にした。
続く……
TIPS!
フーガ①:鳥類の草食モンスター、縄張り意識が強く、草食だが獰猛な性格である。




