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part.18-2 パンジャンに溺れた者たち

 それからルーディ達はヘルメピア城下町へ向かった。直ぐにでも現場の調査に向かいたい一行だったが、事件現場は疎か王城への入場許可すら存在しない。まずは周囲の噂話を聞き込みしつつ事件の情報を集めようという事になった。

「さて、別行動にするか。イヴァンカとシオリは一緒に動いてくれ」

 ルーディはそう言ってイヴァンカの了承を得た後、一人酒場に向かった。

「よぉ、この間のビールが忘れられなくてまた来ちまったぜ!カウンター良いか?」

 言いながら店主の返事も聞かず我が物顔でカウンターに着いた。昼間から来ているせいか他の客は見当たらず、随分と落ち着いて見える。

「昼間にやかましい客が来たからと言ってそんな渋った顔するなよ。ビールを頼む」

「ああ……で、何が目的だ?」

 心底嫌そうな顔でビールを注ぐ店主は、ルーディにそう尋ねた。

「目的って程の事でもないさ、ただ世間話がしたくてな?ついこの間、王城で殺人事件があったみてぇじゃねぇか?」

 と、ルーディはビールを受け取りながら答える。

「ああ、学者を襲った事件みたいだな?詳しい事は知らないが」

 と、店主は答える。

「そう、それだ!俺はその話に興味があってだな、もうちっと詳しく聞かせてくれねぇか?」

「さあ?私もそれ以上のことは……ああそういえば」

 と言って、店主は続ける。

「犯人は捕まったらしいが、なんとそれが少年だったんだとか……末恐ろしい事だ」

「んん、そうか……」

 店主の言葉を聞いたルーディは表情を曇らせる。

「まあ、他に情報を知りたいんならスラム街の情報屋でも辿ってみろ?信憑性は保証しないが、な?」

「ああ、そうしてみるか。ありがとな?」

 言って、ルーディはお代を置いて席を立つ。

「本当に行くのかよ、気を付けるんだな?……っておいお客さん?」

「ん?」

「おつりが出てるぞ?」

「チップだよ。今後とも贔屓にしてるぜ?」

 言って、ルーディは店を出た。

「はぁ、スラム街か。あまり気持ちの良い所ではなさそうだ」

 そう呟きながらルーディはスラム街を目指す。


◉ ◉ ◉


 ヘルメピア城下町の郊外、スラム街の入り口までルーディはやって来た。外からスラム街を覗いた限りでも、汚い街並みやそこに住まうごろつき達と、とても治安の良い場所とは思えない事が分かる。そんな中、

「……イヴァンカ達じゃないか?」

 ルーディは栞と共にそこで立ち往生しているイヴァンカを見つけた。彼女らもスラム街の情報を聞きつけたのだろうが、入る前に億劫になってしまったのだろう。

「二人とも、ここにいたのか」

「ひっ!」

 ルーディが後ろから声を掛けると、栞は肩を震わせた。

「る、ルーディさん!?びっくりしたぁ……」

「ああ、悪い。こんなところで急に後ろから声を掛けるんじゃなかったな」

「いえ、こちらこそすいません……」

「丁度良かった。私たちはここに出入りしているロイヤルアーミーの上級兵士がいると聞いたので来てみたんですが、栞共々怖くなって……」

 言いながらイヴァンカは自嘲気味に笑う。ロイヤルアーミーとは、ヘルメピアの正規兵の事を指す。

「いいさ、女性だけでスラム街に向かうのは無謀だろう、むしろ賢明と言ってもいい」

 ルーディは続ける。

「それにしてもロイヤルアーミーの上級兵か、何か得られるかもしれないな。怖いなら俺一人でスラム街へ向かってもいいが、お前たちはどうする?」

 イヴァンカ達へ尋ねると、二人はしばし見合わせた。

「いえ、ルーディ商人がいるなら私達も安心できます。付いて行かせてください」

「私も、一人でいるよりそっちの方が安全だと思います」

「決まりだな、行こう」

 そう言って3人はスラム街へ向かった。


◉ ◉ ◉


 ボロボロな建物に反して人々は賑わっていた。昼間から酒を呑んでいる大男や何やら言い争いをしており、それを取り囲んで傍観している人々等、美女のダンスに声援を送る男達等、良く言えばにぎやかで自由奔放な街並みと言える。そんな中、ルーディ達はスラム街でも有名な情報屋の元を目指す。聞き込みを続けながら場所を特定し、ようやくその情報屋が住まう家に辿り着いた。外観は家というより物置小屋のようだ。まともな人間が住まう家には見えない。ルーディは家をノックして様子を見る。

「……返事が無いな、留守か?」

 そう言ってルーディが帰ろうとして後ろを振り返った瞬間、ドアが開いた。

「おや、見ない顔だね。主人に用かい?」

 中からふくよかな体形の女性が現れる。

「ああ、ここに情報屋が居ると聞いてね?主人がそうなのか?」

 ルーディが尋ねると、女性は頷いた。

「ああ、中に入りな?」

 手招きに応じてルーディ達は中へ入った。


◉ ◉ ◉


 女性の案内に従い、ルーディは部屋の中へ入る。待っていたのは情報屋『ピエール』だった。

「……あんたは?」

「名もなき旅の商人だ。アンタの情報ってやつを買いたくてな?」

「おや、お客でしたか。これは失礼」

 そう言ってピエールは踵を返す。

「……私はピエール、このあたりの事なら何でも知ってます。何をお探しで?」

「ああ……この間、王宮内で殺人事件が起きただろう?単刀直入に言ってその真実が知りたいのさ?」

 ピエールの商売文句にルーディはそう答えた。

「真実?確か犯人は捕まったはずです。それ以上でも、それ以下でもないでしょう?」

 と、ピエールは答える。

「そうか、だが俺たちはそれが真実だと思っちゃいない。何か別の真実があるはずだ」

「ほう……では、残念ながら私はその情報を持ち合わせていません。話は以上ですか?」

 ピエールが答えると、ルーディはしばし思案顔になる。

「そうだな……では質問を変えよう。俺たちはその真実を調べる為に王宮内を調べたいと考えているんだ。何かいい方法はないか?」

「王宮内に?それはまた難しい質問ですね」

 と、ピエールは鼻で笑う。

「そもそも、許可の無い者が王宮内に入れる訳がない。自分の言っている事が分かっているのですか?」

「勿論だ。だからこうしてアンタを訪ねてきている」

 ルーディはそう答えた。

「ふぅん……」

 しばし思案顔の後、ピエールはこう答えた。

「王宮内に入る方法……知らない訳じゃないが、確実じゃない上に高くつく。それでも良いのなら、案内してやってもいい」

 言いながらピエールは悪意のある笑みを浮かべる。

「元よりそのつもりだ。教えてくれ」

 と、ルーディは答える。

「おっと、その前に情報量だ。前払いで頼むぜ?」

 ピエールがそう言うと、ルーディ達を招いて別の部屋に向かった。


続く……


<今日のパンジャン!!>

世界はパンジャンで出来ている。

君もそう思うだろう?

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