今まで通り
「姉ちゃんまだー? 遅刻するよー」
「待つんだ弟よ!」
玄関から聞こえるヒビキ君の催促の声に、私は学校鞄を掴んで階段を一段飛ばしで降りた。折角退院したヒビキ君が待っていてくれているのだ、置いて行かれたら泣く。
「ちょっと、学校ではそんなことしないでよね」
「なにが?」
「階段。恥ずかしくないの? ほんと姉ちゃんって女捨ててるよね」
「い、家なんだからいいじゃん!」
「ほらほら二人とも、早くしないと置いて行くわよ」
「お母さん一人で学校に行っても仕方ないよね!?」
退院したとはいえ、足を怪我したままのヒビキ君はまだ松葉杖を手放せていない。
よって母が運転する車で中学校まで送って貰うことになっている。
行ってきます、と親子三人で家を出て、中学校へ向かうお母さんとヒビキ君に手を振り、私は一人で駅に向かった。さすがに母の車で高校まで送って貰うのは悪い。それに私は、毎日違う気持ちで歩く通学路が好きなのだ。
改札を潜って、電車に乗って、揺れに耐える為に手摺付近を確保して。
今更ながら忘れ物がないか確認をして、電車の窓を鏡代わりに前髪を整える。女を捨ててるなんて言われた私だが、私だってきちんとした女の子だ。身形を整えることは女として義務である。
電車を降りて、私は同じ制服を着て歩く生徒達の横を走った。遅刻ギリギリというわけではないけれど、走らなければ間に合わない気がして。
思った通り、いつもの十字路から少し進んだ所に、その小さな背中は見えた。
全力で追って、私はその背中をポンと叩く。
「おはよう悟!」
名取悟。一緒に登校する約束なんて今まで一度もしたことがないが、それでもこの一ヶ月、毎日のように一緒に登校していた男の子。
悟は朝から少し疲れたような顔をしていて、目元も擦った痕が僅かに残っており、私の姿を見た瞬間に幽霊でも見たかのような表情をした。その後すぐに、荒んだ目で睨まれる。
「……なんであなたがここにいるんですか」
「居ちゃ悪い!?」
悟から存在を否定されるのは慣れているが、朝から睨まれると気分が落ちる。
「悟、おはよう」
「な……」
私を置いて行こうとする悟の手を引いた時、今来たところの裕也君が悟の頭をポンと撫でる。「ここ、寝癖ついてるぞ」と裕也君に指摘された悟は、戸惑いを隠そうともせず、頭の上にクエスチョンマークを散らしていた。
「あの……俺に構わなくていいですよ? 二人共付き合い始めたんじゃ――」
「あああああ!」
慌てて後ろから悟の口を塞いだ私。悟は条件反射と言わんばかりに、私の腹に一撃肘を入れた。条件反射って怖い。
話は昼休みにでも――喋れない私の代わりに、裕也君がそう言ってくれる。首を傾げる悟と裕也君を挟むいつもの並びで、私達は今まで通り、学校へ足を進めた。




