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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第十三章
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走り出す

「あー……私の恋はどこに行けばいいものか」


 私は悟がいなくなったベンチに一人で座って、夜空に向かって語り掛けた。そろそろ学校の管理人さんが見回りに来るような時間帯だ。部活動で残っている生徒もおらず、辺りはすっかり静まり返っており、いっそう孤独を強く感じる。


 今頃二人は剣道場で、お互いの想いを伝えられただろうか。

 二人とも泣いていた。あんな結末、二人とも望んでなんかいなかったのだ。きちんと決着を付けて貰わなければ、後味が悪い。


 ……にしても、私が入る隙が全くないのはなんだか寂しい。私だって想いを伝えるべきだろうけど、今日は流石に、二人とも一杯一杯で疲れただろうし……。


「言い訳か、優里ちゃん」

「……なにをぅ」


 悟を道場に置いてきたらしい圭介が、救急箱を片手に戻って来た。不機嫌な顔になる私の額の傷を、消毒してくれる。

 そしてまるで私の心を読んだようにそんなことを言った圭介に、私は口を尖らせた。いやマジで、読心術まで身に付けちゃったのこの子。ストーカーもここまでくると天才だ。


「俺は優里ちゃんが好きだ。優里ちゃんのために何かをしてやりたい」


 何を今更。そんなこと、何年間も前から聞いてるよ。


「優里ちゃんの場合、誰かのために自分を傷付けてしまう。我慢してしまう。当たり前のように自分を傷つけて、当たり前のように損をする」


 自分の優先順位が最下位なのではないか、とは、悟に言われた言葉だ。今更その言葉を思い出しては、消毒が傷に染みた。


「俺はそんな優里ちゃんも好きだ。だが優里ちゃんが傷付く姿は見たくない。問おう、優里ちゃんはこれでいいのか?」


 ――悟は、本当にこれでいいの?

 先程自分が言った言葉が、そのまま返って来た気分。これでいいのか、と言われても。


 傷口に絆創膏を貼る圭介の目は、真剣そのものだった。

 そうだ、圭介はいつだって真剣だ。どんなバカらしいことでも、なんでも真剣に取り組む生粋のバカ。どんな時だって私を真っ直ぐに見てきたのはこいつだった。


 私が裕也君を見てきたように。


「優里ちゃんがどうしたいか、優里ちゃんが自覚しているのなら話は早いんだがな」

「……」


 ああ、こんな時だけズルいな。なんでこう、見透かされるんだろう。なんでこういう時だけ、こいつは私の背中を押してくれるんだろう。

 普段なら、私が本気で嫌がってることでも容赦なくしてくる癖に。


「早く行こう、優里ちゃん」


 はらり、と、傷口の治療のために上げていた前髪が元に戻される。そして圭介はその前髪を、悪人面のくせに優しい微笑みを浮かべながら整えた。


「……でも、私は……」


 ベンチに座ったままの私の手を引く圭介。


 後先考えずに突き進んで、強引に周りを振り回す所は、実を言うと結構好きだったりする。圭介はうだうだ考えず、己の欲のまま突き進む。それが正しい道だと信じて。


「四の五の言わずに来い、優里ちゃん!」


 圭介はその道に、私を連れて行く。


「――優里ちゃんの心は、優里ちゃんのものだろう!」


 私は走り出した。

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