俺の恋は、こうして終わった。
「裕也先輩って、泣き虫ですよね」
「えぇ……悟がそれを言うのか……」
「あの日も子供みたいに泣いてました」
死なないでくれ、と。
母親を自殺で亡くした裕也先輩は、死のうとする俺と亡き母を重ねて、必死に説得をしてきた。自己満足の優しさなんていらないと、あの時は突っ跳ねたけど。
でも俺が生きているのは、あの時裕也先輩の優しさに触れたおかげだ。
本当は泣き虫のくせに、一人でしか泣けない可哀想な人。そんな人が俺の言動で一喜一憂したことが、今でも少し自慢だった。屑過ぎて本人には言えないけど。
「あの裕也先輩が色恋沙汰に足を踏み入れるなんて、思ってもいませんでした」
「えっ?」
「俺の命を助けたってことは、裕也先輩には俺の一生を背負う責任があるんだって、ずっと思ってたんですよ」
だから裕也先輩は一生傍にいてくれるものだと、三年前まで確信してたのになぁ。
「そ、そんなこと思ってたのか……」
「事実、俺には裕也先輩しかいませんでしたよ」
「そんな事――」
「でも今は昔とは違う。前より俺の世界は、裕也先輩だけじゃなくなった」
裕也先輩のお陰で、氷みたいだった父さんとの関係も温かくなったし。物好きな友人もできたし。
……よく考えると、あの人に会えたのも、裕也先輩のお陰ですね。
「悟、俺が亘理さんのこと好きだって、いつから気付いてた……?」
「三年くらい前ですかね?」
「え!? 早っ!」
「迷子を助けた中学生の優里先輩を、じっと見てましたもんね」
「え、よく気付いたな……」
だって、裕也先輩が優里先輩に惚れる前から、俺はあなたのこと好きだったんですもん――言葉にしたら悔しいから言わないけど。好きになったのが早いからと言って、結ばれる保証にはならない。恋は早い者勝ちなんて単純なものじゃない。
滝富先輩との決闘でわざと負けなかったのは、優里先輩が告白できなくても、裕也先輩にはできてしまうからだ。それでは意味がなかった。徹底的に二人の間に立って、恋の邪魔をしなければいけなかった。
結局、裕也先輩の心を傍に置いておくことはできなかったけど。
「悔しいですけどお似合いだと思います」
自分が傷付きたくないから、愛されたいから誰にでも優しい裕也先輩。そんな残酷な優しさを本物だと言って受け入れられる優里先輩。
優里先輩のポエム的に言って、裕也先輩が太陽なら、優里先輩はきっと、太陽の温かさを際立たせる青空、だろうか。あの人、青空がよく似合うのだ。
両想いだと判明した二人は、きっと二人だけで話したいことが沢山あるだろう。お互い、積もりに積もった想いをぶちまけたいに違いない。
「裕也先輩」
「ん?」
……でも。
「……今日だけは、俺と一緒にいてくれますか……?」
これで、本当に終わり。だから。
裕也先輩は、いつか見たような表情で、優しく笑ってくれた。あれは確か、三年前。
『ごめん、裁縫とか苦手で……』
泣き疲れて真っ赤になった目で、俺の大切なぬいぐるみを直してくれた裕也先輩。
捨てなくてよかった。あのぬいぐるみも、この想いも。
『裕也先輩は、俺がどんなことになっても味方でいてくれますか?』
そんな、依存する気満々のその言葉に、裕也先輩は同じように笑って。
その言葉を、言ってくれた。
「ああ、勿論だよ」
……よかった。
そう言って俺は裕也先輩の肩に寄り掛かって、穏やかに目を閉じた。カップルみたいだ、いえーい。
……最後ぐらいいい想いをしておいても罰は当たらないでしょう?
なんで好きになっちゃったんだろうって、後悔した日もあった。
これからも後悔する日がくるかもしれない。
けど今この瞬間は、叶裕也のことを好きになってよかったと、心から思えるのだ。




