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なぜか私は恋敵と付き合っています  作者: 多美橋歌穂
第十二章
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俺の恋は、こうして終わった。

「裕也先輩って、泣き虫ですよね」

「えぇ……悟がそれを言うのか……」

「あの日も子供みたいに泣いてました」


 死なないでくれ、と。

 母親を自殺で亡くした裕也先輩は、死のうとする俺と亡き母を重ねて、必死に説得をしてきた。自己満足の優しさなんていらないと、あの時は突っ跳ねたけど。


 でも俺が生きているのは、あの時裕也先輩の優しさに触れたおかげだ。

 本当は泣き虫のくせに、一人でしか泣けない可哀想な人。そんな人が俺の言動で一喜一憂したことが、今でも少し自慢だった。屑過ぎて本人には言えないけど。


「あの裕也先輩が色恋沙汰に足を踏み入れるなんて、思ってもいませんでした」

「えっ?」

「俺の命を助けたってことは、裕也先輩には俺の一生を背負う責任があるんだって、ずっと思ってたんですよ」


 だから裕也先輩は一生傍にいてくれるものだと、三年前まで確信してたのになぁ。


「そ、そんなこと思ってたのか……」

「事実、俺には裕也先輩しかいませんでしたよ」

「そんな事――」

「でも今は昔とは違う。前より俺の世界は、裕也先輩だけじゃなくなった」


 裕也先輩のお陰で、氷みたいだった父さんとの関係も温かくなったし。物好きな友人もできたし。

 ……よく考えると、あの人に会えたのも、裕也先輩のお陰ですね。


「悟、俺が亘理さんのこと好きだって、いつから気付いてた……?」

「三年くらい前ですかね?」

「え!? 早っ!」

「迷子を助けた中学生の優里先輩を、じっと見てましたもんね」

「え、よく気付いたな……」


 だって、裕也先輩が優里先輩に惚れる前から、俺はあなたのこと好きだったんですもん――言葉にしたら悔しいから言わないけど。好きになったのが早いからと言って、結ばれる保証にはならない。恋は早い者勝ちなんて単純なものじゃない。


 滝富先輩との決闘でわざと負けなかったのは、優里先輩が告白できなくても、裕也先輩にはできてしまうからだ。それでは意味がなかった。徹底的に二人の間に立って、恋の邪魔をしなければいけなかった。


 結局、裕也先輩の心を傍に置いておくことはできなかったけど。


「悔しいですけどお似合いだと思います」


 自分が傷付きたくないから、愛されたいから誰にでも優しい裕也先輩。そんな残酷な優しさを本物だと言って受け入れられる優里先輩。


 優里先輩のポエム的に言って、裕也先輩が太陽なら、優里先輩はきっと、太陽の温かさを際立たせる青空、だろうか。あの人、青空がよく似合うのだ。


 両想いだと判明した二人は、きっと二人だけで話したいことが沢山あるだろう。お互い、積もりに積もった想いをぶちまけたいに違いない。


「裕也先輩」

「ん?」


 ……でも。


「……今日だけは、俺と一緒にいてくれますか……?」


 これで、本当に終わり。だから。

 裕也先輩は、いつか見たような表情で、優しく笑ってくれた。あれは確か、三年前。




『ごめん、裁縫とか苦手で……』


 泣き疲れて真っ赤になった目で、俺の大切なぬいぐるみを直してくれた裕也先輩。

 捨てなくてよかった。あのぬいぐるみも、この想いも。


『裕也先輩は、俺がどんなことになっても味方でいてくれますか?』


 そんな、依存する気満々のその言葉に、裕也先輩は同じように笑って。

 その言葉を、言ってくれた。




「ああ、勿論だよ」


 ……よかった。

 そう言って俺は裕也先輩の肩に寄り掛かって、穏やかに目を閉じた。カップルみたいだ、いえーい。


 ……最後ぐらいいい想いをしておいても罰は当たらないでしょう?



 なんで好きになっちゃったんだろうって、後悔した日もあった。

 これからも後悔する日がくるかもしれない。

 けど今この瞬間は、叶裕也のことを好きになってよかったと、心から思えるのだ。

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