↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徹夜続きのゲーム開発者、気づいたら自分が作ったはずの文明調律RPGに転移していました 第五部  作者: マスター


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/21

第61話 屋根があっても、住める場所とは限らない

第61話です。


前回、第60話で第五部・下流交易都市編は一区切りとなりました。


リヴァールでは、倉庫にある食料が市場へ届かず、市場暴動が目前まで迫っていました。


澪たちは、倉庫在庫を見えるようにし、荷船から麦を降ろし、粉にし、焼き、札で守り、列に来られない人へ届け、水と器を整え、赤水や食べ残しまで管理していきました。


そして最後に、町の道そのものを《通り分け》で整えます。


その結果、市場暴動予測は解除され、下流交易都市ヘックスの局所臨界は回避されました。


しかし、食料が届き始めたことで、次に見えてきたものがあります。


食べた人々は、どこで眠るのか。


橋下区画。


北岸仮小屋群。


旧船溜まり水上小屋。


外縁に広がる避難居住帯。


そこには、屋根らしきものはあっても、住むには危うい場所が広がっていました。


密集。


夜間冷却。


湿った床。


煙。


糞尿処理の未整備。


井戸や青水系統への二次汚染。


今回から第六部・外縁避難居住帯編に入ります。


今回の条件は、


《屋根があっても、住める場所とは限らない》


食料の次は、住まいと衛生です。

食料の道がつながっても、人は道の上では眠れない。


下流交易都市リヴァールの朝は、奇妙な静けさから始まった。


市場の怒号は、昨日より少ない。


共同焼き場には行列があるが、押し合いではなく順番になっている。


湯気道を通る湯壺も、青急ぎ道を通って橋下へ向かっている。


粉袋の荷車は一方通行を守り、商用荷箱は時間帯を待っている。


完全ではない。


それでも、第五部で作った流れは動いていた。


神代澪は、その光景を見て、ほんの少しだけ安心しかけた。


本当に、ほんの少しだけ。


その瞬間、調律核が赤く点滅した。


《広域難民移動:再計算》


《仮小屋群:滞留長期化》


《橋下区画/北岸仮小屋群/旧船溜まり水上小屋:一時居住化》


《住居密度:危険域》


《夜間冷却:高》


《湿床反応:増加》


《煙滞留:増加》


《糞尿処理:未整備》


《井戸・青水系統への二次汚染リスク》


《疾病発生予測:上昇》


《次期調律対象候補》


《外縁避難居住帯》


《条件候補:屋根があっても、住める場所とは限らない》


「出た……」


ライカが隣で小さく言った。


「食べたら次は寝る場所」


「そうなりますよね」


澪は目元を押さえた。


食料を届けた人々が、どこへ戻るのか。


橋下の布屋根。


北岸の仮小屋。


水上小屋。


古い荷置き場。


壊れた倉庫。


使われていない馬車待機場。


そこが、いつの間にか避難居住帯になっている。


食べ物の列に並べるようになっても、夜を越す場所が危険なら、次に来るのは病気と寒さだ。


フィリアが静かに言う。


「昨日、橋下の子どもたちは温かいものを食べられました。でも、濡れた床で眠れば、また体を冷やします」


アオイも頷いた。


「食料だけでは、守りきれません」


ミルカが大通りの外れを見た。


「仮小屋群、木組みが危ないところがある。荷物を屋根にかけすぎてる」


ルシェリアは風を読む。


「外縁の煙が低く流れています。小さな火を小屋の中で使っている可能性があります」


サヴィが顔をしかめる。


「水上だけじゃない。北岸の仮小屋でも、夜は冷えるから火を入れたがる」


オルグは疲れた顔で記録板を閉じた。


「食料供給の次は、居住管理か」


ナジルが青ざめる。


「都市の外縁居住帯は、まだ正式な区画ではありません。仮滞在扱いで……」


ライカがぽつりと言う。


「仮って、何日くらい?」


ナジルは答えられなかった。


その沈黙が答えだった。


仮の場所が、長く使われ始めている。


でも、仮のままだから、管理の線が引かれない。


線がないから、寝床も火も水も汚れも混ざる。


澪は息を吸った。


「外縁避難居住帯へ行きます」


ライカが少しだけ眉を下げる。


「休まないの?」


「少し休みたいです」


「うん」


「でも、今夜まで放置すると、たぶん悪化します」


「だよね」


徹夜続きの身体で、こういうの本当にやめてほしい。


そう思いながらも、澪は歩き出した。


***


外縁避難居住帯は、リヴァールの北東側に広がっていた。


もともとは、馬車の待機場、空き倉庫、古い荷置き場、修理待ちの船材置き場だったらしい。


そこに、流れ込んできた人々が布を張り、板を立て、荷車を壁にし、壊れた帆を屋根にして暮らしている。


一見すると、屋根はあった。


だが、近づくほど、澪はその言葉の危うさを感じた。


屋根はある。


でも、低すぎる。


風が抜けない。


雨水が端から垂れ、床が湿っている。


寝床が重なりすぎて、通路がない。


火鉢のようなものが小屋の中に置かれ、煙がこもっている。


荷物と寝床と食料と汚れた布が、同じ場所に積まれている。


子どもが咳をしていた。


老人が湿った毛布にくるまっていた。


母親が赤ん坊を抱え、煙を避けるように小屋の外へ出ている。


調律核が赤く点滅する。


《外縁避難居住帯:到達》


《収容密度:危険域》


《通路幅:不足》


《湿床率:高》


《煙滞留:高》


《夜間冷却:高》


《病人・幼児混在:高》


《火源位置:不適切》


《寝床区分:未成立》


《条件候補:屋根があっても、住める場所とは限らない》


「これは……」


澪は言葉に詰まった。


ライカが鼻をひくつかせる。


「寒い匂いと煙の匂いと、湿った布の匂い。あと、具合悪い人の匂い」


ミルカは小屋の柱を見ていた。


「この帆布、荷物を吊りすぎてる。雨が降ったら水を吸って落ちる」


アオイが通路を見る。


「人が倒れた時、運び出せません」


フィリアが子どもへ近づき、咳の様子を見る。


「煙を吸っています。火を中に置かない方がいいです」


その時、一人の女性が小屋の奥から出てきた。


四十代ほど。


短く結んだ髪。


手には小さな帳面。


顔には疲れが深く刻まれている。


「また役所の人ですか」


声には警戒があった。


ナジルが慌てて前に出る。


「リーネ、こちらは調律者の澪殿だ。食料配布を整えてくださった方で……」


女性、リーネは澪を見る。


「食料は助かりました。でも、ここから人を追い出すなら困ります」


「追い出しに来たのではありません」


澪はすぐに答えた。


「ここで安全に眠れるようにするために来ました」


リーネは一瞬黙った。


それから、苦く笑った。


「安全に眠る? 屋根があるだけでありがたいと言われますよ」


「でも、屋根があっても、煙で咳が出て、床が濡れて、通路がなければ危険です」


リーネの目が少しだけ揺れた。


彼女は、分かっている顔をしていた。


分かっている。


でも、どうしようもなかったのだ。


「人が多すぎます」


リーネは言った。


「昨日よりまた増えました。橋下から移ってきた人も、水上小屋から来た人もいます。夜は寒い。火を消せと言っても、赤ん坊が震えます。荷物を外へ出せと言っても、盗まれたら終わりです。通路を空けろと言っても、そこに寝るしかない人がいます」


どれも正しい。


そして、全部が詰まっている。


澪は調律核を見た。


《推奨対応:収容人数削減》


「……簡単に言う」


ライカが小声で言った。


「人を減らせって、どこへ?」


「そこです」


澪は頷いた。


人を減らす場所がなければ、削減はただの追い出しになる。


それでは虚無が濃くなるだけだ。


「まず、寝る場所を全部同じにしません」


リーネが眉を寄せる。


「どういう意味ですか」


「寝床、通路、火、荷物、病人、濡れた場所。全部を分けます」


セラフィナが記録板を開く。


「作業名を設定しますか」


澪は避難居住帯を見渡した。


仮の屋根の下に、人も荷物も煙も寒さも押し込められている。


そこに必要なのは、住まいとしての呼吸だった。


「《仮宿呼吸図》」


セラフィナが頷いた。


「記録します。《仮宿呼吸図》」


リーネが小さく呟く。


「呼吸……」


澪は言った。


「屋根の下にも、息をする道が必要です」


***


最初にしたことは、寝床を動かすことではなかった。


線を見ることだった。


どこに人が寝ているのか。


どこに荷物があるのか。


どこから煙が出ているのか。


どこが濡れているのか。


どこに病人がいるのか。


どこから逃げられるのか。


それを、地面に描く。


ミルカが棒で湿った土に線を引く。


セラフィナが記録板へ写す。


ノアは絵板を持って走る。


「ここ、通路です! 寝床じゃありません!」


すると、すぐに怒号が返ってきた。


「じゃあ、どこで寝ろって言うんだ!」


「そこを空けたら、うちの場所がなくなる!」


「荷物をどかすな!」


当然だった。


通路を作るということは、誰かの寝床や荷物を動かすことでもある。


澪は声を張った。


「寝床を減らすためではありません。倒れた人を運べる道を作るためです!」


男が言い返す。


「倒れる前に寒さで死ぬぞ!」


トマが火かき棒を持って前へ出た。


「火を中に置いたら煙で咳き込む。燃えたら全員逃げ場がない」


「火を外に出したら寒い!」


「だから火と寝床の間に、温め場を作る」


澪は言った。


「小屋の中で火を焚くのではなく、外の石床に火受けを置く。そこから温めた石や湯を寝床へ運びます」


リーネが驚いたように聞く。


「温めた石?」


ミルカが頷く。


「布で包めば、寝床の足元に置ける。火そのものを持ち込むより安全」


フィリアが続ける。


「病人や子どもには、温かい湯と柔食も回します。火を囲む場所と寝る場所を同じにしない方がいいです」


ルシェリアが風を読む。


「煙は上へ逃がします。屋根の低いところに火を置くと、煙が眠る人へ戻ります」


澪は線を引いた。


仮宿呼吸図は、五つに分ける。


第一、寝床帯。


乾いた床を優先する。


病人、子ども、高齢者は、風下の煙が来る場所から外す。


第二、通り帯。


人が一人ではなく、担架代わりの布を持った二人が通れる幅。


ここには寝ない。


荷物も置かない。


第三、荷置き帯。


荷物は寝床の上に積まない。


屋根の柱に吊りすぎない。


預かり札を使い、通路の外へまとめる。


第四、火受け帯。


火は小屋の中ではなく、外の石床へ。


煙の向きと水桶を確認する。


第五、湿り帯。


床が濡れている場所。


今夜の寝床にはしない。


藁や板で乾かすまで待つ。


「寝床にも赤黄青を使います」


澪は言った。


ライカが遠い目をした。


「住む場所まで赤黄青」


「赤床、黄床、青床」


ミルカが即座に言う。


「青床は今夜寝られる。黄床は板や藁を敷けば寝られる。赤床は湿り、煙、柱の危険があるから寝ない」


「分かりやすいですね」


セラフィナが記録する。


《青床:使用可》


《黄床:処置後使用》


《赤床:使用禁止》


《通り帯:確保》


《火受け帯:屋外》


《荷置き帯:預かり札》


リーネは、その板をじっと見ていた。


「これなら、説明しやすい」


「今までは?」


「危ないからどいて、火を消して、荷物を片づけて、そう言うしかありませんでした」


「それだと、ただ奪われるように聞こえます」


「はい」


リーネは小さく頷いた。


「だから、誰も動きませんでした」


***


最初の移動は、北側の大きな帆布小屋で始まった。


最も人が多く、最も危険な場所だ。


帆布は大きく、屋根らしく見える。


だから人が集まる。


だが、中央の柱は傾き、梁には荷物が吊られすぎていた。


床の左側は湿っている。


右側には小さな火鉢。


奥には咳をする子ども。


入口は荷物で半分塞がっていた。


調律核が赤く光る。


《北側帆布小屋:危険》


《収容人数:過密》


《支柱負荷:高》


《湿床:左側》


《煙滞留:右奥》


《出口閉塞:中》


《火源近接:寝床》


《倒壊・煙害・避難遅延リスク》


「まず火」


トマが言った。


「火鉢を外へ」


「寒い!」


中の女性が叫ぶ。


「子どもが震えてるんだ!」


フィリアがすぐに子どもへ近づく。


「先に温かい布と湯を回します。火鉢は外の火受け帯へ移します」


「火を消すんじゃないのか」


「消しません。中から外へ移します」


ミルカが火鉢の下を見る。


「床板が焦げてる。あと少しで穴が空く」


その焦げ跡を見て、周囲の人々の顔が変わった。


目に見える危険は、言葉より強い。


アオイとトマが火鉢を慎重に外へ運ぶ。


ルシェリアが煙を上へ逃がし、屋根の下にこもった煙を外へ流す。


子どもが咳き込み、フィリアが温かい湯を少し飲ませる。


次は荷物。


梁に吊られた袋を下ろす。


だが、持ち主は強く抵抗した。


「盗まれる!」


「外に置いたらなくなる!」


澪は預かり札を見せた。


「荷置き帯へ移します。荷主札と控え札を出します。荷置き番も置きます」


「信用できるか!」


マルセが、なぜかそこにいた。


商用待ち場の調整を終え、外縁まで来ていたらしい。


彼は男へ言った。


「荷物を柱へ吊ったまま屋根が落ちれば、荷も人も失う。札つきで荷置き場へ移す方がましだ」


男は商人を見る。


「商人が言うと信用ならない」


マルセは肩をすくめた。


「信用ならない商人でも、荷の扱いくらいは知っている」


サヴィが横から笑った。


「悔しいが、その通りだ」


男はしばらく黙り、やがて袋を下ろした。


一人が動けば、次が動く。


荷置き帯へ荷物が移される。


梁の負荷が下がる。


ミルカが支柱を確認する。


「まだ危ないけど、今すぐ倒れるほどではなくなった」


次は寝床。


赤床から人を動かす。


湿った左側。


煙がこもる右奥。


支柱の真下。


そこから、青床と黄床へ移す。


ただし、青床は足りない。


黄床を処置する必要がある。


ベルドたちが板を運んできた。


畜舎戻し路で使った経験から、湿った床に厚く藁を積めば腐ることを彼は覚えていた。


「厚く敷けばいいってもんじゃなかったな」


ベルドが言う。


ミルカが頷く。


「下にすのこ板。薄く乾いた藁。湿った布は外で乾かす。濡れた藁を寝床へ入れない」


「分かった。薄く、乾いたやつだ」


ベルドはもう、ただの力仕事係ではない。


ちゃんと仕組みを理解し始めている。


澪はそれを見て、少し嬉しくなった。


北側帆布小屋は、少しずつ変わった。


中央に通り帯。


左右に寝床帯。


入口の荷物は荷置き帯へ。


火鉢は外の火受け帯へ。


湿った床は赤床から黄床へ。


病人と子どもは煙の来ない青床へ。


完全ではない。


狭いことに変わりはない。


それでも、誰かが倒れた時に外へ運べる道ができた。


煙が寝床に戻りにくくなった。


荷で屋根が落ちる危険が減った。


調律核が黄色から青へ変わる。


《北側帆布小屋:仮宿呼吸図適用》


《火源:屋外火受け帯へ移動》


《支柱負荷:低下》


《通り帯:形成》


《赤床使用:停止》


《病人・幼児寝床:青床へ移動》


《煙滞留:低下傾向》


《倒壊リスク:低下》


リーネが、何度もその表示と現場を見比べていた。


「屋根の下を空けると、住む場所が減ると思っていました」


澪は言った。


「でも、通路がないと、住む場所ではなく詰め込む場所になります」


リーネは深く息を吐いた。


「その通りです」


***


だが、すべてが順調には進まなかった。


次に向かった東側の仮小屋では、住民がまったく動こうとしなかった。


理由は、荷物でも火でもない。


場所取りだった。


「ここは昨日からうちが取った場所だ!」


「青床だろうが黄床だろうが関係ない!」


「奥へ移されたら、配布が遅れる!」


「入口に近い方が食料をもらえる!」


澪は、その言葉で気づいた。


寝床の場所は、単なる寝る場所ではない。


食料列への近さ。


水への近さ。


出口への近さ。


見張りやすさ。


盗まれにくさ。


それらが全部絡んでいる。


青床へ移れと言っても、それが配布から遠い場所なら、人は動かない。


「寝床と配布の道もつながっている」


ライカが言った。


「うん」


澪は頷いた。


「住む場所だけ見ても駄目ですね」


セラフィナが記録する。


《寝床移動抵抗:発生》


《理由:配布地点距離/水場距離/荷物監視/出口近接》


《仮宿呼吸図:単独運用不十分》


リーネが困った顔をする。


「だから入口ばかり埋まるんです。奥は空いているように見えて、誰も行きたがらない」


ミルカが仮小屋の奥を見る。


「奥は空気が悪い。あと、床も少し下がってる。雨水が溜まる」


「つまり、本当に悪い場所ですね」


「うん」


ただのわがままではない。


奥に行かない理由がある。


それを無視して移動を命じれば、不信が生まれる。


澪は仮小屋の入口に立ち、全体を見た。


「入口に近い場所を、寝床にしない代わりに、受け取り口を増やします」


住民たちがざわつく。


「受け取り口?」


「食料や湯を入口だけで配らない。通り帯の先に小受け台を作ります。奥の人も、入口へ押し寄せなくていいように」


ノアが目を輝かせた。


「小受け台なら、湯気道の小籠で運べます!」


「はい」


澪は頷いた。


「入口を寝床にしない。その代わり、奥にも届く道を作る」


フィリアが続ける。


「病人や高齢者は、奥の青床でも食料を受け取れるようにします」


サヴィが言う。


「荷物は荷置き帯。でも見張りを置く。見えない場所に持っていかれたと思わせない」


マルセが小さく笑った。


「また札と番人か」


「必要です」


澪は答えた。


「人は、失うと思うと動けません」


東側仮小屋には、奥受け台が作られた。


入口。


中央通り帯。


奥受け台。


荷置き帯。


火受け帯。


水桶置き。


これで、入口を塞いでいた寝床の一部が動き始めた。


「奥でも食料が来るなら……」


「荷物に札があるなら……」


「通路があれば、夜に出られるなら……」


少しずつ。


本当に少しずつ。


赤床から黄床へ。


黄床から青床へ。


入口から中央へ。


荷物は荷置き帯へ。


人の不安を一つずつ減らさないと、寝床は動かない。


澪は改めて思った。


住まいは、ただ面積の問題ではない。


安心の問題だ。


調律核が青く光る。


《東側仮小屋:奥受け台形成》


《入口寝床:一部移動》


《通り帯:形成》


《荷置き帯:預かり札運用》


《寝床移動抵抗:低下傾向》


《仮宿呼吸図:更新》


「一つ進んだ」


ライカが言った。


「はい」


澪は頷く。


「でも、まだ外縁全体には足りません」


「知ってた」


***


夕方までに、外縁避難居住帯には、仮宿呼吸図が広がり始めた。


すべての小屋ではない。


北側帆布小屋。


東側仮小屋。


橋下から移ってきた家族の一角。


水上小屋から来た人々の一時寝床。


その程度だ。


けれど、赤床、黄床、青床の考え方は分かりやすかった。


通り帯を作る。


火は外の火受け帯へ。


荷物は荷置き帯へ。


病人と子どもは煙の来ない青床へ。


湿った床はすぐに寝床にしない。


奥にも食料の小受け台を作る。


線と札と絵板で、少しずつ説明していく。


調律核が青く光る。


《外縁避難居住帯:仮宿呼吸図 一部適用》


《青床/黄床/赤床:区分開始》


《通り帯:複数形成》


《火受け帯:屋外化》


《荷置き帯:預かり札運用》


《病人・幼児寝床:改善》


《煙滞留:一部低下》


《湿床使用:一部停止》


《条件候補:一部達成》


《屋根があっても、住める場所とは限らない》


リーネは、記録板を見ながら深く息を吐いた。


「住める場所にするには、屋根より先に線が必要だったんですね」


澪は頷いた。


「屋根は大事です。でも、屋根の下に何を置くか、どこを空けるか、火をどこへ出すか。それを決めないと、危険が屋根の下に集まります」


リーネは小さく笑った。


「屋根があるから安心、ではない」


「はい」


「でも、屋根がないよりはずっといい」


「だから、屋根を壊すのではなく、住める形にします」


その時、フィリアが一つの寝床のそばで眉をひそめた。


「この子、また熱が上がっています」


澪はすぐに近づいた。


橋下で温食を受け取っていた子どもだ。


外縁に移ってきたものの、夜の寒さと煙で体調が悪化したらしい。


母親は青床へ移されたばかりで、涙ぐんでいる。


「昨日より食べられたのに……」


フィリアが子どもの額に手を当てる。


「食べ物は入っています。でも、冷えと煙、それから……」


彼女は言葉を切り、寝床の外を見た。


小屋の裏。


人々が使っている簡易の汚れ場がある。


布で隠しているだけの場所。


そこから、嫌な匂いが風に乗って戻ってきていた。


ライカが顔をしかめる。


「これは、駄目な匂い」


ルシェリアも表情を硬くする。


「風向きが変わると、寝床へ戻ります」


ミルカが地面を見る。


「雨が降ったら、ここから水が流れて青床側へ来る」


調律核が赤く点滅した。


《外縁避難居住帯:新規異常》


《簡易汚れ場:寝床近接》


《風向変化時、臭気逆流》


《雨天時、汚水流入予測》


《青床・黄床への二次汚染リスク》


《疾病発生予測:上昇》


《次条件候補:寝床のそばに、汚れを置いてはいけない》


リーネの顔が青ざめた。


「そこまで、手が回っていませんでした……」


澪は調律核を見つめた。


屋根の下を整えた。


通路を作った。


火を外へ出した。


荷物を分けた。


寝床を青黄赤に分けた。


すると今度は、寝床の外に置かれた汚れが見えた。


住まいは、屋根と床だけではない。


眠る場所の近くに、何を置くか。


風がどちらへ流れるか。


雨が降った時、汚れがどこへ行くか。


それも、住める場所の一部だ。


ライカが小さく言った。


「次は、汚れ場?」


「はい」


澪は頷いた。


「寝床を守るには、汚れを置く場所も決めないといけません」


夕方の外縁避難居住帯で、仮の屋根が風に揺れている。


その下では、人々がようやく横になり始めていた。


けれど、そのすぐ外で、見えない汚れの流れが、次の病の入口を開こうとしていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


第61話から、第六部・外縁避難居住帯編が始まりました。


第五部では、下流交易都市リヴァールで食料の流れを調律しました。


倉庫にある麦を市場へ出し、粉にし、焼き、札で守り、列に来られない人へ届け、水と器を整え、赤水や食べ残しまで管理し、最後に道そのものを《通り分け》で整えました。


その結果、市場暴動予測は解除され、下流交易都市ヘックスの局所臨界は回避されました。


しかし、食料が届き始めたことで、次に見えてきたのは「住む場所」の問題です。


今回の条件は、


《屋根があっても、住める場所とは限らない》


でした。


外縁避難居住帯には、屋根らしきものはありました。


帆布。


板。


壊れた荷車。


空き倉庫。


古い荷置き場。


しかし、屋根があるだけでは、住める場所にはなりません。


床が湿っている。


煙がこもる。


通路がない。


荷物が梁に吊られすぎている。


火が寝床の近くにある。


病人や子どもが煙の来る場所に寝ている。


出口が荷物で塞がっている。


こうした状態では、屋根は安全ではなく、危険を閉じ込めるものになってしまいます。


そこで澪たちは、《仮宿呼吸図》を作りました。


寝床帯。


通り帯。


荷置き帯。


火受け帯。


湿り帯。


さらに、寝床を青床、黄床、赤床へ分けました。


青床は今夜寝られる場所。


黄床は板や藁などの処置をすれば使える場所。


赤床は湿り、煙、柱の危険があるため寝床にしない場所。


また、火は小屋の中ではなく、外の火受け帯へ移しました。


寒さ対策として、火そのものを中に持ち込むのではなく、温めた石や湯を寝床へ届ける方向にしました。


荷物も、通路や梁から動かすために、荷置き帯と預かり札を使いました。


人は荷物を失うと思うと動けません。


だから、ただ「どかせ」と言うのではなく、預かり札と荷置き番が必要になります。


今回の重要な点は、住まいは面積だけではない、ということです。


どこで眠るか。


どこを空けるか。


火をどこへ出すか。


荷物をどこへ置くか。


病人と子どもをどこへ移すか。


入口や奥の人にも食料が届くか。


それらが整って、初めて屋根の下は住める場所へ近づきます。


特に東側仮小屋では、入口付近から人が動こうとしませんでした。


理由は、食料列に近い、水場に近い、荷物を見張れる、出口に近いという安心があったからです。


単に奥へ移動させようとしても動きません。


そこで、奥受け台を作り、奥にも食料や湯が届くようにしました。


寝床の移動には、食料の道や荷物の安心も必要だったのです。


結果として、《仮宿呼吸図》は一部適用され、青床、黄床、赤床の区分、通り帯、屋外火受け帯、荷置き帯、病人・幼児寝床の改善が始まりました。


しかし、ラストでは新たな問題が見つかります。


寝床の近くにある簡易汚れ場です。


風向きが変わると臭気が寝床へ戻り、雨が降れば汚れた水が青床や黄床へ流れ込む危険があります。


次の条件候補は、


《寝床のそばに、汚れを置いてはいけない》


です。


次回は、避難居住帯の汚れ場、風向き、雨水、寝床との距離を扱います。


住まいを守るには、眠る場所だけでなく、汚れを置く場所まで調律しなければなりません。


原案・構想:マスター

物語構成・本文作成・文体調整:G(ChatGPT)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。